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シルフ編
第八十一話 ざわり
しおりを挟むわたしが放った矢は、シルフの影に一直線に向かっていく。影がこっちに気づいて、影の羽を伸ばしてきた。しかし、白い炎の矢はその羽を突き破る。耳をつんざくような叫びが響き渡った。矢はシルフの影の肩に深く突き刺さったのだ。
「まだまだ!」
三本の矢を一気に弓につがえる。熱く白い矢。神経をギリギリまで尖らせて、殺気のこもった声でお腹から吐く。
「確実に敵を撃つ!」
きゅる!
そんな声が聞こえた気がした。ピンと張った弦を離すと矢はわたしの手から離れ、シルフの影に三連撃で刺さる。まるで標本のように地面に貼り付けにすることが出来た。震えていたシルフの影は動かなくなる。
「やりましたの!?」
「ううん。動きを止めただけ。さぁ! シルフ! いまの内に!」
ルーシャちゃんの杖に呼び掛けた。
「ああ! 今なら吸収できそうだ!」
杖の精霊石からシルフが飛び出す。そのまま、すぐに下へ向かっていった。
「僕の元へ、戻れ!」
再びシルフが身体の前に緑の光の渦を作りだす。すぐにシルフの影は吸い込まれていった。途端に、周りの竜巻もピタリと動きを止め、炎も消えて霧散していく。
「やった!」
「きゅる!」
わたしがグッと拳を握ると、もう必要ないかと思ったのか、ホムラが弓から精霊の姿に戻った。
「ふう。もう、下に降ろしても大丈夫ですわね。ミルフィーユ」
わたしたちはゆっくりと下に降りて行く。そして、足がつくと走り出した。
「イオ! シュルカさん!」
行く先は、新しく出来ていたシェルターだ。きっとノームが竜巻の直撃する前に作り出したに違いない。
「ユメノ。ルーシャ。シルフの影をやったか」
中からイオが出て来る。ちょっと服が焦げているけれど、大丈夫そう。
「シュルカさんは? 無事?」
イオは黙ったまま、シェルターの中へとわたしたちを促す。そこには苦しそうに表情を歪めたシュルカさんが横たわっていた。イオに応急手当をされたようで、胸に包帯を巻いている。
「炎による火傷と風による切り傷を受けている。簡単な手当てはしたが……」
「意識はありますの?」
「シュルカさん、しっかり!」
わたしたちがシュルカさんに呼び掛けると身じろぎをした。
「う。お前たちか。ユメノ。お前の炎は効くな……」
「そんなこと言っている場合じゃないよ、シュルカさん。一度、村に帰ろう。そうしたらちゃんとした手当てをしてもらえるよ」
「そうですわ。ここでは薬草も十分にありませんもの」
わたしたちが持っているものは、必要最低限のものだけ。精霊には癒しの力はないので、一度帰る必要がある。
「……ああ。これでは動けない。戻るしかないな」
ほっと息をつく。すんなり、戻るって言ってくれて良かった。
「じゃあ、サラマンダーを呼ぶね」
シェルターから外に出て、杖を天にかざす。
◇◇◇◇
ユメノが外に出て行き、ルーシャは深くため息をついていた。思わずユメノが作り出した弓を思い浮かべる。
美しい弓だった。赤い弓に青い弦、そして白い矢。最初はルーシャが弓を作り出そうとしていた。だが今、考えると弓矢というのは、イメージ力がかなり必要な武器だ。素材の違う部分が三つ。剣や槍とは違う。ただ硬ければいいというものでもない。
その難易度の高い弓矢をユメノはあっという間に作り出していた。練習のときでも、ユメノは作る武器さえ決めてしまえば、すぐにでも作り出せそうだったことを思い出す。
イオは言っていた。すでに精霊のコントロールは完璧だから時間の問題だろう、と。
本当にその通りだった。
もう一度、はぁと息を吐くルーシャ。これでは自分は、シルフを運ぶだけの係になりそうだ。
「ルーシャ」
名前を呼ばれる。シュルカだ。すぐに近づいて、口元に耳を寄せる。
「どうしましたか、どこか痛みますの?」
「いや。どうやって、シルフの影は捕えられたんだ?」
シェルターの中にいたから、全く見ていないはずだ。
