実験したら体も記憶も名前もなくしたので誰か私の存在を証明してください!

藤間背骨

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第二十七話

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 その後、ジュラーヴリが祝い事にはごちそうだと言い出し、アカートも同意したので買い出しに出かけ、料理を作ると夜中まで騒いだ。
 ジュラーヴリとアカートは酒を飲んで寝てしまい、クルキとコスティは簡単に後片付けをして客間に戻った。
 クルキは疲れた様子でベッドに腰掛ける。その隣にコスティも座った。

「大丈夫か? 無理はするなよ」
「…………」
「クルキ?」

 物憂げな顔をするクルキに、コスティが不安そうに名前を呼ぶ。

「どうした、調子が悪いのか?」
「……コスティは、その、これでいいのか」
「これでいいって、お前が名前を思い出した、それ以上のことがあるか?」
「そうではなくて……」

 ルルススは違うと首を振った。

「今の私は、君と一緒にいた頃の私とは違うだろう。顔も、髪も、全部……。それでも君は……」

 コスティはルルススの言葉を遮って抱きつき、二人はベッドに倒れ込む。

「顔も髪も違っても、お前はお前だ。俺はお前が好きだ。お前がどんな姿になっても、それは変わらない」
「コスティ……」

 言ったクルキの声は喜びに震えていた。コスティは答える代わりに、クルキを強く抱きしめる。もうそっと抱きしめなくていい。腕に返る、確かな感触を確かめながら。

「お前を離さない」
「私も、君から離れない」

 言うと、二人は静かに口づけをした。唇が触れ合うだけの軽い口づけ。

「……お前が欲しい」

 吐息混じりに耳元で囁かれた言葉に、クルキは体が熱くなるのを感じた。

「……私も。君の全てが欲しい」

 少しの恥じらいと共にもたらされた答え。
 その甘い言葉に理性など消え去った。
 深く口づけを交わし、コスティの舌がクルキの舌を絡め取る。
 舌を吸われ、歯列をなぞられ、肌よりも熱いもので互いの体温を感じ取る。
 角度を変えながら何度も口づけを交わし、息を継ぐことすらもどかしいと言うように、コスティはクルキの口内をかき回した。

「ん……っ」

 時折交じるクルキの声に自分の昂ぶりを抑えきれず、コスティはベストとシャツを脱ぎ、クルキの服に手をかける。
 乱された服の合間から白い肌が覗き、その全てを求めるように口づけを降らせていく。
 そして口づけだけでは足りないと柔らかな肌に舌を這わせた。

「あっ、ん……っ」

 クルキの下衣を脱がすと昂ぶった陰茎が顕になる。
 初めて他人に触れられ、クルキは甘い声を漏らした。
 自らの愛撫でクルキが感じていることに喜びを感じながら、コスティはゆるゆるとそれを扱く。

「ん、あっ……」

 陰茎を扱かれながら胸の突起を舌で弄ばれ、強い刺激に体が逃げそうになるのをコスティのがっしりとした手で引き寄せられる。
 行き場のない手でコスティの体を掻き抱くと、それに応えるように愛撫が激しくなった。
 優しい手つきで扱かれ、先走りでくちゅくちゅと音が立つと気恥ずかしくて顔を背けるが、それを追いかけるようにコスティが唇を求める。

「んんっ……!」

 一層強く扱かれて体を震わせてクルキがコスティの手の中に精を吐き出すと唇が離れた。

「気持ちよかった……?」

 真っ直ぐに視線を合わせて聞かれた問いに、クルキは顔を赤く染めながら頷く。

「よかった」

 コスティはクルキを愛おしそうに抱いてから、クルキの足を開くと精で濡れた指を後孔に宛てがう。

「指、入れるぞ」
「あ、あぁっ」

 体内に指が侵入する初めての感覚にクルキは声を上げる。

「息を吐いて」

 コスティの言うとおりに息を吐く。余計な力が抜け、少しだが違和感が和らいだような気がした。

「無理なら無理って……」
「平気、だ……っ」

 クルキが答えると指がゆっくりと動き出した。

「う、んっ……」

 体内を探るように指を動かされ、壁を擦られる度に思わず声が漏れる。

「その声……」
「え……?」

 突然の言葉にクルキはコスティを見上げる。若緑の瞳と視線が交差する。

「声も、顔も、体も、髪も、目の色も……。全部、好きだ」
「コスティ……っ」

 空いた手を体に這わせながらコスティが口にすると、クルキは恥ずかしそうに視線をそらす。

「髪も柔らかくて綺麗だし、体も……」
「やめてくれ、恥ずかし、い……」
「お前が好きなんだ」
「んん……っ!」

 言葉とともに内壁を擦り上げられ、今までにない感覚が体を駆け抜けるのを感じて体が反応する。

「次、入れるから」
「あっ、んぅ……」

 二本目の指が体内に入り込むと同時に陰茎を扱かれ喘ぐと、コスティは満足そうに目を細める。
 自身の息遣いの合間に濡れた水音が響く。
 体内を丁寧に解すように動く指は、段々と未知の快感を生み出し始めていた。

