君が願うこと、私が願うこと

藤間背骨

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第十七話

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 コスティは自分の部屋で銃を構えていた。
 肩に銃床を当てて銃身を手に持つ。
 弾が入っていないので引き金も引ける。引き金を引くと内部で機構が作動する確かな手応えがある。
 右手で操作棒を起こして引くと、薬莢の排出と次弾の装填が行われるという仕組みだ。この動作をばねだけで可能にしている。なんと洗練された設計だろうか。
 魔法を使えない自分が初めて手に入れた特別な力。
 そう惚れ惚れしていると、控えめなノックにコスティは顔を上げる。
 手に持って眺めていた銃を壁に立てかけて戸を開けると、そこにはクルキが心配そうな顔をして立っていた。

「どうした、急に……」
「いや、君は夕食を食べてすぐ部屋に戻ったから、まだ具合が悪いのかと思って様子を見に来たんだ」
「ぜ、全然そんなことない! ちょっと痛いくらいだし何も問題ねえよ」

 言えなかった。今まで銃を玩具代わりにしていたなんて。

「本当に?」

 言いながらクルキは疑いの目を向ける。 

「戸をちょっと開けたら君が銃を構えてにやにやしているのが見えたぞ」
「にやにやはしてねえよ!」
「嘘だ。盗み見なんかするものか。……銃で遊んでいたのは認めるんだな」

 不貞腐れながらクルキは一歩、また一歩と進んでコスティを追い詰める。そしてベッドまで追い詰めてコスティを座らせると、自分もその隣に座った。そして何も言わずにコスティに抱きつく。

「な、何だよ」

 言いながらクルキの頭を撫でる。

「わ、私がどれだけ心配したかも知らないで……。そんな変なものと……」
「何だよ、嫉妬してるのか」
「してない」

 拗ねた子供のように言ってクルキはぎゅっと抱く力を強くする。

「……本当に心配なんだ。君が突然強い力を手に入れたから。君が遠くに行ってしまいそうで」

 クルキは不安げな声でそう言った。

「そんなことはねえよ。あの銃がなかったら俺はただの人間だぞ。それに、何でもかんでも弓より銃のほうが上って話でもねえからな。一長一短だ」

 言いながら壁に立てかけた銃を見る。

「でも……」
「クルキ、こっち見てくれ」

 言ってクルキを引きはがす。
 クルキは遠慮がちに視線を合わせた。

「俺は確かに強い力ってのを得たのかもしれない。でもな、正気に返って、あの銃を見て思ったんだ。俺の望んでいたのはもっと違うものだって」
「違うもの……?」
「ああ」

 クルキに言い含めるように頷いた。

「お前に矢が当たって怪我させてから、俺はずっと一人で考え込んでた。その間、お前に心配かけたよな。それは俺一人で何とかしようと思ってたからだ。自分さえどうにかなればって、自分にもっと強い力さえあればって思った。だから悪魔はあの銃を俺にくれた。でも、そうじゃないんだ」

 コスティはクルキの手を握った。

「目の前にお前がいるんだから、もっと話し合えばよかったんだ。俺一人で悩んでないで、お前と二人で解決しなくちゃいけない問題だったんだよ」

 そう言って今度はコスティのほうからクルキを抱きしめた。

「俺はもう絶対にお前を泣かせたりしない。何があってもお前と一緒にいる。どんなことがあっても二人で話して、一緒に解決していこう。な?」
「わかった。約束だ。ずっと一緒にいよう」

 コスティの言葉にクルキは頷いた。

「ああ、約束だ」

 そう言ってクルキの額に軽い口付けをする。

「……それだけか……?」

 物足りない、というようにクルキが不満の声を漏らした。
 何が不満だ、と思った瞬間にクルキが顔を近付けて唇同士が触れる。
 触れるだけではない、クルキの舌が口の中に入り込んで舌を絡ませてきた。

「ん、っ……」

 いつになく積極的な様子にコスティは戸惑うも、クルキの舌は止まらない。

「おい……っ」

 コスティは口が離れた隙にクルキを止めようとする。しかしまた唇に遮られる。
 唾液が口から零れるのも気にしないで、満足に息ができないほど互いの口の中を味わいつくした。