「ああ。竜巻の上からユメノが武器を作って、捕まえましたの。……弓で」
そう言うと、シュルカはフッと笑う。
「やはりな」
「やはり?」
「ああ。ユメノならばきっとやると思っていた。ルーシャでは敵わない相手だろう」
失望などではない。シュルカは当たり前のように、そう思っているのだ。
自分でもそう思う。活躍するのは、それだけの力があるユメノ。けれど、人からそれを言葉にされて聞かされると……。
ざわりと、胸の中で何かが騒めいた。
◇◇◇◇
サラマンダーを呼び出すと、イオが肩を貸してシュルカさんを背中に運ぶ。
「まるでシュウマ山のときのようだな」
シュルカさんの言うシュウマ山とは、サラマンダーが住んでいる山のことだ。あのときは、戦い終わったサラマンダーがシュルカさんじゃなくて別の怪我人を運んでくれた。
「確かにちょっと状況似ているかも」
「あのときは大変だったよね」
エルメラが腕を組んで、うんうん頷く。シュルカさんは穏やかな顔で言う。
「怪我人を連れて撤退するはずが、イオが飛び出してしまってな」
「そうそう」
あのときの事を思い出しただけで、熱さで汗がでる。イオはノームを倒すためにサラマンダーを使役しようとして躍起になっていたんだ。バツが悪そうにイオがつぶやく。
「……あのときは、未熟だった」
「しかし、ユメノの歌声がなければ、吾輩もこうして友と共にいることもなかった。そう思うと、お互いゾッとするものだな」
サラマンダーも首をこちらに向けて言う。あれから、一年も経っていないけれど、こうしてみんなと話していると随分と昔のことのようだ。
「あの、村に向かいませんの?」
ルーシャちゃんが少し気まずい様子で聞いた。そういえば、ルーシャちゃん以外はサラマンダー討伐に行ったメンバーだ。知らない昔話を聞いていると、ちょっと一人だけ居心地が悪いかもしれない。
「そうだね。シュルカさんの怪我があるから、早く行かなきゃ。サラマンダー、なるべく速く飛んでね」
「了承した。振り落とされないように気を付けるのである」
サラマンダーは羽ばたき、上空に行くとシウン村の方へと空を飛び始めた。
空の旅は順調だった。サラマンダーが飛ぶ行く手には雲だけ。その雲もサラマンダーのスピードなら一瞬で突っ切ってしまう。
しかし、そのままシウンの村へ一気に行くことは出来なかった。
「サラマンダー! ちょっと待って」
突如、シルフがルーシャちゃんの精霊石から声を上げる。
「なんだ、シルフ。吾輩は突然には止められぬぞ」
そうは言ってもサラマンダーは羽をはばたかせて、急ブレーキとは言わずとも、かなりスピードを落とした。すると、シルフが姿を現す。
「あの、雲の中に、いる」
「え?」
シルフは大きな黒い雲の塊を指さした。どうみても雷雲だ。少し離れた空に浮かんでいるサラマンダーも避けて通るだろう。
「いるって、もしかしてシルフの影が?」
「そうだよ。三体目の僕の影だ」
「しかし」
イオが支えているシュルカさんを見る。その怪我を見ると、とてもじゃないが彼を連れて雲の中に飛び込もうなんて思わない。けれど、当のシュルカさんが首を横に振る。
「俺のことは気にしなくていい。影はいつどこに現れるか分からない。見つかったときに捕えておくべきだ。それに今はユメノの弓がある。シルフの影を捕えるためには絶好の武器だ」
「そりゃ、そうかもしれないけれど……」
風を追える炎の弓は有効だと自分でも思っている。それでも簡単には頷けない。
「けど、万全な状態で挑んだ方がいいんじゃないのかな?」
「だ! 大丈夫ですわ!」
ルーシャちゃんが自分の胸を叩く。
「シュルカさんを支える役目は、わたくしにお任せくださいな。それぐらいならできます!」
わたしたちは顔を見合わせた。
「じゃあ、まずいと思ったらすぐに退くよ」
「それがいい」
イオも頷いて、サラマンダーは黒い雲に近づいていく。
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