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第十一話
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玄関から入ってすぐの階段で二階に上がり案内された部屋に入る。
部屋は広く、揃いの文様が彫られた椅子が二脚とテーブル、大きめの箪笥があり、その上には振り子時計が置かれている。
壁際にはベッドが二つあった。
調度はどれも古く、使われた年月を示すように落ち着いた色をしている。
昼間にいた宿とは雲泥の差だった。
ルルススが手燭から燭台の蝋燭に火を灯して部屋が明るくなると、二人は安堵のため息をついた。
「ちょっと埃っぽいな。窓開けるぞ」
ルルススが了承するとコスティは荷物を置き、窓のカーテンを開ける。
ガラス窓の外では、地を全て覆ってしまいそうなほど強く雪が降っていた。
「珍しいな。春が近いのにこんなに雪が降るってのは」
言いながら鍵を外し、様子を見るように少しだけ片側の窓を開ける。
風もなく吹き込んでこないことがわかるともう片方の窓を開けた。
張り詰めるような冷たい空気が部屋に入り込み、蝋燭の火が揺れる。
今まで暖炉で暖められた部屋にいたからか余計に冷たく感じられた。
「……人が来ないってことなんだろうな」
窓を開けるのに手についた塵を払いながら、コスティは言う。
「有無を言わさず帰れ、だったからな。ジュラーヴリの生い立ちを考えると他人と関わるわけにはいかない、というのはわかったが……」
ルルススは悩むようにため息をつく。
「鳥の件に関係ないから言わなかっただけで、他にも色々と訳ありのようだ。山の中に隠棲していて、修道院に通いで仕事をする代書屋で、教会に伝手がある、とは。怪しいとしか言いようがない」
窓側のベッドに腰掛けながらルルススは言う。
「修道院に通いの仕事ってのは珍しいのか?」
「雑役ならばどこでも雇っているが、書庫に出入りする代書屋など聞いたことがない」
「なるほどな。元々ここにあのおっさんが住んでて、あとからジュラーヴリとその親父さんが来たって言い方だったよな」
ルルススが思案するように黙り込むと、コスティは疑念を吐き出すようにため息を吐く。
「ジュラーヴリがいた手前言えなかったけど。あいつがあんなに思い詰めてるってのを知っておきながら、今まで見てるだけだった訳だろ。大事にしてそうな割には片手落ちっつうかさ。事情があるにしたって冷たいよな。……とはいえ、お前の名前を探すためにも、乗ってみるしかねえんだけど」
「……そうだな」
ルルススが言い終えた瞬間に風が吹いて雪が吹き込み、コスティは慌てて窓を閉めた。
「……上手くいくといいよな」
コスティは呟くように言うと革の腰巻きを外し、空いているベッドに腰を下ろしてブーツを脱ぎ始める。
「ああ、上手くいくといいな」
ルルススは微かに微笑んだ。
「……寝たくない」
「駄目だ」
寝支度を整えながらも口をとがらせるコスティにルルススは言う。
「私のことは気にしないで、ゆっくり寝たまえ。昼間いた宿よりいい部屋だ。広いし、隙間風もない。ベッドも柔らかい」
「そりゃそうだけど、お前が起きてるってのに俺だけ寝るなんて……」
「私なら大丈夫だ」
コスティを安心させるようにルルススは先程よりも大げさな笑みを作ってみせる。
「いいから。横になって目を閉じて」
コスティはそれ以上強く言えないらしく、渋々といった様子で毛布に潜った。
「おやすみ、コスティ」
「……おやすみ」
ルルススはコスティに、一日の終わりを告げる言葉をかける。
それは二度目のことだった。
部屋は広く、揃いの文様が彫られた椅子が二脚とテーブル、大きめの箪笥があり、その上には振り子時計が置かれている。
壁際にはベッドが二つあった。
調度はどれも古く、使われた年月を示すように落ち着いた色をしている。
昼間にいた宿とは雲泥の差だった。
ルルススが手燭から燭台の蝋燭に火を灯して部屋が明るくなると、二人は安堵のため息をついた。
「ちょっと埃っぽいな。窓開けるぞ」
ルルススが了承するとコスティは荷物を置き、窓のカーテンを開ける。
ガラス窓の外では、地を全て覆ってしまいそうなほど強く雪が降っていた。
「珍しいな。春が近いのにこんなに雪が降るってのは」
言いながら鍵を外し、様子を見るように少しだけ片側の窓を開ける。
風もなく吹き込んでこないことがわかるともう片方の窓を開けた。
張り詰めるような冷たい空気が部屋に入り込み、蝋燭の火が揺れる。
今まで暖炉で暖められた部屋にいたからか余計に冷たく感じられた。
「……人が来ないってことなんだろうな」
窓を開けるのに手についた塵を払いながら、コスティは言う。
「有無を言わさず帰れ、だったからな。ジュラーヴリの生い立ちを考えると他人と関わるわけにはいかない、というのはわかったが……」
ルルススは悩むようにため息をつく。
「鳥の件に関係ないから言わなかっただけで、他にも色々と訳ありのようだ。山の中に隠棲していて、修道院に通いで仕事をする代書屋で、教会に伝手がある、とは。怪しいとしか言いようがない」
窓側のベッドに腰掛けながらルルススは言う。
「修道院に通いの仕事ってのは珍しいのか?」
「雑役ならばどこでも雇っているが、書庫に出入りする代書屋など聞いたことがない」
「なるほどな。元々ここにあのおっさんが住んでて、あとからジュラーヴリとその親父さんが来たって言い方だったよな」
ルルススが思案するように黙り込むと、コスティは疑念を吐き出すようにため息を吐く。
「ジュラーヴリがいた手前言えなかったけど。あいつがあんなに思い詰めてるってのを知っておきながら、今まで見てるだけだった訳だろ。大事にしてそうな割には片手落ちっつうかさ。事情があるにしたって冷たいよな。……とはいえ、お前の名前を探すためにも、乗ってみるしかねえんだけど」
「……そうだな」
ルルススが言い終えた瞬間に風が吹いて雪が吹き込み、コスティは慌てて窓を閉めた。
「……上手くいくといいよな」
コスティは呟くように言うと革の腰巻きを外し、空いているベッドに腰を下ろしてブーツを脱ぎ始める。
「ああ、上手くいくといいな」
ルルススは微かに微笑んだ。
「……寝たくない」
「駄目だ」
寝支度を整えながらも口をとがらせるコスティにルルススは言う。
「私のことは気にしないで、ゆっくり寝たまえ。昼間いた宿よりいい部屋だ。広いし、隙間風もない。ベッドも柔らかい」
「そりゃそうだけど、お前が起きてるってのに俺だけ寝るなんて……」
「私なら大丈夫だ」
コスティを安心させるようにルルススは先程よりも大げさな笑みを作ってみせる。
「いいから。横になって目を閉じて」
コスティはそれ以上強く言えないらしく、渋々といった様子で毛布に潜った。
「おやすみ、コスティ」
「……おやすみ」
ルルススはコスティに、一日の終わりを告げる言葉をかける。
それは二度目のことだった。
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