広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第一章 学園転入編

第二十五話 ラスト

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 小走りに駆けて樹木の下へ向かった。だけど、下からだと全く見えない。

「ど、どこ?」

「見える! 小さなピンク色の花! いっぱい!」

 倉野さんが離れた場所から指をさしている。きっと、離れた場所、しかも一つの方向からじゃないと見えないんだ。

「登れそうだ!」

 樹木の表面はボコボコとしているので、足をかけて登ることが出来る。ゆっくりと安全を確認しながら、僕は上へ。

 下でみんなが固唾を飲んで見守っていた。

 地上から三メートルぐらい登ったところ。樹木にはうろ、穴があった。

「わっ!」

 直径二十センチほどの小さな穴だ。


 
 華やいだ 暖かな部屋 もゆる日々



 川柳の通りだ。ピンク色の小さな花が木の中の小さな部屋に萌えるように咲いている。南向きだから陽当たりも良好だろう。きっと水もあまり必要ない種類で、露が樹を伝ってくるに違いない。

 上手い具合の木のうろがあったものだ。そこに土を入れて、勝手に毎年咲く花を植えたのだろう。

 しかも、奥に銀色に鈍く光る小箱がある。

「あった! あったよ!」

「どこどこ?」

「というか、そんな所まで登れない!」

 言われてみたら僕だって、なんとか登ったくらいだ。倉野さんは絶対にここまで来られない。左手でしっかり木の幹を掴みながら、僕は右ポケットからスマホを取り出した。

 木のうろの中を撮影すると、僕は箱を取って下へと降りていく。

「本当に箱だ! やったね!」

「ははっ。人海戦術じゃなくて、結局は運だったか」

 僕らはハイタッチし合う。とても時間がかかったけれど、トレジャーハンター部としては結束が強まったように思える。

 きっと僕だけじゃなくて、四人全員が感じているだろう。

「開けてみてよ。次の謎、早く知りたい」

 倉野さんが僕を急かす。

「やっぱりちょっと固いね」

 箱は中に水が入らないように頑丈だ。

 だけど、力をうんと籠めるとパカッと開いた。

「やった! 中に紙が入っている。……あれ? 折り紙はないね」

「もしかして、最後の謎なんじゃないか!」

 水上くんが興奮して、僕の腕をつかむ。

 これまでとは違うなら、その可能性は大きい。四つに畳まれた紙を開いた。

「最後の……、え?」

 開いた紙を見つめて僕は固まる。

 そこには、過去の日付とLastNumberと筆記体で書かれていた。




 ――僕らは走った。

 温室から西棟まで、道はぬかるんでいるけれど、ズボンの裾が汚れることも構わずに走った。駆けこんできたのは、理事長室だ。

「向井さん! 居ますか!」

 少し乱暴にノックする。本当はもっと冷静にならないことは分かっていた。けれど、僕らは止められなかった。止めようとも思わなかった。

 ほどなくして、内側からドアが開かれる。

「どうした。そんなに慌てて」

 向井さんはいつもの作業中の姿ではないものの、白いシャツを着ていた。誰か中にいないかと奥を覗いたけれど、向井さん一人のようだ。ほっと息をつく。

 心配したのは僕だけのようだ。倉野さんが例の紙を向井さんにずいと差し出す。

「最後! 最後の数字が出て来た!」

 向井さんはラストナンバーが書かれた紙に顔を近づける。すると、少しだけ微笑む。

「よくがんばったな」

 僕らはぼうっとしてしまった。

 ――まるで。

「もしかして、数字の意味知っているのではないですか?」

 津川先輩が代表して質問する。

 向井さんは質問には答えず、僕たちに背を向けた。

「こっちだ」

 走って来たことで上がっていた心拍数が、さらに速度を増したことを確かに感じた。



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