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あの娘が屋敷にやってきてしばらく経っても、私は娘を受け入れなかった。
一緒に暮らせば暮らすほど、娘の嫌なところばかり目に入る。趣味も好みも私とは合わず、苛立つようなことばかりしてくるのだ。
それにこの娘は夫やテオにはひどく愛想が良いというのに、私に対してはいつもおどおどしている。
腹が立って仕方ないが、その態度が夫とテオにはいじらしく見えるらしい。私が怖がらせているのが悪いのだと、あの娘ばかりを庇い立てる。
そんな私に媚を売りたいのか、ある日娘がリボンのかかった箱を渡してきた。
「あの、これ……今度のパーティにいかがでしょう? お気に召していただけると良いんですけれど……」
娘の隣では、夫とテオが微笑ましそうに見ている。
箱の中身は、宝石が散りばめられたネックレスだった。
デザインは悪くないし、パーティで着るドレスにも似合いそうではある。
でも、トップの石が気に入らない。私の嫌いな青色の、大粒のサファイアがあしらわれているのだ。
「あの……――」
娘はこちらを見ながら、相変わらずおどおどと反応を伺ってくる。それを見てか、夫とテオは二人して娘とネックレスを褒めちぎる。
「センスがいいだろう? 彼女は仕事柄、こういうのが得意だからさ」
「こういう豪奢なデザイン、君好みじゃないか。僕も衣装だけではなくて、新しい剣の装飾の注文を彼女にお願いしたところなんだ。衣装の出来栄えも文句なくてね……――」
ああ腹立たしい。二人とも私の嫌いな色すら覚えていない。それもこれも、全てこの娘が悪いのだ。
私は苛立ち紛れに、目の前のネックレスを床に投げつけた。
「――こんなもの、全く私の好みじゃないわ! パーティになんてつけていけるもんですか!」
しん、とその場が静まり返った後、娘はしくしくと涙を流し始めた。
「酷いじゃないか、母さん!」
「私、青は嫌いなのよ! だからサファイアなんてちっとも嬉しくないの!」
「ごっ、ごめんなさい……――私、存じ上げなくって……――」
娘は私に向かって頭を下げると、涙目で部屋から飛び出していった。
テオは私を睨みつけると、走ってあの娘の後を追っていく。
「君……いくら気に入らないからって、そこまでしなくて良いじゃないか」
「テオどころか、あなたもすっかりあの娘にたぶらかされてっ……!」
「失敬だな、人聞きの悪い」
夫は床に落ちたネックレスを拾いながら、それをしげしげと眺める。
「これはまた、ずいぶん良い石を使ってあるな……君のお気に入りの宝石商に、わざわざ頼んで作ったそうだよ。あそこは値が張るだろうに」
どうせテオにお金を出させたに決まっている。そもそも私の馴染みの宝石商が、あんな小娘などを相手にするわけがない。
「なんと言われようと、私はそんなものいらないわ。それよりも私、新しくダイヤのネックレスが欲しいの。頼んでも良いでしょう?」
「え、いやしかし君、この前も新しくこしらえただろう?」
「この前作ったのはエメラルドのネックレスよ! それにあなただって、新しく剣をお作りになるんでしょう?!」
「いやそれはほら、あの子は顔が広いしつても多いだろ? 一級品の素材を集めてくれるって言うもんだから、つい……」
またあの娘の話かと辟易して睨みつけると、夫は慌てて話を終わらせた。
「ま、まあいいんじゃないか、ダイヤモンドのネックレス。きっと君に似合うさ」
あの娘が来てからというもの、苛立つことばかりだ。
その苛立ちを解消するために、近頃は宝石商を呼びつけてばかりいる。
「ではこちらのペンダントはいかがでしょう? 希少な石が使われております」
「そうねえ……でも、ちょっと地味ね」
「左様でございますか……ではこちらの指輪はいかがでしょう? 品はかなり良いのですが、その代わりお値段も少々……」
宝石商は私の顔色を伺いながら失礼なことを言ってくる。宝石商ごときに懐具合を心配されるなんて。
「いくらでも構わないわよ、これをいただくわ。それから新しくネックレスもあつらえたいの」
苛立ちながら睨みつけると、宝石商はあわてて媚を売り始める。
「このお品をお選びになるとは、さすがお目が高い! かしこまりましてございます。それからネックレスでございますね、ではどのようなデザインにいたしましょうか……」
本当に、苛立つことばかり。
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