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第十四話
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背筋を冷たいものが這う。
先程も感じた悪魔の気配。
あまりに強力な故にどこにいるかはすぐにわかる。
その上、コスティは悪魔の本能に従ってクルキ、アカート、イングヴァルを殺そうと近付いてきているのだ。
先程コスティと出会った地点から拠点を結んだ直線上にいると考えた。
その予想は的中し、丁度半分ほどの場所にコスティの姿があった。
木が途切れて一本の道になっているところを進んでいた。
辺りは黒い雪で染められて異様な光景が広がっている。
遠くに見えるコスティの姿はさっき見たものと変わらない。
黒い雪の降る中、腹には深々と木の枝が刺さったままで足を引きずって斜面を降りている。
手には悪魔の授けた銃が握られていた。銃を持つ力もないのか引きずっている。
「本当に大丈夫なんだろうな」
岩陰から様子を窺いながらアカートが問う。反対側の岩陰にはイングヴァルが隠れていた。
「私の推論が正しいことを祈って下さい」
「だから、その推論ってのを話せってんだよ」
「い、いえ、この作戦は私だけが知っていればいいんです。悪魔は賢いでしょう。何かの術で思考を読まれるかもしれません」
「俺たちの命がかかってんだぞ」
「し、静かに。気取られます」
推論は恐らく当たっている。しかし、当たっているからこそ言えるわけがない。
クルキは会話を打ち切った。
クルキの手には金の光を放つメダルが握られている。"汝に罪はなし、魂は解き放たれん"とクルキが書き込んで属性付与を施したものだ。
人の気配を感じ取ったのか、コスティは足を止めて辺りを見回した。しかし、またこちらに向けて歩き出す。
悪魔の力によって人の気配はわかるが、身体が人間である以上目視できなければ攻撃のしようがないのだろう。銃による点での攻撃は精度を要求される。見えない的には当てようがない。
直視できないほど痛々しいコスティの姿に耐えつつ、彼が近付くのを待つ。
百歩ほどの距離に近付き、クルキはイングヴァルのほうを見る。
イングヴァルはクルキと視線を合わせて頷いた。
クルキは指を三本立て、三、二、一、と指折り数える。
そしてクルキとイングヴァルは同時に岩陰から飛び出した。
気付いたコスティも引きずっていた銃を持って構える。
イングヴァルが地面を踏むと、道を狭めるように両脇に氷柱がせり上がりコスティのほうに向かっていく。
クルキは氷柱の間を駆け出した。
的は一つだ。撃てるものなら撃ってみろ。
クルキには確信があった。
コスティの弾は絶対に当たらない。
しかしコスティは銃を構えたままだ。
火薬の爆ぜる甲高い音が響く。
放たれた弾丸は薄紅色の光の尾を引きながら氷柱に向かって突き進む。
弾は氷柱に当たって氷柱を崩していく。
コスティは撃った反動で大きくのけぞった。
しかし、一発撃った。
彼が二発目を撃つまでに近付ける――。
そう思った瞬間だった。
コスティが銃を下ろすと手を銃の機関部に伸ばし、何かを引くような動作をした。銃から何か小さいものが飛び出し、そしてまた銃を構えなおす。
嫌な予感がする。
再び甲高い銃声が響いた。
連射が可能な銃だというのか。
しかし、コスティの放った弾丸は再び軌道を曲げて残った氷柱に向かった。
コスティの腕は銃の反動を受け止めきれずにあらぬ方向に曲がった。骨の折れる痛々しい音がする。
それでも彼は銃を構えなおす。また右手が何かの操作をする。
しかしその隙にクルキはコスティの元まで肉薄していた。
大きく踏み込み、全身をばねにして残りの距離を跳躍で詰める。
飛んでいる瞬間は動けない。いい的だろう。
コスティの銃口はクルキの動きに追従する。
しかし引き金は引かれない。
ああ、絶対に彼は引き金を引けない。
「コスティ、今助ける!」
クルキは銃の砲身を掴んで払い、コスティを押し倒すように着地する。
地面に倒れこんだコスティの額にメダルを押し付けた。
コスティは苦しむようにもがいた。しかしその動きすら弱弱しい。
「"汝に罪はなし、魂は解き放たれん"――!」
「う、あ、ああぁ……っ!」
そう高らかに宣言するとコスティは呻き声を上げる。
そしてコスティの体から黒い霧が溢れだした。
黒い霧は空中で一か所に集まり悪魔の形を象っていく。
半透明になった体の中で、どくどくと脈打つ心臓だけが実体を持っていた。
「今だ……!」
剣を抜いて駆け寄ったイングヴァルは、その刀身に冷気を纏わせて悪魔の心臓を真っ二つに切った。
黒い霧は霧散し、両断されて動かなくなった心臓は雪に落ちる。
悪魔が消え去り、再び白い雪が舞い降りてきた。
それが全ての終わりを示していた。
事が終わったのを確認したアカートが駆け寄ってきて、気を失ったコスティに応急措置をする。
「すごいね。本当に彼は君だけを撃たなかった」
イングヴァルはクルキに言う。
