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第二十八話
しおりを挟む真咲がドリンクバーに飲み物を取りに行っている間に、爽次郎はテーブルに広げているネームを改めて読み直す。
編集長は真咲が辞めようとする理由も戻ってくるだろう理由も、真咲が描いた漫画にあると言っていた。ここにも何かヒントがあるのではないだろうか。
ネームで簡単な絵だが、完成形が想像できる。
どことなく、この漫画は夏ハダよりも春リボに近いものになるのではないだろうか。
そんな風に思えた。真咲は夏ハダが終わってショックだったのだとカナデが言っていたことを思い出す。
「お待たせ」
「真咲さん。もしかして、この読み切りは春リボを意識して作りましたか?」
椅子に座った真咲の目がピクリと反応する。
ファンタジー要素があるからそう思えるのかとも考えたが、やはり意図的に構成や表現自体も春リボに寄せたのではないだろうか。
――夏ハダではなく。
そう思うと完成されていると思っていたネームから粗も見えてくる。
「確かにこのままでも完成されています。でも、もっと二人の恋愛感情を繊細に表現してもいいんじゃないかと思うんです」
このままのドタバタラブコメを中心にした話も良いが、夏ハダでの恋愛感情の表現を取り入れれば、もう一段少女漫画として上に行ける気がする。
「夏ハダの良さもこの読み切りにも出せれば、きっともっと良くなります!」
爽次郎は勢い勇んでネームから顔を上げた。真咲もきっと賛同してくれる。
そう思ったが、そこには想像しなかった真咲の情けない表情があった。
「どうしてそんなこと言うの……」
「え」
ぽたぽたとテーブルに水滴が落ちる。真咲は自然と深く俯いていく。
爽次郎からは髪の分け目しか見えなかった。
「真咲さん……? え、えっと」
爽次郎は狼狽した。女性の涙なんてほぼ初めて目にする。泣かせたのは間違いなく爽次郎だ。しかし、なぜ彼女が泣いているのか理由さえ心当たりがなかった。
「夏ハダは失敗作じゃない……」
爽次郎が何も言えない内に、絞り出すように真咲はこぼす。
「失敗作……」
爽次郎は耳を疑った。
これを聞く限り、真咲は自分が描いた夏ハダを失敗作だと思っているようだ。
「そんな馬鹿な」
思わず爽次郎は小さく苦いものを噛んだようにつぶやく。
いくら夏ハダが終わったとはいえ、読者としては納得の最終回だった。
それとも何か不本意なことがあったのだろうか。とにかく、はっきりと分かったのは真咲が自信を無くした原因は夏ハダにあるということだ。
「……何かあったんですか」
夏ハダが決して失敗作ではないと断言するのは簡単だ。だけど、真咲に直接そう言っても聞く耳を持たないだろう。
「何も……、何もない。でも、最初から間違っていたの」
真咲は眼鏡を外して、目元を拭った。爽次郎の方を見ようとはしない。
「ゆっくりでいいので、話を聞かせてくれませんか」
真咲はポツリポツリと話始める。
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