「どうした、急に……」

 その一言はコスティの絞りだした理性だった。
 止まるならここだぞ、という一線である。

「き、君はさっき、話して解決すると言っただろう……」

 クルキは恥ずかしさからか、息が上がったからか、顔を真っ赤にしてコスティをベッドに押し倒し、自身もベッドに手をついてコスティの上に覆いかぶさるようにする。

「前から思っていたんだ。君は……、遠慮しすぎだ」
「遠慮……って」
「わからないか……?」

 コスティとてここまでされてわからないほど馬鹿ではない。
 しかし、頭の中で今ここで事に及んでいいのかとよくわからない算盤を弾いている自分がいるのだ。

「私だって、欲がないわけではないんだぞ……。もっと、君が欲しい」

 視線を合わせ、クルキはねだるような目でそう言った。
 想い人にそんなことを言われて、周りに音が聞こえないかとか、他の部屋には人がいるとか、そんな心配事は消え失せてしまった。

「言ったな」

 クルキを抱き寄せ、その耳元で囁く。
 耳に息が届いてクルキの体がびくりと震えた。

「……後悔するなよ」

 返事を聞く前にコスティは動いた。
 クルキの体を抱き上げてベッドの上に乗せて、彼の服を脱がしにかかる。
 黒い上着のボタンをもどかしく思いながら外して、その下のシャツも脱がすと白く柔らかな肌が露わになった。
 下履きの上からわかるくらいクルキのものは膨らんでいた。欲望に任せて下履きも下着ごと脱がせるとクルキは一糸纏わぬ姿になった。
 そのしなやかな肢体を見たら、もう何も考えられない。
 そう思いながらコスティは自分の服も脱ぎ捨てた。服が床に落ちるのを気にする余裕など残っていない。
 クルキの顔に両手を添えて、また深く口付けを交わす。
 今度はコスティのほうからクルキの口の中を犯していく。角度を変えて何度も、舌を絡めて味わいつくすように。

「んっ……、んぅ……」

 クルキももっとと欲しがるようにコスティの体を抱いた。
 唇を離すと、今度は首筋、胸と舌を這わせて、時には吸いついて痕を残していく。愛の証と示すかのように。
 クルキの体を確かめるように撫で、やがてクルキのいきり立った陰茎に手が伸びる。

「あっ……」

 触れるとクルキは快楽に濡れた声を漏らす。その声を聞くだけでコスティの陰茎もどくりと脈打つ。
 クルキの陰茎をゆるゆると刺激しながら首筋を舐める。

「やっ、そこ……っ」

 どこを気持ちいいと感じるかなんて知り尽くしている。
 クルキは快楽から逃げるように体をよじるも、コスティに馬乗りにされていては逃げ場がない。ただ与えられる快楽を受け止めるしかできなかった。

 「あ、コス、ティ……っ」

 二人は何度も体を重ねたものの、クルキから誘うのは数回だった。自分から誘うなんて顔から火が出るほど恥ずかしくて、でもコスティのたくましい体つきを見ていたり、そっと抱きしめられたりすると彼が欲しくなってしまう。
 でもコスティはどこか遠慮しているようで、クルキは毎日体を重ねたっていいくらいなのだが、週に一、二回くらいしか誘ってこない。
 彼だってまだ二十一歳、クルキと同い年だ。そういう欲だってあるはずなのだ。
 それがちゃんと口にして誘っただけでこの有様だ。いつもより激しい抱かれ方に戸惑いはするものの、彼に求められているのだと思うと嫌ではなかった。
 コスティの手で責め立てられ、とろりとあふれる先走りでくちゅくちゅと淫猥な音がする。

「んっ、あああっ……!」

 一層強く扱かれて、クルキは体をびくびくと体を震わせて絶頂を迎えた。
 コスティはそれで体を起こすと、自分の手に放たれたクルキの白濁を眺めていた。

「いっぱい出たな」
「み、見るな、そんなもの……」

 この一週間、クルキはずっとコスティのそばで彼が目覚めるのを待っていた。
 毎日体を拭いてやって、その度に気が昂って自分を慰めていたというのに、いっぱい出たなどと言われてはどんな顔をしたらいいのかわからない。
 自分はそんなに淫らな人間だったかと恥ずかしくなる。
 コスティはクルキの体を横に向けると、背中から抱くように彼の隣に寝そべった。
 固いものがクルキの腰に当たる。
 そして、コスティは白濁に塗れた手でクルキの後孔に触れた。

