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シルフ編
第六十七話 ノームとの共闘
しおりを挟む「きゃあああああ!!」
「うるさいであるぞ! 小娘!!」
サラマンダーが空へと飛び立つと、背中に乗ったルーシャちゃんが力いっぱい叫ぶ。分かる、分かると心の中で頷く。わたしも初めてサラマンダーの背に乗ったとき、すごく怖かった。今はすっかり慣れちゃったけれど。
イオに石の鎖でグルグル巻きにサラマンダーに縛り付けられて、ルーシャちゃんはやっと黙った。
「とりあえず、すぐ隣の島に行こうか」
「あ、あら。そこはもう、わたくしが調べましたの。もっと奥に行きませんこと」
ルーシャちゃんが調べたなら、わざわざたくさんある浮島の中から選ぶことはない。何だか、ちゃんと調べているか不安だけれど、何かあったなら言うだろう。ルーシャちゃんも砂漠から砂金を見つけるようなものだと分かっているはずだ。
「じゃあ、あの辺り?」
わたしは適当に奥の上空の島を指した。
「まあ、よろしいですわ」
「……なんで、この子が行く先を決めるの」
エルメラが不満を言うのも分かるけれど、手がかりが全くないからルーシャちゃんが決めようが誰が決めようが一緒だ。
「では、参るぞ!」
サラマンダーが二回羽ばたけば、さらに上空へと浮き上がる。あっという間に目的の島に到着した。
そこは最初に上陸した島とは、全く違う島だった。
「あ、暑い……」
熱く乾燥した風が吹く砂漠だ。辺り一面砂だらけ。ところが、サラマンダーは気持ちよさそうに目を細める。
「うむ。心地の良い風である」
「サラマンダーはそうだろうけどさ」
とはいえ、調査しないわけにもいかない。シルフに繋がる何かがあるかもしれないから。
そう思ったのだけれど――
「何もなさそうですわね。さっ、次の島に行きますわよ」
ルーシャちゃんはすぐに立ち去る気満々だ。確かに長居はしたくないけれど、そうもいかない。エルメラがルーシャちゃんに飛びついていった。
「何言っているのよ! シルフがいないか、ちゃんと調べないと!」
「でも、髪も痛みますし、どう見ても何もないではございませんこと。もっと環境のいい島の方が調べがいもありますわ」
ルーシャちゃんは口をとがらせて、髪をいじっている。
「文句ばかり言うなら自分だけでいけば! 飛べるんでしょ!」
エルメラがそう言うと、ルーシャちゃんはサッと顔色を変える。
「ちょっと試しに言っただけでありませんの。ちゃんと何か異常がないか見て回りますわ」
イオが西の方角を指さす。
「おい。あそこに何かがあるようだ。確認しに行こう」
そこには確かに薄っすら何かの影が見えた。
「吾輩が連れて行こうか?」
「いや、地上の様子を詳しく見るためには歩くのがいい」
「では、吾輩は山に戻っておる。いつでも呼ぶが良い」
サラマンダーはまた精霊石の中に戻った。わたしたちは、奥にある何かに向けて歩き出す。
「んー? あれって、何かな?」
近づいていくと、少しだけ輪郭が見えるようになった。家のようには見えない。何かが光を反射しているようだ。イオがジッと目を凝らす。
「水場かもしれない。水は一応あるが、確保していた方がいいだろう」
確かに水があるなら太陽の光を反射しているはずだ。
「それにしても……」
ビュンビュンと、さっきから音が鳴りやまない。異常だった。
「風が強い」
ルーシャちゃんが神妙な声でつぶやく。
「居るのかも……」
確かにシルフが居てもおかしくないぐらいの風の強さだ。シルフがいるから風が強いとは限らないかもしれないけれど――
「とにかく何があるか確認しよう」
イオがそう言うけど、本当ならこんな強風が吹く中に行きたくない。ルーシャちゃんも嫌そうな顔をしている。とはいえ、調査なのだから行かないわけにはいかない。
わたしたちはイオを先頭にジリジリと近づいていく。ものすごい向かい風だ。エルメラはわたしの髪にしがみついている。
「……精霊の気配がする。すごく濃いよ」
とはいえ、近くに精霊の姿は見えない。
「来ますわ!」
ドゴン!
ルーシャちゃんが叫んだ瞬間、地面が揺れる。
「わっ、わっ、わっ」
わたしは立っていられなくて、その場にしゃがみ込んでしまう。
「ユメノ! 下からだよ!」
「え! 下から!?」
エルメラの言葉につられて砂の地面を見たときだ。イオがわたしの腕を思い切り引っ張る。わたしがいた場所から長い物体が突き出てきた。
「あれはなに!?」
長いだけじゃない。かなり巨大で、先端に鋭い針までついていた。
「これって……」
「ここはわたくしが! ミルフィーユ!」
ルーシャちゃんの杖の精霊石から小鳥が出てくる。風の精霊ミルフィーユだ。
「正体を見せなさい!」
ミルフィーユが何かがいるあたりの砂を風で吹き飛ばす。すると、精霊の全体像がハッキリと見えるようになった。
「巨大なサソリ!?」
そこにいたのは長い尾の生えたサソリだった。土の精霊にも見えるが、風を纏っているから風の精霊だろう。
「どうして、浮島に来てから精霊は襲ってこなかったのに」
「きっとこの辺りの主なのですわ! あ! また砂に潜ってしまいますわ!」
巨大なサソリは砂を掘って、頭から潜り込もうとしている。砂の中からでは、いつ攻撃が来るか分からない。
「させない。フリント!」
イオが土の精霊のキツネを呼び出した。
「剣を!」
巨大なサソリに駆け寄りながら叫ぶイオ。振りかざした杖が一瞬で土の剣になる。
「はああぁぁあ!」
イオは巨大なサソリに剣を振り下ろした。
ガキイィィン!
