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第四章 学園祭編
第十話 探偵の仮装の人
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西棟の食堂にやって来た。僕らの東棟のお宝カフェ同様、長蛇の列が出来ているかと思いきや、そうでもない。
「あれ? おかしいな」
スペシャルメニューの監修を引き受けていた水上くんが不思議がっている。
中に入ると、すぐに理由が分かった。
「あ! テーブルがない!」
並んでいるのはベンチやイスばかりで、いつもは食堂にあるテーブルが取り払われていたのだ。その分、座るところが多くなり、食堂にはスムーズに入ることが出来たのだ。
「内装はどちらかと言うと、運動部の方に寄せたんだね」
お客さんは少し食べにくい思いをするが、ほとんどが食べ歩きのメニューばかりだ。
かき氷に、韓国のチーズのホットドッグに、いちごあめ、台湾の肉だねを包んでいるというお餅もある。
ゴミ箱を設置していたら、接客する必要もない。
「大所帯だからどうするかと思ったけれど、考えたものだね」
アジアンラグジュアリとは言っていたものの、スペースの問題を考えると屋台をたくさん並べることにしたようだ。元々考えていたアジア料理のメニューもあるだろうし、毎年のお祭りメニューを取り下げるわけにもいかない。
「やあ、トレジャーハンター部のみんな! 遊びに来てくれたんだね!」
「加賀くん! にぎわっているね!」
同じクラスの園芸部の加賀くんだ。並ばなくても買えるようにひもを付けた箱を抱えて売り歩いているようだ。
「ふれこみも多かったし、大繁盛だよ。キッチンは大変そうだけど」
きっと、家庭科部の人たちが奮闘しているのだろう。ふと、もの珍しそうにアリスが加賀くんの箱の中をのぞき込んでいるのが目に入る。
「アリス、いちごあめ買ってあげようか」
僕が言うと、ぶんぶんと頭を横に振った。
「……自分で買う。スペシャル……」
加賀くんがもつ箱には、スペシャルメニューが入っているようには見えない。
「ああ。ごめんね。スペシャルメニューは人気があるから、ここにはないんだ。ちょっと並ぶけれど、たくさん作っているし、そんなに待たずに買えると思うよ。あっち、あっち!」
僕らは加賀くんに案内されて、食堂の奥へと進む。
そこにはひと際大きな看板が置かれていた。
『アジアン屋台フェスタ スペシャルメニュー
ジューシー豚串入りのベトナムサンド バインミー
トッピングが選べるタイ式クレープ ロティ』
と書かれている。倉野さんが看板を指さして言う。
「前と変わっている」
「本当だ。クレープなんて全然違うみたい」
絵も描かれているが、チョコがかけられた四角い生地のもので細長いチョコバナナとは違う。
「元々、ロティも候補に挙がっていたんだよ。それを野球部のアレンジアイディアと掛け合わせたんだ。中にはバナナとチョコソースが入っているよ」
「へー」
「バインミーも、せっかくならって鶏肉じゃなくて、毎年屋台で人気の豚串を挟むことにしたんだ。それなら、来年も毎年お願いしている業者の人に頼みやすいからね」
なるほど、来年のことも考えてのメニューアレンジらしい。
「案外、このまま定番メニューになりそうじゃないかな。食べている人たち、みんな美味しそうに食べているよ」
津川先輩が目配せするので、そちらを見ると、ベンチで美味しそうにスペシャルメニューを頬張っている人たちがいる。
「改良しているなら、ますます食べたいや。全員分買いに行こう」
僕らの意見も聞かずに水上くんが早歩きで列に並ぶと、アリスがコクコクと頷き、水上くんの後ろに並ぶ。
「はは。僕らも並ぼうか」
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
「うん。加賀くんも――」
加賀くんも楽しんで。そう僕が言おうとしたときだ。
「やあやあやあ、ワトソンくん。この列は一体どういうことだと思うかね」
「こんなにたくさんのお客さん、どういうことでしょう、ホームズさん」
スペシャルメニューの屋台の前で大きな声を出している二人組。セリフめいているが棒読みだ。
