少女漫画と君と巡る四季

白川ちさと

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第四十八話

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 年末の慌ただしさの中、クリスマスイブ当日はあっという間にやって来た。心なしかシュシュ編集部も浮足立っている。



 真咲もイブはみんなと過ごすけれど、クリスマス当日は彼と過ごすのだろうか。



 爽次郎は仕事をしている中、少しでもぼんやりしてしまうとそんなことを考えてしまう。何度も自分の頬を叩いて、気合を入れ直した。なんとか仕事に集中して、午前中を乗り切る。昼ご飯を定食屋で済ませて、会社に帰ってきたときだ。



 豊読社のオフィスビルの広々としたロビー。そこで、見覚えのある赤い髪の男がいた。



 なんで、こんな所に?



 真咲と歩いていた男だ。つい立ち止まって見ていると、爽次郎とバチッと目があった。彼を見ていたので、それも仕方ない。



「あ。あぁ!」



 しかも、赤い髪の男は爽次郎を見て、まるで古い友人に会ったような反応をする。つかつかと近づいてきた。



「な、なんですか」



「あんた、真咲の担当だろ」



 爽次郎は目を見開く。どうして彼がここに居るのか、そして、どうして自分のことを知っているのか。



「なあ、ちょっとあっちで話さないか」



 ロビーの端にはソファが置かれている。赤い髪の男はそのソファを指さした。彼のことも気になるので、いいですよと二人で移動する。



「あの、真咲さんのお友達ですよね。お名前を伺っていいですか」



「ああ。俺は朝丘礼《あさおかれい》。あんたの言う通り、真咲の友人だな」



 あんたという言い方に少しムッとする。しかし、すぐに名前を聞いておきながら名乗っていなかったと思い直した。



「……僕は真咲さんの担当の尾形爽次郎です」



「なぁ、真咲の調子はどうだ」



「真咲さんですか……。朝丘さんの方がよく知っているんじゃないですか?」



 先日は結局会えなかった。真咲と会ったのは朝丘の方だ。



「え? うーん、そうだな。正直言って、以前の方が良かったな。なんつうか、古臭くなったっていうか」



「古臭く……?」



 以前の方が良かったというのは、高校時代のことだろうか。古くだなんて、まだ真咲は若いのにどうしてそんなことを言うのだろう。爽次郎はふつふつと怒りがこみあげて来る。



「どうしてそんなことを言うんですか」



「え? まあ、どうしても変化してしまうのは仕方ないからな。あんたもそう思うだろう」



「そんなこと、僕は思いません!」



 同意を求められて思わず声を荒げた。



「そりゃ、時間が経てば変わってしまうのはしょうがないことだと思います! でも、恋人のあなたが昔の方が良かったなんて言ったら、真咲さんは絶対に傷つきます!」



 爽次郎がガンとして、朝丘を睨みつける。ここでは絶対に引かない。真咲のためでもあるし、真咲を想う爽次郎自身の心を守るためでもあった。しかし、朝丘はポカンとした顔で言う。



「恋人……? なんの話をしているんだ?」



「え……。だって、朝丘さんは真咲さんの恋人じゃないんですか。だから、その……」



「俺が言ったのはアナログからデジタルに移行して、調子はどうだって意味だけど」



「え?」



 二人で顔を突き合わせて、固まった瞬間だった。









 話を聞くと、朝丘は真咲をデジタルに移行するのに機器をそろえるのを手伝ったり、使い方を教えたりしたそうだ。真咲がデジタルに詳しい人物に聞くと言っていたのは朝丘のことだった。



「朝丘さんがまさか、漫画家のヨルノシンジさんだとは思ってもみませんでした」



 ヨルノシンジは少年漫画家で、豊読社の週刊漫画雑誌で連載をしている。今日は打ち合わせで来ていたようだ。



「真咲が出来るなら俺も出来るんじゃないかと思って始めたんだけど、まぁ難しくてな。なんとか連載できるようになったのも最近だし」



 朝丘はニヤニヤしながら爽次郎の顔を見ていた。



「俺は最初からデジタルだったから、ある程度詳しくて真咲に呼ばれたんだ。デジタルで描いた絵を見せられたんだけど、なぜかあいつデジタルだと古臭くなるのな」



「そうだったんですね。……実は二人でいるところを見て、てっきり恋人だと思いこんでいました」



 爽次郎は顔に熱が溜まるのを感じながら、なんとか笑顔で言う。



「尾形さんのことは、真咲に京都に行ったときの写真を見せてもらってそれで知っていたんだ。まあ、他にもいろいろ話を聞いてさ」



「そうでしたか」



 京都取材を思い返すと、真咲に指示された場所に立って写真を撮られたこともあった。



「いろいろと話を聞かされてさ。大変だったな。辞めるって言いだす真咲を説得したり、新作を作るのにも振り回されたり。内心、担当編集は呆れて、そっちから辞めるって言いだされるんじゃないかと思ったけれど。心配いらなさそうだな」



 朝丘の笑みにはどこか含みがある。どうやら、爽次郎の感情は筒抜けになってしまったようだ。



「だ、大丈夫です。僕が真咲さんを支えていきます」



 爽次郎は恥ずかしいセリフだと思いながらも、ハッキリとそう宣言した。朝丘はフッと顔を緩める。



「頼むよ。無茶苦茶な奴だけど、俺の友人だし、夢を与えてくれたやつでもあるんだ」



 夢を与えてくれたやつ。それは、爽次郎にとっても同じことだった。朝丘や爽次郎だけではない。翼や亜佳梨、他にもきっとたくさんの人間に夢を与えている。



 それが夢咲真子こと小野田真咲なのだ。



「任せてください」



 みんなの大切な人であり、爽次郎の大切な人でもある。爽次郎はしっかりと頷いた。


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