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第四章 学園祭編
第十一話 探偵の仮装の人 その2
しおりを挟むホームズさんとワトソンくんは、顔は帽子でよく見えないけれど若い男性のようだ。英国紳士のようなジャケットを羽織って、蝶ネクタイをし、ステッキを持っている。
「毎年、ここ西棟は運動部が合同で屋台を出しているらしいじゃないか! それが、どういうことだろう!」
「ええ、ええ。ホームズさんの言うとおり! 毎年敵対しているはずの園芸部と家庭科部と仲良く出店しています! どうしてだか、名探偵のホームズさんなら分かるんじゃないですか!?」
どう考えても、わざと大きな声を出している。注目を集めていた。
僕らトレジャーハンター部はぽかんとしつつ、とりあえずスペシャルメニューの列に並ぶ。
「もちろんだよ。ワトソンくん! きっと、このスペシャルメニューに答えがあると思うんだ!」
「このスペシャルメニューに!?」
僕はシャーロックホームズには詳しくないけれど、絶対に雑な脚本に違いないと思う。
「加賀くん、お店の前で騒がれているけど止めなくていいの」
少し眉根を寄せた水上くんが加賀くんの肩を叩く。
「えっ! あ、ああ! そうだね」
どうやら加賀くんも他人事のように見ていたようだ。
すると、ホームズさんとワトソンくんに負けないくらい大きな声で、奥から誰かが出て来る。
「なんの騒ぎですか! 仮装は許可されていても、店内で騒ぐことは許可されてないはずだが!」
屋台の中から出て来たのは、エプロンをした東野先輩だ。頭にした三角巾をはぎ取り、すごい形相で歩いて来る。
「ひっ! さ、さあ、ホームズさん、謎を解いてください」
「い、いや! まずは助手の出番だろう、ワトソンくん」
意気揚々と演技をしていた二人は、東野先輩を見るなり、お互いに押すな押すなの状態になってしまった。本当に何をやっているのだろうか。
「これ以上邪魔をするというなら、問答無用で出て行ってもらいますが!」
「ちょっと、東野くん! 何も誰かに悪さをしたわけじゃないじゃない。お客さまを頭ごなしに怒鳴るのはどうかと思います!」
「小内! だけどよ」
奥からさらに小内先輩も出て来た。ふたりともスペシャルメニューの屋台で作業をしていたみたいだ。おそろいのエプロンをしていた。
「そ、そうそう。わたしたちは合同出店の謎を解きに来ただけだからね」
「そうそう! そんな怖い顔をしちゃ、せっかく出来た彼女も怖がるものだよ」
「かっ……!」
彼女と聞いて、東野先輩の顔が赤くなっていく。
「彼女じゃねえよ!」
怒鳴った先輩は耳まで真っ赤だ。
「誰かと勘違いしていませんか?」
「ち、違、違うからな! 小内!」
東野先輩が必死に否定するけれど、想い人がだれかは行列に並んでいる人にでさえ分かる。和やかな空気が一瞬だけ流れた。
「え? 違う??」
「いや、これからくっつけようって話で」
どうやら、ホームズさんとワトソンくんも打ち合わせ不足だったようだ。
僕は周りの人たちを見る。お客さんは一歩引いて眺めているだけ、エプロンをしている部の合同出店している人たちも間に入る様子もない。
なんだと思った。僕は横で遠い目をしている加賀くんを肘でつつく。
「これ、加賀くんたち園芸部の人たちの仕込み?」
加賀くんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに八重歯を見せてハハッと笑った。
「バレた? あの人たち園芸部のOBなんだ」
道理で野球部の東野先輩に怯えていたはずだ。あれほど凄みがあるとは思っていなかったのだろう。
「ん? 確か小内先輩、憧れの先輩がいたはず」
倉野さんの言うことで思い出した。小内先輩はその先輩を目当てに園芸部に入ったと聞いている。
「ああ。その先輩は遠くの大学に通っているし、今日は来られなかったよ。聞いたら、小内先輩はその大学に行くつもりはないっていうからさ」
憧れは本当にただの憧れだったようだ。
僕らはまだすったもんだしている東野先輩たちを横目に列を進む。
生温かい目をしている園芸部の部員の人から、人数分スペシャルメニューを買ってその場を後にした。
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