下着から始まる恋愛

歌龍吟伶

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後編※

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なゆが玄関を開け室内へ入ると、男も静かについてきた。 

バタリとドアが閉まり暗闇に包まれ、 

「「・・・」」 

暗い玄関内に沈黙が降りた。 

「電気、点けないのか?」 

男が小さな声で聞いてきたが、なゆは「恥ずかしいから点けない」と答えた。 

そして、 

「ぬ、脱がせられる?」 

男に尋ねる。 

男は無言でなゆへ手を伸ばしたが、やはり暗くて分かりづらいようでサワサワと彷徨っている。

なゆは、彼の手を握り自らスカートの中へ導いた。 

「こ、ここら辺」 

なゆは、自分が異常に興奮している事に気付いていた。 

(私、変だ。こんなの危ないのに。おかしいのに) 

あまり恐怖を感じず、なゆは暗闇の中に彼の存在を感じていた。

男がしゃがみ込む気配がする。 

そして、なゆの下着が脱がされた。 

「ねえ、」 

なゆは小さな声で男に話し掛ける。 

「ん?」 

「それ、どうするの?」 

匂いフェチとかそういうものだろうか? 

なゆには良く解らない。

男の回答は。

「匂いを嗅いだ後、」 

男の手がなゆの手を握る。 

そして、「こうするんだ」と言って自身の下半身へ導いた。 

「!!」 

男は、なゆのパンツを自身に被せているようだった。 

布越しとはいえ初めての感触、手のひらに伝わる熱。

なゆは、手を振りほどきはしなかった。 

いつのまにか男に抱きしめらながら彼のモノを握っている状態に。

男の手が、なゆの手を握ったまま動かされる。 

耳元で男の荒い呼吸を感じても、なゆは恐怖を感じなかった。 

むしろ、徐々に興奮していく。 

男の手の動きが激しくなってくると、時折頬や額に唇が押し当てられるように。

愛おしむかのように幾度もキスをくれる彼に、なゆはただ身を任せた。 

「っ・・・ぅ」 

男が小さく呻き、身を震わせる。 

「あ・・・」 

なゆは手のひらに、男の震えと熱が広がっていくのを感じた。

しばしの沈黙。 

なゆは、ぎゅっと抱きしめられていた。 

やがて、男がゆっくりと体を離す。 

「すまない」 

男の謝罪に、なゆは首を振る。 

そして、 

「いつも、自分でしてるんですか?」 

男の胸に顔を埋めつぶやいた。 

なゆの言葉に、男がため息混じりに答える。 

「ああ。すまんな、気味の悪い思いをさせて」 

「・・・いえ・・・」 

なゆは、男の服をぎゅっと掴んで離さない。

「・・・」 

男の手が、なゆの頬に添えられる。 

彼を見上げるなゆ。 

「これ以上、調子に乗らせないでくれ」 

沈痛な面持ちで絞り出すように言う男に、なゆは。

「・・・私を変にしたのは、貴方ですよ。責任、取ってください」 

そうつぶやき目を閉じる。 

「・・・」 

男の唇が、なゆの唇と重なった。

唇を通してほんのりと広がる体温、解け合うような口付け。

「・・・部屋、上がってください」 

なゆは男の手を握り、部屋へと招く。 

男は躊躇いを見せたが、なゆに潤んだ瞳で見上げられ室内へ足を踏み入れた。 


「・・・本当に、良いのか?」 

男は、なゆに手を引かれベッドに腰掛ける。 

そして、まだ躊躇っているようだったが、なゆが服を脱ぎ始めると自身も上着を脱いだ。 

全てを脱ぎ捨てた二人。 

恋人ではない、奇妙な関係。 

その事が逆に、二人を興奮させているようだった。 

「経験、無いから・・・乱暴にしないでね」 

なゆが男の手を握りそう言うと、 

「ああ、もちろん。だが、本当に良いのか?」 

男がもう一度問う。 

なゆは小さく頷く。 

「いいよ。 あ、名前・・・聞いて良い?」 

唯野明人ただの垢と」 

男は静かな声で答えた。 

「唯野さん」 

「明人と、呼んでくれないか?」 

「明人さん・・・」 

「君は?」 

「・・・なゆ」 

「なゆ、ちゃん」 

「呼び捨てで良い、なゆって呼んで」 

「なゆ・・・」 

そっと抱き合い、肌と肌を合わせる。 

カーテン越しに入ってくる街灯の明かりが室内を薄く照らすなか、二人の影がベッドに沈んでいった。

ベッドに倒れ込む二人。 

明人の唇が、なゆの首筋をなぞる。 

「ん・・・っ」 

なゆはくすぐったさに身をよじったが、そのまま身を任せる。 

彼の唇は、首筋から胸元へ、そして胸の先端へ。 

「あっ・・・」 

胸の先端を吸われ、なゆは小さく喘ぐ。 

「敏感だな」 

明人は、小さく笑いながら更に愛撫を繰り返していく。 

吸っては舐め、時折甘噛みをする。

その度に、なゆは甘く喘ぎ身をよじった。 

「なゆ、気持ちいいか?」 

「・・・うん」 