「ええ。彼が願ったのは私を守る力です。だから、私だけを撃てなかった。……彼は優しすぎます。こんな体になっても、私を守ることを考えるなんて」
先程も感じた悪魔の気配。
あまりに強力な故にどこにいるかはすぐにわかる。
その上、コスティは悪魔の本能に従ってクルキ、アカート、イングヴァルを殺そうと近付いてきているのだ。
先程コスティと出会った地点から拠点を結んだ直線上にいると考えた。
その予想は的中し、丁度半分ほどの場所にコスティの姿があった。
木が途切れて一本の道になっているところを進んでいた。
辺りは黒い雪で染められて異様な光景が広がっている。
遠くに見えるコスティの姿はさっき見たものと変わらない。
黒い雪の降る中、腹には深々と木の枝が刺さったままで足を引きずって斜面を降りている。
手には悪魔の授けた銃が握られていた。銃を持つ力もないのか引きずっている。
「本当に大丈夫なんだろうな」
岩陰から様子を窺いながらアカートが問う。反対側の岩陰にはイングヴァルが隠れていた。
「私の推論が正しいことを祈って下さい」
「だから、その推論ってのを話せってんだよ」
「い、いえ、この作戦は私だけが知っていればいいんです。悪魔は賢いでしょう。何かの術で思考を読まれるかもしれません」
「俺たちの命がかかってんだぞ」
「し、静かに。気取られます」
推論は恐らく当たっている。しかし、当たっているからこそ言えるわけがない。
クルキは会話を打ち切った。
クルキの手には金の光を放つメダルが握られている。"汝に罪はなし、魂は解き放たれん"とクルキが書き込んで属性付与を施したものだ。
人の気配を感じ取ったのか、コスティは足を止めて辺りを見回した。しかし、またこちらに向けて歩き出す。
悪魔の力によって人の気配はわかるが、身体が人間である以上目視できなければ攻撃のしようがないのだろう。銃による点での攻撃は精度を要求される。見えない的には当てようがない。
直視できないほど痛々しいコスティの姿に耐えつつ、彼が近付くのを待つ。
百歩ほどの距離に近付き、クルキはイングヴァルのほうを見る。
イングヴァルはクルキと視線を合わせて頷いた。
クルキは指を三本立て、三、二、一、と指折り数える。
そしてクルキとイングヴァルは同時に岩陰から飛び出した。
気付いたコスティも引きずっていた銃を持って構える。
イングヴァルが地面を踏むと、道を狭めるように両脇に氷柱がせり上がりコスティのほうに向かっていく。
クルキは氷柱の間を駆け出した。
的は一つだ。撃てるものなら撃ってみろ。
クルキには確信があった。
コスティの弾は絶対に当たらない。
しかしコスティは銃を構えたままだ。
火薬の爆ぜる甲高い音が響く。
放たれた弾丸は薄紅色の光の尾を引きながら氷柱に向かって突き進む。
弾は氷柱に当たって氷柱を崩していく。
コスティは撃った反動で大きくのけぞった。
しかし、一発撃った。
彼が二発目を撃つまでに近付ける――。
そう思った瞬間だった。
コスティが銃を下ろすと手を銃の機関部に伸ばし、何かを引くような動作をした。銃から何か小さいものが飛び出し、そしてまた銃を構えなおす。
嫌な予感がする。
再び甲高い銃声が響いた。
連射が可能な銃だというのか。
しかし、コスティの放った弾丸は再び軌道を曲げて残った氷柱に向かった。
コスティの腕は銃の反動を受け止めきれずにあらぬ方向に曲がった。骨の折れる痛々しい音がする。
それでも彼は銃を構えなおす。また右手が何かの操作をする。
しかしその隙にクルキはコスティの元まで肉薄していた。
大きく踏み込み、全身をばねにして残りの距離を跳躍で詰める。
飛んでいる瞬間は動けない。いい的だろう。
コスティの銃口はクルキの動きに追従する。
しかし引き金は引かれない。
ああ、絶対に彼は引き金を引けない。
「コスティ、今助ける!」
クルキは銃の砲身を掴んで払い、コスティを押し倒すように着地する。
地面に倒れこんだコスティの額にメダルを押し付けた。
コスティは苦しむようにもがいた。しかしその動きすら弱弱しい。
「"汝に罪はなし、魂は解き放たれん"――!」
「う、あ、ああぁ……っ!」
そう高らかに宣言するとコスティは呻き声を上げる。
そしてコスティの体から黒い霧が溢れだした。
黒い霧は空中で一か所に集まり悪魔の形を象っていく。
半透明になった体の中で、どくどくと脈打つ心臓だけが実体を持っていた。
「今だ……!」
剣を抜いて駆け寄ったイングヴァルは、その刀身に冷気を纏わせて悪魔の心臓を真っ二つに切った。
黒い霧は霧散し、両断されて動かなくなった心臓は雪に落ちる。
悪魔が消え去り、再び白い雪が舞い降りてきた。
それが全ての終わりを示していた。
事が終わったのを確認したアカートが駆け寄ってきて、気を失ったコスティに応急措置をする。
「すごいね。本当に彼は君だけを撃たなかった」
イングヴァルはクルキに言う。
「ええ。彼が願ったのは私を守る力です。だから、私だけを撃てなかった。……彼は優しすぎます。こんな体になっても、私を守ることを考えるなんて」
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