「ん、ぅ……っ」

 揉み解すように後孔を触られると意に反して後孔がひくついてしまう。そして、白濁に濡れた指はするりと中に入り込んだ。

「ああっ……」

 いつもだったら入れていいかと聞いてくれる。なのに、今はそうしてくれない。それほどまでに飢えているのだろうか。
 肉をかき分けて根元まで入った指は、体の中を探るように動いた。
 そしてコスティの指は薄い肉越しに少しだけ硬くなったところを簡単に探り当てた。

「……ここ、だよな?」
「あ、ああっ……ぅっ」

 甘く感じるところを刺激されてクルキは声を上げる。
 もう片方の手は前に伸びて再び陰茎を扱いている。
 前と後ろと同時に与えられる快楽で頭がおかしくなりそうだ。
 そしてすぐに二本目の指が後孔に滑り込む。
 いつもだったら焦らしすぎと感じるくらいにゆっくり慣らしてくれる。やはり今日のコスティは変だと思いつつも、快楽には抗えない。それに、自分の体も二本の指を難なく飲み込んでいる。腹の中でばらばらに動かされてとろけそうだ。

「あ、コスティ……っ」

 達しそうになったところで、不意に指が引き抜かれた。指が後孔を通り抜ける刺激に小さく喘ぐ。

「ごめん、我慢、できない……っ」

 コスティは荒い息をしながらそう言って起き上がり、クルキを仰向けにさせた。
 クルキは膝立ちになったコスティを見上げ、コスティのものを見て驚く。心なしか、いつもより大きい気がする。

「もう、入れるから……」

 言ってコスティはクルキの足を持ち上げて受け入れられる体勢を取らせた。そして後孔に先走りで濡れた自分のものをあてがい、一気に奥まで入れる。

「ああああっ……!」

 コスティの太いものを挿入されただけでクルキはまた絶頂を迎えた。中で達するのと同時に陰茎から白濁を吐き出す。

「クルキの中、すげえ、気持ちいい……」
「い、言うな……っ」

 そんなことをいちいち言われたら耐えられない。どこかに隠れたくなってしまう。
 コスティが腰を動かし始めて、結合部から濡れた音が響く。

「あっ、や、だ……っ、そこ、ばっかり……」

 感じるところを重点的に突かれてクルキは懇願する。

「だって、いいんだろ、ここ……っ」
「そう、だけど」
「遠慮するなって言ったのは、お前だろ……!」

 コスティの余裕のない声が届く。そして繋がったままコスティはクルキに口付けした。

「んっ……ん、ぅ……!」

 ただでさえ息が上がっているのに口を塞がれて、まともに息ができない。
 息が苦しいのに、気持ちいい。体は勝手に挿入されたコスティのものを締め付ける。指より太いそれが奥を突く度に体がびくりと跳ねる。
 口内にコスティの舌が入り込み、また舌を絡ませる。
 そしてふと、最初はこんな口付けですら遠慮がちだったと思った。
 それが今では互いに貪るように口付けをしているなんて。

「んぅ、んんんっ……!」

 口付けしたまま抜ける寸前まで腰を引き、勢いをつけて根元まで貫いてコスティはクルキの中に白濁を吐き出した。クルキも奥を突かれて絶頂を迎える。

「コス、ティ……」

 やっと唇が離れてクルキはコスティの名を呼んだ。

「まだだからな……」
「え、待った……」

 コスティの宣言にクルキは制止の声を上げる。

「俺だって、ずっと我慢してた……! でも、俺が満足するまでやったら、お前がどうにかなっちまうかと思って……」

 もしかしたら、自分は眠れる獣を呼び起こしてしまったのかもしれないとクルキは思った。
 その後、何度も体勢を変え、前から後ろから責め立てられて、何度も達してもう限界だと思ってもコスティはクルキを解放しなかった。
 そして夜は更けていった。



