声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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シルフ編

第八十四話 全ての影が揃う

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 黒い髪が風にたなびいている。包帯を巻いているシュルカは、寝間着で裸足のままだ。



「シュルカ! 目が覚めたのか!」



 ザックが顔をほころばせて近づいていく。しかし、シュルカはザックの方を見ない。シュルカの視線は真っ直ぐルーシャを見ていた。



「シュルカさん! いきなり起きて大丈夫なの!?」



 異変を感じて、ユメノも駆けつけようとする。その前に、シュルカは手を、いや、黒い羽をルーシャの杖の精霊石に伸ばす。黒い渦が精霊石を包み込んだ。



「え……」



 ルーシャは身動きできなかった。シュルカは何をしているのだろう。シュルカの精霊の羽根とは違う。いや、これは間違いなくシルフの影の羽根だ。

 しかし、勘づいたときにはもう遅かった。精霊石を包み込んだ黒い風が渦を巻く。まるで、シルフが影を吸収するときと同じように。



「や、やられた……」



 ルーシャの精霊石からヘロヘロとシルフが出て来る。子供のようだった彼はさらに小さくなり、まるで赤ん坊のような大きさになっていた。



「シルフ!」



 ルーシャはシルフに手を伸ばそうとする。しかし、その手をシュルカが掴んだ。深く黒い瞳がルーシャの瞳を覗き込む。



「ルーシャ。力を与えよう」



 いつもよりも、ずっと不気味に聞こえる声。



「シュルカさん? 何を言って……」

「誰もルーシャを認めたりしない。ならば、本当のその力を見せつけるべきだ」



 シュルカの黒く深い瞳を見つめているうちに、ルーシャの思考が吸い込まれていく。ぼんやりとしたまま、言葉を繰り返す。



「見せつける? そうしたら、ザックお兄さまも……?」

「ルーシャちゃん! 話を聞いちゃダメ!」



 ユメノが叫ぶ声も遠くに聞こえた。それもそのはず、ルーシャとシュルカの周りにだけ黒い風が吹き荒れている。



「さぁ。ルーシャ、その力を解放しよう。きっと楽しいことが待っている」

「楽しいことが……」



 ゆっくりとルーシャが頷いたことが合図だった。





 ◇◇◇




 目の前で黒い風が強く渦巻いた。向かってくる風を何とか腕で防ぐ。



「きゃあああ!」

「エルメラ!」



 あまりに強い風にエルメラが飛んでいってしまう。



「大丈夫だ」

「イオ!」



 エルメラをキャッチしたイオが、風に大きくあおられながら近づいてきた。イオでさえ、杖を支えにしてしか近づいて来られない。



「だが、一体これはどうしたんだ」



 イオがそう言うのも、そのはずだ。目の前で見ていた、わたしだって訳が分かっていない。



「それが……。ルーシャちゃんとザックさんが話していて、そこにシュルカさんが現れたの! それでシュルカさんは、たぶんシルフの影に憑りつかれていたみたいで……」



 シュルカさんから生えていた羽は、彼の精霊のクロキカゼの翼ではなかった。間違いなく、シルフの影のそれだった。



「シュルカは一体目を吸収したときに、はぐれただろう。たぶん、そのときに憑りつかれたみたいだ! ごめん。僕が気づかなかったのが悪い」

「シルフ!」



 まるでぬいぐるみのマスコットのようになってしまったシルフが転がって来た。力なく弱っていて、へろへろだ。わたしはシルフを抱き上げる。

 シルフは風の中心を指さした。



「しかも、狙いはルーシャだ!」

「どういうことだ」



 イオが腕で風をガードしながら尋ねた。



「僕の影はおそらく強い力を求めている。最初はシュルカに憑りついた。でも、より強い力の持ち主のルーシャの心の隙間に入り込むつもりなんだ!」



 そのとき、いきなり風がピタリと止む。



「な、なに?」



 黒い風でよく見えなかった視界がクリアになる。イオの腕の下から覗き込むと、シュルカさんとザックさんが地面に倒れていた。立っているのは、ルーシャちゃんだけ。



「ルーシャちゃん?」



 わたしはおそるおそる呼び掛ける。ルーシャちゃんは笑みを浮かべて振り返った。その笑顔にホッとする。けれど、すぐにルーシャちゃんはその場から消えた。



「え?」

「上だ!」



 イオの声に顔を上げる。そこには黒い影。ルーシャちゃんを中心に空いっぱいに伸びて行く。まるで、蜘蛛の巣のように広がっていった。シルフの影の羽だ。それもたくさん。