辺りに金属同士がぶつかるような音が響いた。イオの剣がサソリの頭を斬りつけたのだ。
だけど、イオは踏ん張りながらも下がって来る。
「くっ、硬い!」
砂ぼこりを立てて、イオはさらに引き下がった。一方の巨大なサソリは、無傷でビクともしていない。
「どうしよう。わたしのホムラで焼いちゃう?!」
「いや、この砂漠にいるくらいだ。熱さには強いだろう」
「では、わたくしのミルフィーユが!」
でも、同じ風属性だからあんまり効果ないんじゃないだろうか。そう、わたしが思ったときだ。
「苦戦しているようですね」
「な、なに!? どなたの声ですの!?」
ルーシャちゃんは驚いているけれど、この声はイオの精霊石の中から。つまり、ノームの声だ。
「苦戦も苦戦中だよ! ノーム戦えるの!?」
そう言っている間にも、上からサソリの尾が次々と降って来る。わたしたちは砂まみれになりながら、必死で駆けまわって避けた。
「ええ。わたしの力が必要でしょう。では、イオ殿、ご命令を!」
「わざわざ言わなくても出て来ればいいのに」
わたしもサラマンダーに対して同じように思うけれど、やっぱりルールが必要だと思う。それに、精霊石の近くに本人がいないと出て来られない。
「ノーム、召喚」
イオは剣の精霊石に手を当てて、そう静かに言った。精霊石から黄色く光る玉が飛び出てくる。そして、色とりどりの花びらが吹き荒れた。
「わたしは土の精霊の王ノーム。虫如きがわたしに立てつこうなどと思わないことです!」
ビシッと巨大なサソリを指さすノーム。決まってはいるんだけれど――
イオが思い切り顔をしかめた。
「なぜ、その姿なんだ」
ノームはノームでも、小人のおじいちゃんの姿ではなくて、わたしたちと戦った美青年の姿だった。
「ふふ。わたしの姿に、皆さん見惚れているようですね」
いや、呆れているだけなんだけど。
「なに、この奇妙な人……」
ルーシャちゃんもあんぐり口を開けている。
「さあ、風の精霊よ。精霊の王であるわたしにひれ伏すのです!」
バサッ
決めセリフを言った途端、ノームは背後からイオに真っ二つに斬り裂かれた。
「な! 何をするのですか、イオ殿!」
すごく焦った顔で土の断面から小人のおじいちゃん、ノーム本体が出てきた。イオはすごく嫌そうな顔で見下ろしている。
「いや。まだ何かに憑りつかれているのかと思って」
うんうんと、わたしは頷く。そうしている間にノームが断面をくっつけて、青年の姿に戻った。意外と便利だ。
「わたしは正常です! 大体、この姿ではないと戦えないのです!」
それはそうかもしれない。小人では小さすぎて上手く動けなさそう。
「じゃあ、さっさと戦ってくれ」
イオは素っ気なく言うけれど、確かに今はそれどころじゃない。
「では、花よ!」
「おお!」
ノームの周りに大量の花びらが舞う。
「そして、宝石よ!」
さらにノームの下の地面からキラキラと宝石のシャワーが沸き上がる。
「……何をやっているんだ」
バサッとまたイオがノームを真っ二つにした。ノーム本体が顔を出す。
「いや、ですから今から必殺技を出すのに演出を」
「演出などいらない。あの精霊をどうにかしろ」
うんうんと頷くわたしとエルメラ。でも、もしかしたらノームってわたしたち以外と戦ったことがないから、戦い方が分からないのかもしれない。そうしている間も、巨大なサソリは地中に潜ろうとしている。
「あれをどうにかしろ」
「分かりましたよ。土よ!」
ノームが手をかざす。すると砂の下から土の地面が出てきて、サソリをがんじがらめにした。やるじゃん!
「では、わたしの必殺技を!」
ノームはまた花びらをまき散らす。だけど、その前にノームの肩をイオが掴む。
「……待て。お前、何でも斬れる剣が出せるのだったな」
動きを止めるノーム。
「それは、そうですが」
「これから何が待つか分からない。俺の剣を強化してくれないか」
「そんなこと出来るの?」
わたしが聞くとノームは「はい」と頷く。
「イオ殿が言う通り、剣の強化をすれば今より数倍切れ味が増すでしょう。……よろしいでしょう! さあ! その剣をわたしに向けて下さい」
イオはノームに剣の切っ先を向ける。すると、ノームはイオの剣の先端を人差し指で触れた。触れた先から剣はキラキラと輝きを増していく。
「わっ!」「綺麗」
石で出来ていたように見えた剣は、琥珀色の綺麗な宝石で出来たような剣になった。
「これでわたしが居なくとも、この剣が使えます。さぁ! 行くのです、イオ殿!」
「言われなくとも」
イオはキツネの精霊に足場を作らせて、巨大なサソリに一気に近づく。
「ハアッ!」
そして、琥珀色の剣で頭に振り下ろした。さっきまで、ガキンと音が鳴るばかりで斬れなかった硬い殻。それが、綺麗に真っ二つに割れた。精霊の姿が完全に消え、緑の玉が浮く。
「荒ぶる精霊よ。静かに眠りたまえ」
イオが祈ると、緑の玉も空中に溶けていった。
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