広くて狭いQの上で

白川ちさと

文字の大きさ
63 / 89
第四章 学園祭編

第十一話 探偵の仮装の人 その2

しおりを挟む

 ホームズさんとワトソンくんは、顔は帽子でよく見えないけれど若い男性のようだ。英国紳士のようなジャケットを羽織って、蝶ネクタイをし、ステッキを持っている。

「毎年、ここ西棟は運動部が合同で屋台を出しているらしいじゃないか! それが、どういうことだろう!」

「ええ、ええ。ホームズさんの言うとおり! 毎年敵対しているはずの園芸部と家庭科部と仲良く出店しています! どうしてだか、名探偵のホームズさんなら分かるんじゃないですか!?」

 どう考えても、わざと大きな声を出している。注目を集めていた。

 僕らトレジャーハンター部はぽかんとしつつ、とりあえずスペシャルメニューの列に並ぶ。

「もちろんだよ。ワトソンくん! きっと、このスペシャルメニューに答えがあると思うんだ!」

「このスペシャルメニューに!?」

 僕はシャーロックホームズには詳しくないけれど、絶対に雑な脚本に違いないと思う。

「加賀くん、お店の前で騒がれているけど止めなくていいの」

 少し眉根を寄せた水上くんが加賀くんの肩を叩く。

「えっ! あ、ああ! そうだね」

 どうやら加賀くんも他人事のように見ていたようだ。

 すると、ホームズさんとワトソンくんに負けないくらい大きな声で、奥から誰かが出て来る。

「なんの騒ぎですか! 仮装は許可されていても、店内で騒ぐことは許可されてないはずだが!」

 屋台の中から出て来たのは、エプロンをした東野先輩だ。頭にした三角巾をはぎ取り、すごい形相で歩いて来る。

「ひっ! さ、さあ、ホームズさん、謎を解いてください」

「い、いや! まずは助手の出番だろう、ワトソンくん」

 意気揚々と演技をしていた二人は、東野先輩を見るなり、お互いに押すな押すなの状態になってしまった。本当に何をやっているのだろうか。

「これ以上邪魔をするというなら、問答無用で出て行ってもらいますが!」

「ちょっと、東野くん! 何も誰かに悪さをしたわけじゃないじゃない。お客さまを頭ごなしに怒鳴るのはどうかと思います!」

「小内! だけどよ」

 奥からさらに小内先輩も出て来た。ふたりともスペシャルメニューの屋台で作業をしていたみたいだ。おそろいのエプロンをしていた。

「そ、そうそう。わたしたちは合同出店の謎を解きに来ただけだからね」

「そうそう! そんな怖い顔をしちゃ、せっかく出来た彼女も怖がるものだよ」

「かっ……!」

 彼女と聞いて、東野先輩の顔が赤くなっていく。

「彼女じゃねえよ!」

 怒鳴った先輩は耳まで真っ赤だ。

「誰かと勘違いしていませんか?」

「ち、違、違うからな! 小内!」

 東野先輩が必死に否定するけれど、想い人がだれかは行列に並んでいる人にでさえ分かる。和やかな空気が一瞬だけ流れた。

「え? 違う??」

「いや、これからくっつけようって話で」

 どうやら、ホームズさんとワトソンくんも打ち合わせ不足だったようだ。

 僕は周りの人たちを見る。お客さんは一歩引いて眺めているだけ、エプロンをしている部の合同出店している人たちも間に入る様子もない。

 なんだと思った。僕は横で遠い目をしている加賀くんを肘でつつく。

「これ、加賀くんたち園芸部の人たちの仕込み?」

 加賀くんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに八重歯を見せてハハッと笑った。

「バレた? あの人たち園芸部のOBなんだ」

 道理で野球部の東野先輩に怯えていたはずだ。あれほど凄みがあるとは思っていなかったのだろう。

「ん? 確か小内先輩、憧れの先輩がいたはず」

 倉野さんの言うことで思い出した。小内先輩はその先輩を目当てに園芸部に入ったと聞いている。

「ああ。その先輩は遠くの大学に通っているし、今日は来られなかったよ。聞いたら、小内先輩はその大学に行くつもりはないっていうからさ」

 憧れは本当にただの憧れだったようだ。

 僕らはまだすったもんだしている東野先輩たちを横目に列を進む。

 生温かい目をしている園芸部の部員の人から、人数分スペシャルメニューを買ってその場を後にした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

処理中です...