なゆは頷き、明人の顔に手を添える。 

そして、潤んだ瞳で続きを促した。 

「もっと、して?」 

「ああ」 

明人の指が、なゆの下半身へ伸びた。

経験がない体は、指の進入さえ拒もうとする。 

しかし、明人の気遣い溢れる愛撫はなゆの緊張をほぐしていった。 

明人が指を動かす度に、クチュクチュと音が響く。 

なんとか2本入るようになったところで、明人が身を起こしなゆに問いかけた。 

「入れて良いか?コンドームなら持ってる」 

「・・・うん」 

なゆが頷くと、明人は脱ぎ捨てたズボンをあさる。 

取り出された物を見て、なゆは小さく笑った。 

「用意周到だね」 

「・・・君が拒まないから、正直、期待してた」 

申し訳なさそうに苦笑する明人の言葉に、なゆは笑う。

「あははっ、ヤル気満々だったんだ」 

「すまん」 

避妊具を自身に装着し終えた明人は、再びなゆに覆い被さる。 

そして、 

「入れるぞ」 

ゆっくりと自身をあてがい、腰を進めた。 

しかし、 

「痛っ・・・い」 

なゆは激痛に顔をしかめる。 

「無理そうか?」 

「わかんない・・・けど、痛い」 

なゆがそう言うと、明人はしばし考え身を起こした。 

「なゆ、起きられるか?」 

「うん・・・?」 

なゆが体を起こすと、 

「跨ってくれ。そのほうが入りやすい」 

明人はなゆを抱き寄せた。 

なゆは言われるがまま、明人に跨る。 

明人は自身を手で支え、 

「腰、ゆっくり落として」 

そう促す。 

なゆは、ゆっくりと腰を落としていく。 

「・・・っ」 

抵抗感はあったが、痛みは先程より軽減された。 

なゆは体の中に明人の存在を感じ、不思議と満たされる思いだ。

ぎゅっと明人に抱きつくと、明人もしっかりと抱き返してくれる。 

「大丈夫か?」 

「うん」 

なゆが頷いたのを確認すると、明人は彼女の体を突き上げた。 

「あっ・・・!」 

僅かに悲鳴を上げたものの、なゆは止めてと言わない。 

明人は更に行為を続け何度も突き上げる。 

なゆはしばらくの間痛みと圧迫感に顔をしかめていたが、やがて動きがスムーズになっていくのを感じた。 

「平気になってきたかも」 

なゆがそう言うと明人は繋がったまま体を横たえなゆの体に覆い被さり、ゆっくり腰を動かす。 

「痛くないか?」 

「うん・・・入り口は痛かったけど、中は平気」 

挿入の瞬間は激痛が走ったが、根本まで入ってしまってからはあまり痛みを感じなかった。 

「じゃあ、もっと動いて良いか?」 

「うん」 

明人の動きが、徐々に激しさを増す。 

「あっ・・・あぁっ」 

「くっ・・・!」 

「あき、とさん・・・気持ち、良い?」 

荒くなる呼吸の合間になゆが訊ねると、 

「ああっ、気持ちいいよ・・・きつくて暖かくて」 

明人が興奮気味に答えた。 

その言葉に、なゆは満足げに微笑む。 

「嬉しい、もっと、好きにして良いよっ」 

「なゆ・・・なゆ!!」 

明人は激しくなゆの体を揺する。 

ベッドが軋み、二人の体を繋ぐ部分からは卑猥な音が響く。 

「っ、あ! はぁっ・・・明人さんっ」 

「なゆ、なゆっ・・・!」 

ひたすら名を呼び合う。 

名前以外何も知らない二人・・・今はただ、欲望をぶつけ合う。 

やがて絶頂が近付き、明人は一際激しくなゆの体を貫く。 

「ひっ・・・あ!」 

「っ・・・イくっ」 

明人の体が震える。 
二人は、血が止まりそうな程強く手を握り合った。 

明人はなゆに覆い被さり、絶頂の余韻に身を震わせる 

それを感じ、なゆは荒い呼吸の中幸せそうに微笑んでいた。

翌朝。 

明人はなゆに名刺を差し出した。 

そこには、IT会社社長と記されている。

「えっ、明人さんって社長なの?!」 

「まあな。表向きは立派な社会人に見られるが、この性癖のせいで女性と上手く付き合えなくてずっと独り身の寂しい40男だよ」 

「お金持ちなんだー。だからパンツたくさん買えたんだね」 

「ま、まあな」 

「どうやって買ったの?奥さんへのプレゼント的な?」 

「・・・恋人へのプレゼントと称して」 

「へぇ~」 

想像し、なゆは噴き出しす。

「ぷっ、あはははは! 明人さん、見た目は真面目な仕事人間なのに、めちゃくちゃ変態!!」 

ケラケラと笑うなゆ。 

明人は苦笑しながら彼女を抱きしめた。 

「なゆ、正式に交際を申し込んだら君は受けてくれるか?」 

「明人さん・・・」 

見つめ合う二人。 

なゆは、

「うん。 こんな変態さんに付き合える人なかなか居ないだろうし。私に任せて!」 

笑顔で頷いた。 

「ありがとう、なゆ。愛してる」 

明人は嬉しそうに微笑み、優しくなゆを抱きしめる。 

なゆも、彼の腕の中で嬉しそうに微笑んだ。
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