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ノーム編
第五十一話 心変わり
しおりを挟むどうして、ムウさんが。
わたしは客席で、花びらが舞うステージを見ていることしか出来なかった。すると、ムウさんと目が合う。
「ミラー。ユメノさんを」
ムウさんが花の精霊ミラーに指示すると、ミラーは頷いて辺りを舞っていた花びらをこちらに飛ばしてきた。
「わっ、わっ!」
精霊も出すことが出来ないわたしは反抗することも出来ず、花びらに囲まれる。花びらの雲に乗るようにステージ上に運ばれた。
「いたッ!」
ドサッと乱暴に落とすから尻もちをついてしまう。隣に立つイオが声を荒げる。
「ムウ! どういうつもりだ!」
「ムウさん、まさか心を変えられて……」
きっとわたしの精霊石を盗っていったのもムウさんだ。彼女なら、もしわたしと部屋で鉢合わせてもいくらでも言い訳出来るし、タイミングもいくらでも図れる。
だけど、ムウさんは堂々としたまま胸に手を当てた。
「心を変えられてなどいません。わたしは元より、精霊の王たちに忠誠を誓う精霊使いの一族です」
だから、サラマンダーにも恭しい態度をとっていた。それは分かる。わたしは王座に座る青年を指さした。
「でも! なら、なおさらノームと名乗るその男を許せないんじゃないの!?」
だけど、わたしの言葉にムウさんはカッと血がの上ったようだ。
「立場を分け前なさいッ! この方は本物の土の精霊の王ノーム様です!」
もしかして、完全に信じ込まされているのだろうか。
「彼はわたしの」
ムウさんは頭の後ろに手を回す。そして、いつも目を隠している布を外した。
「瞳に光を返してくださったのです」
そこには、二つの蒼い瞳は真っ直ぐわたしたちを見つめている。ムウさんの瞳ははじめて見たけれど、見えていないようには思えない光があった。ただ、右のこめかみから、左のこめかみまで横に深い傷が出来ていた。古傷だ。
「この傷は精霊の王を祀るわたしたち一族を憎むもの達からつけられたものです。それきり光を失っていたわたしの目。また光がこの目に宿るなんて、奇跡の所業だとは思いませんか? 本物の土の精霊の王ノーム王以外に出来る者がいらっしゃるでしょうか?」
ムウさんの言葉にわぁっと歓声が上がる。
「失っていた目に光を戻すなんて! さすがはノーム王だ!」
「ノーム王、万歳!」
町の人たちはノーム王のしたことに酔っている。ムウさんも、感動しただろう。
だけど――
「そりゃ、妖精の樹から力を吸い取って、ムウの目に移しただけだろ。目が見えるようにするぐらいお手の物だ」
カカがイオの首元から出てくる。エルメラも、フードの中から出てきた。
「うん。ムウさん、それは奇跡じゃないよ。分かっているよね」
二人の言葉は届かない。わたしたちはムウさんの花びらで拘束されたままだ。
「ですが、何を言っても奇襲は成功しなかった。あなた達にはもう後はありません」
そうなのだ。わたしたちは四方八方、敵に囲まれている。
「町を彩る樹になって貰いましょう」
そう言ってノーム王のお付きの一人が近づいてきた。手には何か豆のようなものを手にしている。きっとあれが樹にしてしまうのだろう。
わたしとイオは手を花びらによって縛られている。そうでなくても、精霊石のないわたしは何も出来ない。
「おい! ノーム王!」
突然、イオが大きな声を出した。
「俺がやられても、次の精霊使いがやってくる! 誰も忘れはしない! 村を、森を潰して自らの栄華に酔いしれて、妖精たちからもその母を奪ったことを! 誰も忘れはしない!」
イオもわたしも、ノーム王を睨みつけることしか出来ない。それでも、最後まで諦めたりはしない。
「では、その口に」
「待て」
ノーム王のお付きがイオの口に豆を入れようとしたが動きが止まった。後ろを振り返る。
え、今の声……。
ノーム王がもう一人のお付きにごにょごにょと話している。
「ノーム王のお考えで、その男はしばし処分を保留することとなった」
「えっ!」
誰もが驚いたと思う。今まさに処分が下される、その直前にノーム王が心変わりをしたのだから。もしかして、自分がしたことに反省したのだろうか。でも、その表情は不敵に笑っている。何か利用価値を思い付いたのかもしれない。
「では、こちらのお子に」
「ひっ!」
今度はわたしに例の豆を食べさせようとしてきた。わたしは身をよじって抵抗する。
「嫌! 絶対嫌!」
「ユメノに近づくな! きゃあ!」
エルメラが突撃するけれど、簡単に振り払われてしまう。何か出来ることを必死で探す。イオも抜け出そうともがいているけれど、ムウさんの精霊ミラーが拘束している。
――ムウさんの精霊ミラー。
「そうだ!」
わたしは蝶の形をした花の精霊ミラーを真っ直ぐ見る。
「お願い! わたしの味方になって!」
「何を……」
精霊石はない。でも、以前ルーシャちゃんの精霊ミルフィーユがわたしの仲間になろうとしてくれたことがあった。人の精霊でも、盗ることが出来ることを知っている。
わたしの声は間違いなく届いていた。ミラーはキョロキョロと、わたしとムウさんを見比べている。
「ミラー! 全てを知っているでしょ。ムウさんは心を変えられちゃった! いいように操られていると言ってもいい!」
きっとこれまで心を変えられた人も奇跡を見せられたり、妖精の樹の力を使われたりしたに違いない。
「そんなことはありません、ミラー!」
ムウさんは訴えるけれど、わたしはさらに畳みかける。
「こんなことやりたくないでしょ! わたしと一緒に来てくれたら、絶対に元に戻ったムウさんの所に返してあげるから!」
これが決め手だったのだろう。手の拘束が無くなる。すぐにイオが剣を振って、わたしの前のお付きを斬りつけた。すると、不思議なことに布だけが地面に落ちる。
「ユメノ! ここを抜けよう!」
「うん! 契約していないけれど……、花の精霊ミラーよ! 大地の歌う音色に舞い、真なる力を解放せん!」
これは賭けだった。本物の主でもないわたしが解放出来るのか分からなかった。
けれど、やってみないとここは切り抜けられない。そして、ミラーは応えてくれた。わたしの元まで飛んできて、光に包まれミラーは女の子に変身する。
「きゅるるる!」
「よし! ミラー、花でここを満たして!」
「ミラー!」
ムウさんが呼ぶ声がする。だけど、次に前が見えるときになったときにはわたしたちは全員姿を消していた。
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