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テオの宣言をもって、私たちはあの娘を受け入れざるを得なくなった。
「お屋敷に一緒に住ませていただけるなんて……嬉しいわ。どうぞよろしくお願いいたします」
テオは式も終わらぬ前から、あの娘を屋敷に呼び寄せた。彼女の人となりを知れば、結婚に反対などしないはずだからと。
「こんな素敵なお屋敷に住めるなんて、私とっても嬉しいわ。住んでいらっしゃる方が立派だと、こんなふうに居心地が良くなるのですね」
「まあ! 今日のお義父さまのお召し物、なんてお似合いなんでしょう」
「テオさまからお聞きしたのですけれど、お庭の薔薇はお義父さまがお選びになったのですって? 私、あまりにきれいだから驚いてしまいました」
あの娘はわざとらしく褒めちぎり、見え見えの媚を売ってくる。
いつのまにか夫のことをお義父さまなどと呼び、まるでこの家の娘気分だ。
夫もすっかりたぶらかされて、近頃はよくあの娘のことを持ち上げる。
「やはり一緒に暮らしてみるものだね。なかなかすてきな子じゃないか」
「何言ってるのよ! あなたもテオもすっかり騙されて!」
私が詰め寄ると、夫は慌てて私をなだめた。
「まあまあ、そう怒らずに。君ももう少し落ち着いて、あの子とゆっくり話してごらんよ。君に嫌われているんじゃないかと、ずいぶん悩んでいたよ」
なんて嫌らしい娘だろう。私を悪者に仕立て上げるなんて。
「これを見てくれ、あの子が見立ててくれたんだ」
夫は嬉しそうに言いながら、地味で質素なカフスボタンを取り出してきた。
「なによこれ、石も何もついていないじゃないの」
「君は本当に宝石が好きだな。わからないかい? これは高名な職人が作ったもので……――」
夫は細部の作りがどうのこうのと、興味のないうんちくを語ってくる。
「君は金だの宝石だのと派手で値が張るものばかり愛でているが……たまにはこういう質の高いものも身につけてみたらどうだ?」
「何ですって? あなただって高価な衣装ばかりこしらえているくせに!」
「僕は素材と仕立てにこだわっているんだよ。ああそうだ、今度のパーティ用の衣装なんだけどね、あの子に見立てを頼んだんだ。あの人気の仕立て屋につてがあるそうでね……――」
夫は地味な装飾を好むから、昔から私とは趣味が合わない。地味なくせに高価ものなんて、私は少しも惹かれない。
せっかく夫が私の見立てを身につけてくれるようになってきたのに、あの娘のせいで台無しだ。
夫までたぶらかされて、ますますあの娘に苛立ちが募った。
けれどテオはことあるごとに、私にあの娘を認めさせようとする。
「――ほら、母さんも食べてごらんよ。このプティングは絶品なんだ。イザベラは料理もすごく上手なんだから」
「まあそんな、テオさまったら。お口に合って何よりですわ」
「このプティングに使われているブランデーもイチジクも、僕の大好物だしね。君の作る料理にはいつも僕の好きなものが使われているね。まさか君は、僕の好みを全て把握しているのかい?」
「ふふふ、偶然ですわ。テオさまのことを思いながら作っているから、自然とテオさまの好物ばかりになるのでしょう」
テオは好き嫌いが多く偏食家で、コックたちがいつも頭を悩ませているというのに。
夕食の席で、私はそのプティングにだけは口をつけずに席を立った。ブランデーの香りは好きではないし、イチジクの食感も大嫌いだ。
またある時は、あの娘との馴れ初めを嬉しそうに話してきた。
「――イザベラと初めて会ったのは、フィンの家だったんだ。ほら、僕の友人でノース家の次男の」
ノース家といえば名門中の名門だ。ノース家の娘を嫁に連れてくるなら、文句なんてなかったのに。
「御用聞きがあったとかでね、偶然ノース家に来ていたんだ」
「ふふ、懐かしい。あの時はあなたの愛馬が突然私のほうへ向かってくるのだがら、驚きましたわ」
「あいつは普段僕以外に懐かないのに、君を見た途端走り出すからびっくりしたよ。君の服を汚してしまってすまなかったね」
「いいえ、とんでもない。おかげであなたと知り合えたんですもの」
「それもそうだ。でも母さん、僕らはまさしく運命の相手なんだよ。あれからノース家で度々顔を合わせるようになったんだが、それだけじゃない。偶然街で出会ったり、行きつけの店で鉢合わせたり……まるで神様が僕らを引き合わせたみたいだろう?」
運命だなんて馬鹿馬鹿しい。
そんなことがあってたまるもんですか。
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