 コスティが目を覚ますと、すぐ目の前にクルキの顔があった。
 すう、と寝息をたてながら眠っている端正な顔は、いつ見ても愛おしい。
 クルキの体を大事な宝物のように抱き寄せる。
 もう二度と悲しませるものか。手放すものか。
 絶対に彼を傷付けないと固く誓う。
 どんなに困難な道でも一緒に歩いていこうと、そう決めたのだ。
 そのとき、どんどん、と拳で戸を叩かれる音がした。

「おい、まだ寝てんのか?」

 扉越しにアカートの声がする。
 それでクルキは目を覚ました。

「もう昼飯の時間だぞ」
「は、はい、今行きます……」

 クルキは寝ぼけた声で戸の向こうに聞こえるように答えた。
 あっ、と思ったが遅かった。

「……そうか、邪魔したな。あんまりでかい声出すなよ。ここには子供もいるんだからよ」

 そんな声が聞こえて、静かになった。
 そりゃそうだ。
 二人が昼まで起きてこなくて、コスティの部屋からクルキの声がしたなら誰だってそういうことをしていたのだと察する。
 しかも、あろうことか釘まで刺されてしまった。
 まだ眠いのか目を擦りながらクルキは起き上がる。自分のしたことを理解していないらしい。

「おい、行くぞ! 色々と言い訳しなきゃなんねえ……!」

 言い訳と言ったって何を言ったって今更だし、隠そうとすればするほど事実を裏付けることにしかならないのだが。しかし何もせずにいるほど肝は据わっていない。
 コスティは慌てて起き上がり、ベッドから出ると散らかった服を着て身なりを整える。

「な、何を焦っているんだ……」
「俺の部屋にお前がいたらそういうことだろ! 絶対からかわれるぞ!」

 クルキは数瞬考えるように動きを止め、やっと事を理解したのか顔が青ざめる。

「早く! 今頃何言われてるかわかんねえ!」

 コスティはクルキの着替えを手伝いながら言う。
 そしてクルキもちゃんと服を着て、最後に髪を手櫛で整えると二人は慌てて部屋を出た。
 廊下にはアカートが渋い顔をして立っていた。

「ほーう、俺がお前らをからかったり、誰かに言いふらすとか、そういうことを思っていたんだなお前たちは」
「いや、違う、違うんだ、いい人だと思ってるって……!」
「は、はい! アカートさんは断じてそんなこと致しません!」

 二人は違うんだ、誤解だと手を振った。

「なるほどなぁ。じゃあ誠意ってもんを見せてもらわねえとなぁ」

 アカートはそう言って顎に手をやって、しらばっくれるように目を閉じた。

「せ、誠意とは……」

 コスティが恐る恐る問う。

「具体的には、口止め料」

 アカートは端的に答えた。

「それはおいくらで……」
「金の問題じゃねえ!」

 クルキが問うと、アカートはかっと目を見開いた。

「俺は午前中から問題児二人の面倒を見てて、とっっっっても疲れてるんだ。そういうときにはこう、あれだろ、甘いものが食べたくなるだろ」

 二人は思い出した。アカートは卵と牛乳と蜂蜜で作ったプリンが大好きなのだ。

「プリンか、プリンだな!」
「早速街に行って買ってきますので、どうか、どうかご容赦を……!」

 言って二人は駆け出した。
 どたどたと階段を下りて、建物を出る。
 これから祓魔院でやっていくというのに、最初からこれでは先が思いやられる。

「ふっ……」

 クルキが隣で笑ったような気がしてクルキのほうを見た。クルキはふと立ち止まって口元を抑えている。

「ふふ、君といると、ずっと楽しいな。こんなことで大騒ぎして」

 ああ。きっと、これからちょっとしたことで大騒ぎする日々が待っているだろう。

「……俺も、お前といると楽しいよ。何でもないことがいいって思える」
「君が嫌と言っても離れないからな」
「俺だって、お前が嫌って言ってもどこまででも追いかけてやる」
「本当に?」
「本当だ」

 そんな、浮かれた約束をした。
 この先、こんなふざけたことを言いながら二人で歩いていくのだろう。
 願わくば、その道がずっと続きますように。


   完
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