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第四十五話
しおりを挟む爽次郎が居なくなると、真咲と木之本の間には沈黙が続く。
目の前には完全なIの字に足をあげている女の子たち。何か気の利くことを言おうと考えながらも、真咲は無言でカメラのシャッターを切る。
「とてもいいコンビですね」
「え? 何がですか」
沈黙を破ったのは木之本の方だった。
「夢咲先生と編集さん」
ふふっと微かに笑って、木之本は真咲の方を向く。その笑みにはどこか見覚えがあった。学生時代によく見た恋バナをする女の子の笑みだ。
「えっと、普通ですよ。漫画家と編集者はどこもあんな感じです」
「でも、夢咲先生は彼のことがとても好きですよね」
だくだくと変な汗が出てきて、カメラを持つ手が滑る。どうやら木之本は恋バナにグイグイくるタイプのようだ。
「そ、そんなことないです。まだ会ったばかりだし……」
どこでバレたのだろうと、真咲は必死に取り繕ろうとする。
「いつ、出会ったんですか?」
「えっと、今年の四月」
「十分じゃないですか!」
木之本の笑顔が輝いた。何事かと柔軟体操をしている生徒たちが振り返る。
「二人で話しているといい感じになったりするんじゃないですか?」
どんな答えを期待しているのだろうか。
ここで話が弾めば木之本からも、何かしら話を聞き出せるに違いない。しかし、真咲には木之本を喜ばせる話題は持っていなかった。
「全然ですよ。二人でいても、毎回漫画の話ばかりです。いい感じになんて……」
思えば京都旅行では、一晩一緒にいたのに何もなかった。別に期待していたわけではないが、本当に何もなかったので、自分に魅力がないのかと少し落ち込んだ。
「でも、お二人いい雰囲気に見えましたよ。信頼し合っているって感じでした」
「それは、作家と編集者だからだと」
「でも、編集者さんだからって、誰でも信頼しますか?」
そう言われると真咲は黙った。
確かに誰でも編集だからと受け入れるわけにはいかない。以前、出版社ですれ違った編集者なんて作家の悪口を言いながら歩いていて、見ただけでいけ好かないと思ったし、前の前の担当になった水野などは全く波長が合わなくてイライラしてしまった。
考え込んでいる真咲を見て、木之本はクスリと笑う。
「いいですか。新体操に必要なのを三つ挙げるとすれば技術、協調性、そしてメンタルです」
三本の指を立てる木之本。
「技術は言わずもがな、手具を操るには必須です。協調性は団体では息を合わせる必要もありますし、個人にしても仲間と才能を伸ばし合う必要があります。そして、一番大事なのがメンタルです。気が強ければいいという訳ではありません。失敗するんじゃないかという恐怖に縛られず、しなやかな精神で試合に挑まなければ練習で出来たことが出来なくなってしまいます。恋愛も一緒です」
「れ、恋愛も一緒……?」
メモを取りながら、真咲は同じことを繰り返した。
「はい。いくらモテテクを駆使しようとも、一人突っ走ってもどうにもなりません。相手息を合わせて、場をいい感じに盛り上げなければとても成果は上げられないでしょう」
「場を盛り上げる……」
「そもそも付き合う以前に連絡先を聞くのにも勇気がいりますよね。向こうから聞いてくれたらいいのにと思いつつ、焦って前のめりになってしまう。ガッついた女子。そう思われるのだけは避けなければなりません」
話がズレていると自分でも思ったのだろう。木之本は照れたように笑って言う。
「真咲さんたちの場合も一緒ですよ、きっと」
「つまり……、周りの協力がいる?」
「それも、あってもいいかもしれませんね。たぶん、必要なのは彼とのタイミングだけ。だから、あまり焦らない方がいいかなってわたしには思います」
真咲にはよく分からなかった。だけど、恋愛も漫画も新体操もきっと一緒だ。
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