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プレゼント
しおりを挟む俺と風子は自動販売機で紙パックのジュースを買い、だれもいなくなった談話室で斜め向かいに座る。
「私ね。春までこの病院に入院していたんだ」
風子はリンゴジュースのパックを握りしめたまま語りだす。
「血液の病気で、移植が必要だったの。私は運が良くてドナーさんが見つかって移植は成功。もう外で生活できるんだよ。学校もすごく楽しい」
風子がニッカリ笑う。久しぶりの笑顔に胸が暖かくなる気がした。
「ルイはどうして私が分かったの?」
「うん。最初リクエストしたのが、クリスマスソングだっただろ。風子が求めているクリスマスソングって何だろうって思って。思い出してみたらクリスマスソングを歌うことなんて、この病院でだけだからさ。ここに来たら風子がいると思ったんだ」
ストリート以外ではここでしか人前では歌ったことはない。
「聞きたかったんだ。ずっと」
風子は天井を見上げて言う。
「私、長く入院していたけれど、一度もちゃんと聞いたこと無かった。聞いたのは壁から薄っすら聞こえてくる音だけ。それでも、みんな楽しそうでさ。羨ましかった。今日、はじめて生歌を聞けた」
「じゃあ、俺からも質問。どうして、ストリートで歌っているところに来たの」
俺の質問に風子は少し目をさ迷わせた。
「……うん。ルイのお父さんが亡くなったから、今年は来ないかなって思って。あ。病院には検査に来るから看護師さんに話は聞いていたんだ。ルイがストリートで歌っているってことも」
「そうか」
「歌を聞いてびっくりしちゃった。いつも壁越しに聞いているのとは全然違ったから。でも、すぐに分かった。ルイは空に向かって歌っていたから」
しゅんと首を項垂れる風子。
「……風子」
何もかもお見通しだったという訳だ。俺は風子の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわす。
「ありがとうな、風子」
顔を近づけてお礼を言うと、風子は顔を赤くする。
「そばで風子が聞いてくれたから、あれは鎮魂歌になったんだ。傍にいて親父を想ってくれて、ありがとう」
「うん」
「教授は怒っているだろうし、人より少し遅れるだろうけれど、俺ちゃんとした医学生に戻るよ。病気の子を治して歌を聞かせる。一緒に歌う。そんな医者になる。親父もきっと賛成してくれる」
「うん」
「風子にも一緒に歌って欲しい」
「うん?」
首をかしげる風子。
だから、ずっとそばにいて欲しい――。そう言おうとしたタイミングだった。
「風子。そろそろ帰ろうか」
談話室に入ってきたのは見覚えのある中年男性だ。
「うん。あ、ルイ。この人、私のお父さん」
「初めまして、風子の父です」
「初めまして、山崎流維です」
風子と一緒に歩いていた中年男性は、やはりお父さんというオチだった。
俺がストリートで歌っていることは知っていた。毎回風子を迎えに来て、駐車場に向かっていたらしい。風子は大病をした後だ。長い時間の外出は控えた方がいいし、心配だったのだろう。
「そういえば、謎が一個残っているんだけど」
どう推理しても、そうする理由が思い当たらなかった。
「風子はどうしてウィッグを被ったり、化粧をしたりしていたんだ。今みたいにそのままでも、すごくいいと思うんだけど」
「……だって、ルイは大学生だから。大人っぽくしないと相手にされないと思って」
そう言って頬を染め、口を尖らせる風子。
今日はクリスマスイブ。
大げさだけど、空からプレゼントを貰ったような気がした。
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