2 / 4
1.公爵令嬢
しおりを挟むそれは最後にして最幸の転生。
幼い頃はよくわからないまま姫様と呼ばれていたから、どこかの王国のお姫様だと思っていたけれど、どうやらこの世界では名家のご令嬢を姫様と呼んだりするらしい。
いわゆる王の娘という意味ではなかったけれど、貴族の中でも特に力のあるロレンス大公爵家の令嬢に転生。前の世界より明るく柔らかい空に見守られ、すくすくと育っていった。
公爵という立場であるお父様は厳しい人と有名だったけれど娘思いの優しい父で、公爵夫人として日々慈善活動に励むお母様も、父と仲が良くて私達の事をよく考え愛してくれる、尊敬できる母だった。
双子の妹、ローズは父様と母様は厳しくて欲しい物を買ってくれないとよく拗ねていたけれど、ひどい親を知っている私にとって、それが親の愛情だということを知っていたから苦に思う事はなくて、妹のわがままさえも可愛く思えた。
そう、あの兄貴を思ったら……ちょっと奔放でハッキリ物を言うタイプだけれど、まだ可愛い。ちょっとした憎まれ口もむくれ顔も、それが小悪魔的な魅力になって可愛らしく男女関わりなく人気があったから、私が舞踏会デビューで緊張した時も、学園に入って人見知りでなかなか友達が出来なかった時も、いつも側で助けてくれた。
“神様、ありがとうございます”
素晴らしい家族とお金に不自由なく好きな事ができる環境に、私は心から感謝していた。
それらは自力で手に入れられるものではない。
産まれた時に、すべて決められているという事を前世で身をもって経験したから。
そして、それさえあれば多少の苦難も試練も致命傷とはならず、必ず救いの手が差し伸べられるものだと、考えるようになっていた。
不条理で理不尽、でもそれが現実。
「リリー様は、素晴らしい御方ですわ。厳しいご令嬢教育にもめげずに挑戦なさって」
「私達使用人にも分け隔てなく優しくしてくださるもの。家柄だけでなく徳も備えていらっしゃるのね」
前世の記憶が保たれているのは、この為だったのかもしれない、とも思った。実際、皆が嫌がる所作のご教育も、頭に重い本を乗せて歩くのを嫌がる子が多いと聞いていたけれど苦労だとは思わなかったし、好きなだけ本を読む事も屋敷にいながら広い世界を知ることが出来て嬉しかった。
水仕事で手が荒れたメイドを見れば、涙が出るほどその痛さが身に沁みたし、人が人を使うなんて、本来あってはならないこと。
それだけが心の痛い事で、私にはどうする事もできない、心のどこかで責めていた傍観者でいるしか……ない事だった。
0
あなたにおすすめの小説
私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました
ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。
ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。
それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の
始まりでしかなかった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる