広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第二章 オランダ旅行編

第十二話 サプライズ

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 それから残り数日はあっという間だった。

 跳ね橋が上がるところをじっと待ったり、満点の星空を撮るために雲が晴れるのを待ったり。

 待つだけではない。再び公園に行って、くつろいでいる人たちに写真を頼む。

 そうしている内に人が人を呼んで、もはやお祭り行事になりかけていた。そんな中で集まった人たちだから、みんなノリノリでポーズをとってくれる。

 たくさんの写真を撮った。

 タブレットの中の惑星は、ほとんどが輪っかが取れていく。もう、十数個で終わるところまできた。写真もたくさんストックがある。

 謎が解けるまでもう一歩のところで、最終日となった。

 午前中、のんびり写真の整理をして昼食を食べているところで、バートさんが帰って来た。

「叔父さん、あとは楽器を演奏している人たちの写真だけだけど」

「ああ。もちろん、叔父さんに任せてと言っただろ」

 あれ?と思う。

 いつものようにラフな格好だけど、いつもより小奇麗だ。少しだけ生えていた無精ひげを綺麗に剃り、髪も後ろになでつけてセットしている。

「許可を取ったよ」

「何の?」

「何って、コンサートだよ! 今夜、フォンデル公園で僕の仲間で特別にキミたちに送るためのさ!」

「「「「えっ!」」」」

 運河フェスティバルという音楽祭は、僕らが帰ったあとに始まる。つまり、前夜祭みたいなものだ。きっと僕たちが帰るからと言って、説得してくれたのだろう。

「もちろん、仲間と言っても十人ほどさ。あと、キミたち以外にも仲間の家族や友人が見に来る」

 バートさんは楽器を演奏する人の写真を何とかすると言っていたけれど、本当になんとかしてくれたのだ。これできっと理事長の謎を解くことが出来る。

「ありがとう叔父さん!」

「見直しただろう、アナベル」

 倉野さんが手放しで喜ぶので、バートさんは鼻高々だ。

「さあ、三人ともシャツに着替えて、これをつけて」

 手渡しされたのは蝶ネクタイだ。僕ははじめてつける。

「わたし、お気に入りのワンピースを着る!」

「オパも連れて行きましょう」

 バートさんは準備があるので、先に公園へ向かった。倉野さんのお父さんとお母さん、それとオレンジ色のワンピースに着替えた倉野さんがおじいさんを車で連れていく。

 着替えた僕らも自転車に乗り込んで、すっかり慣れ親しんできた道を走る。




 夏のオランダの日の入りは九時半だそうだ。公園には六時半に着いたので、まだまだ明るい。

「透! 深志! 貴由先輩! こっち!」

 小さな人だかりが出来ていて、倉野さんが大きく手を振っている。レジャーシートを敷いて、おじいさんも車いすに座っている。

 その前には、キャンプで使うような折りたたみの椅子が円形状に並んでいた。

 所々に、ランプも置いてあった。

「よく考えたら、こんなに近くで生演奏を聴く機会なんてないよね」

 学校の行事などで演奏を聴いたときは眠くなってしまったけれど、知り合いであるバートさんの演奏となるとワクワクするのは自然なことだろう。

「楽団の人だけじゃなくて、わたしたちが退屈しないように歌手の人も呼んだって叔父さん言っていた」

 津川先輩がははっと軽く笑う。

「バートさん、僕らをよほど子供だと思っているのかな」

「そうだよ。退屈だから寝るほど、僕らは小さくないよ」

 水上くんはそういうけれど、僕は全く眠くならない自信はなかった。

 僕らは開演のときを今か今かと待ち構える。


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