ホームズさんとワトソンくん。
そう呼び合う二人は明らかに、シャーロックホームズの仮装をしていた。
「あれ? おかしいな」
スペシャルメニューの監修を引き受けていた水上くんが不思議がっている。
中に入ると、すぐに理由が分かった。
「あ! テーブルがない!」
並んでいるのはベンチやイスばかりで、いつもは食堂にあるテーブルが取り払われていたのだ。その分、座るところが多くなり、食堂にはスムーズに入ることが出来たのだ。
「内装はどちらかと言うと、運動部の方に寄せたんだね」
お客さんは少し食べにくい思いをするが、ほとんどが食べ歩きのメニューばかりだ。
かき氷に、韓国のチーズのホットドッグに、いちごあめ、台湾の肉だねを包んでいるというお餅もある。
ゴミ箱を設置していたら、接客する必要もない。
「大所帯だからどうするかと思ったけれど、考えたものだね」
アジアンラグジュアリとは言っていたものの、スペースの問題を考えると屋台をたくさん並べることにしたようだ。元々考えていたアジア料理のメニューもあるだろうし、毎年のお祭りメニューを取り下げるわけにもいかない。
「やあ、トレジャーハンター部のみんな! 遊びに来てくれたんだね!」
「加賀くん! にぎわっているね!」
同じクラスの園芸部の加賀くんだ。並ばなくても買えるようにひもを付けた箱を抱えて売り歩いているようだ。
「ふれこみも多かったし、大繁盛だよ。キッチンは大変そうだけど」
きっと、家庭科部の人たちが奮闘しているのだろう。ふと、もの珍しそうにアリスが加賀くんの箱の中をのぞき込んでいるのが目に入る。
「アリス、いちごあめ買ってあげようか」
僕が言うと、ぶんぶんと頭を横に振った。
「……自分で買う。スペシャル……」
加賀くんがもつ箱には、スペシャルメニューが入っているようには見えない。
「ああ。ごめんね。スペシャルメニューは人気があるから、ここにはないんだ。ちょっと並ぶけれど、たくさん作っているし、そんなに待たずに買えると思うよ。あっち、あっち!」
僕らは加賀くんに案内されて、食堂の奥へと進む。
そこにはひと際大きな看板が置かれていた。
『アジアン屋台フェスタ スペシャルメニュー
ジューシー豚串入りのベトナムサンド バインミー
トッピングが選べるタイ式クレープ ロティ』
と書かれている。倉野さんが看板を指さして言う。
「前と変わっている」
「本当だ。クレープなんて全然違うみたい」
絵も描かれているが、チョコがかけられた四角い生地のもので細長いチョコバナナとは違う。
「元々、ロティも候補に挙がっていたんだよ。それを野球部のアレンジアイディアと掛け合わせたんだ。中にはバナナとチョコソースが入っているよ」
「へー」
「バインミーも、せっかくならって鶏肉じゃなくて、毎年屋台で人気の豚串を挟むことにしたんだ。それなら、来年も毎年お願いしている業者の人に頼みやすいからね」
なるほど、来年のことも考えてのメニューアレンジらしい。
「案外、このまま定番メニューになりそうじゃないかな。食べている人たち、みんな美味しそうに食べているよ」
津川先輩が目配せするので、そちらを見ると、ベンチで美味しそうにスペシャルメニューを頬張っている人たちがいる。
「改良しているなら、ますます食べたいや。全員分買いに行こう」
僕らの意見も聞かずに水上くんが早歩きで列に並ぶと、アリスがコクコクと頷き、水上くんの後ろに並ぶ。
「はは。僕らも並ぼうか」
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
「うん。加賀くんも――」
加賀くんも楽しんで。そう僕が言おうとしたときだ。
「やあやあやあ、ワトソンくん。この列は一体どういうことだと思うかね」
「こんなにたくさんのお客さん、どういうことでしょう、ホームズさん」
スペシャルメニューの屋台の前で大きな声を出している二人組。セリフめいているが棒読みだ。
ホームズさんとワトソンくん。
そう呼び合う二人は明らかに、シャーロックホームズの仮装をしていた。
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