「コス、ティ……」
「どうした?」

 クルキは喘ぎを漏らしながらもコスティの名を呼んで手を伸ばす。
 コスティが体を近づけるとその体を抱きしめ、耳元で囁く。

「早く……、君が欲しい」
「っ……」

 その言葉に、初めてだから傷つけないようにという気持ちも消し飛んだ。

「言ったのはお前だからな」

 コスティは耳元で囁き返し、指を抜くと下衣を脱ぐ。
 下衣で押さえつけられていた陰茎は今にも弾けそうなほどに固くなっていた。

「入れるぞ」
「あ、あぁ……っ!」

 先走りで濡れた、指よりも大きいものに貫かれてクルキは大きく喘ぐ。

「すごい……、気持ちいい」
「ほん、とうに……?」
「本当、だ……っ」

 自分の体でコスティが快楽を得ていることに安堵し、クルキも快楽に身を任せる。

「んっ、ああっ……、コスティ……!」

 今まで近くにいられなかった分、心も体も繋がっていることが嬉しい。
 体の全てで互いを貪欲に求め、これが嘘偽りではないと確かめる。

「ずっと……」
「ん……?」
「ずっと、こうしたいと思ってた」

 クルキが村を離れてから己の抱えていた思いに気付き、再び会える日をずっと待っていた。
 村を出てから旅をしても、どこかで彼に会えるのではと思わずにはいられなかった。
 友がどこにいるのかさえ知らなかったが、それでも。
 ルルススと名乗る青年と出会い、いつも張り詰めた顔をしている彼の力になりたかった。
 魔法が使えるわけでもない自分が彼の笑顔を見ることを願っていた。
 どうすれば彼の名前を見つけられるのかわからなかったが、それでも。
 関係ないと思っていた二つの線が絡み合い、今自分と繋がっている。

「お前がお前で、よかった」

 好きだという思いを込めて、コスティはクルキに口づける。

「コ、スティ……」

 熱いものを体内に感じながら、クルキは快感に痺れた頭でコスティを見つめる。
 薄紅色のくせっ毛。若緑の瞳。
 がっしりとした体に大きい手。
 少し高めの声。
 自分が絶望の淵に立つとき、いつも隣にいてくれたのが彼だ。
 両親を失い、ずっと一人で生きていく寂しさに打ちひしがれていたときも。
 冒険で石を見つけた帰り、狼に襲われ傷を追ったときも。
 名前を失い、手がかりのないままいずれ消え去る道を歩んでいたときも。
 いつでも側にいて名前を呼んでくれた。その彼と一つになっている。

「コスティ、すきだ」
「クルキ……っ」

 クルキの名を呼びコスティが体内に精を吐き出す。腹の中に熱いものを感じ、それに応えるようにクルキも達した。



 ベッドの中で二人は体を寄せ合い余韻に浸っていた。

「体、大丈夫か」

 コスティがクルキのことを案じると、ぼうとしながらもクルキは頷く。

「もう眠ろう。食べて、騒いで……。疲れてしまった」
「ああ、そうしよう。今度は一緒に寝られるな」

 嬉しそうに微笑むコスティに、クルキも笑い返す。

 ただ徒に時間が過ぎるのを待つ夜ではない。夢を見ながら眠る夜だ。

「おやすみ、クルキ」
「おやすみ、コスティ」

 二人は互いに、一日の終わりを告げる言葉をかけた。

 それは、数年の時を経た再びであり、初めてのことだった。



 二人はそれから三日間アカートの家に泊まり、クルキも体に慣れた頃合いを見て出発することにした。
 コスティの故郷に、そして、クルキの第二の故郷でもある村に向けて。
 あれ以来、毎日のように降っていた雪は降らなくなり、雲ひとつない空が続いていた。
 それは二人の旅路を祝福するかのようだった。
 街道に向かう岐路に立ち、別れの挨拶を交わす。

「クルキさんとコスティさんのおかげです。最後に、父上にお別れを言うことができました。二人とも、お元気で」
「ああ。君も元気で。またここに来よう」
「またな。元気でやれよ」

 二人の言葉に頷くジュラーヴリの姿は、初めて会ったときより一回りも二回りも成長しているような気がした。

「餞別と言ってはなんだが。コスティ、お前にはこれを」

 勿体ぶるようにアカートは咳払いをすると、小さな木箱を取り出した。

「これは……?」

 促されるまま木箱を開けると、見覚えのある杯が中に収まっていた。

「い、いいのか? こんなもの……」
「一番頑張ったのはお前だろう。こういうのはありがたく受け取っておくもんだ」
「……わかった。ありがとな」

 コスティは礼を言うと、木箱を大事そうに鞄にしまった。

「クルキ。お前にはこれだ」

 アカートはクルキに手を出すよう促すと、その手に袋を握らせた。クルキは袋の中身を見る。
 全てを繋いだ薔薇色の石が、そこにはあった。

「元はお前のものだろう。もう手放すなよ」

 クルキは隣のコスティを見て、それからアカートに向かって頷いた。

「それから、他の場所にアリウス・イビ、という言葉を贈ろう」

「他の場所……?」

 ルルススが繰り返すと、アカートは頷く。

「お前がこの世にいる証はお前以外の他の場所にあり、その証明も自分以外の他者によって為されるってことだ。自分を証明してくれる奴がいることを、幸せに思えよ」

「……はい!」

アカートの言葉に、クルキは強く頷いた。

 互いに固い握手を交わし、クルキとコスティは道を歩き出す。

「私、旅に出ます! 父上の飛んでいた空を見に行きます!」
「何言ってんだ突然!」

 ジュラーヴリが手を振りながら二人の背中に叫んだ。アカートが慌てて何かを言っている中、コスティは頑張れよ、と返した。

 柔らかい日差しの中、二人は笑い合いながら道を行く。

「コスティ、手を握って」

 言いながらクルキが手を差し出す。

 その手は硬く冷たい篭手ではなく、暖かく、柔らかな手だった。

 コスティはそっと手を絡ませる。

「君が助けた人間の手だ。……ずっと、握っていてほしい」
「ああ。ずっと離さない」

 長い長い冬が終わり、二人は春に向かって歩いてゆく。



 ――私の不在証明はここに。
 ――私の存在証明もまた、ここに。



 完
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