「アハハハハハハハハハ!」



 笑い声が聞こえる。ルーシャちゃんの声だ。

 影の羽の中心にいる。頭の二つのお団子が解けて、長い髪が黒い風に広げられた。ルーシャちゃんは笑う。でも、いつもの笑顔ではない。



「なんだか楽しいことが始まる予感がしますわ!」



 興奮に高ぶった声。異様なルーシャちゃんの声は村中に響く。



「ルーシャちゃん……、シルフの影に憑りつかれちゃったの?」



 あの姿はそうとしか思えないが、わたしは信じたくなかった。風はまた縦横無尽に吹き荒れ始めている。小さくなったシルフが叫ぶ。



「ルーシャ! 心から影を追いだすんだ!」



 しかし、上空にいるルーシャちゃんは不思議そうに首を捻った。



「どうしてですの? こんなに楽しい気分なのに。むしろ、ついさきほどまでの方が、心に影がいたような気がしますわ。だから、みなさん、遊びましょう?」



 全く聞く耳を持たない。どうすれば、いいのだろう。



「影に憑かれていたシュルカさんは大丈夫だろうか」



 倒れているシュルカさんのもとにシルフを連れていく。シルフがシュルカさんの額に手を当てた。



「シュルカは大丈夫。全ての影はシュルカからルーシャに移動したみたいだ」

「全ての影……。そうか。シルフの影はこのときを狙っていたんだ」



 そうとしか思えない。きっと、村を襲ったときからルーシャちゃんを狙っていた。だから、竹林で近くにいるシュルカさんが一人のときに憑いたんだ。イオがギリッと奥歯を噛みしめて、ルーシャちゃんを見上げる。



「四体の影が合わさった力か。どれほど強い力だろうか」



 しかし、シルフは首を横に振る。



「四体の影じゃない。僕の残っていた力もほとんど吸われたし、ルーシャの力が合わさっている。正直言って、手のつけようがないほど最強だよ」

「最強……、ルーシャが?」



 側で上半身を起こしたザックさんがポツリとつぶやく。



「あら? 信じられませんこと、ザックお兄さま」

「な……」



 いつの間にか、すぐ近くにルーシャちゃんが来ていた。気配もしなかったのに……。宙に浮いたまま、ルーシャちゃんは微笑んでいる。



「わたくし、感じますわ。シルフの影と融合して本当に強くなりましたの。その力、身をもって感じて下さいませ!」



 ルーシャちゃんは宙がえりをして後ろに下がった。同時に、その黒い羽を鎌風のようにザックさんに斬りつける。



「みんな! 下がれ!」



 ザックさんを押しやって、前に出たのはイオだ。剣を構えて鎌風を受ける。

 ガガガガ!と音がして、剣で塞ぐけれど押されていた。



「くっ!」

「きゃあああ!」



 イオが受け止めてくれたけれど、後ろにいたわたしたちにも強い風が吹く。わたしは後ろの家の壁に叩きつけられた。ザックさんも地面に伏せて、必死にシュルカさんを押さえている。



「イオ!」



 こんな強力な攻撃を受けて、イオは無事なのだろうか。

 わたしは何とか顔を上げる。イオは庭の中央で、まだ黒い羽を一心に受け止めていた。剣を削ろうとする風の音が聞こえる。けれど、さすがはノームの剣だ。傷一つつかない。

 それを見て、ルーシャちゃんは攻撃を止める。



「そういえば、特別な剣でしたわね。あなたの相手はつまらないですわ」



 髪をいじって口を尖らせた。



「ルーシャ! シルフの言う通り影を追いだすんだ!」



 イオは羽だけを斬ろうと、剣を振るう。だけど、剣より早くルーシャちゃんは空高く飛んでいった。そして、いつもの笑顔で言う。



「そうですわ! せっかくだから村の人たちに遊んでもらうことにしますわ!」

「あ! ルーシャちゃん!」



 ルーシャちゃんは村の広場の方に飛んでいく。



「これってヤバいんじゃ……。遊ぶって本当に遊ぶわけじゃないよね」



 シルフの影に憑りつかれたルーシャちゃんの遊びは危険すぎる。



「巫女さま! ルーシャを止めて下さい!」



 ザックさんがわたしに向かって叫ぶ。



「もちろん。ルーシャちゃんは大事な友達だもの!」



 わたしは杖を構える。ルーシャちゃんを相手にわたし一人では心許ない。サラマンダーは何も言わないけれど、きっと見守ってくれているはずだ。

 だけど、杖を掲げる前にザックさんは地面を見つめて言う。



「もし、ルーシャが心から影を追いだすことが出来なければ……、ルーシャを、兄としてのお願いです。……殺してください」

「え……」



 一瞬言葉を失った。でも、ザックさんはさっきの一撃で分かったのだろう。ルーシャちゃんは、きっと誰かを傷つけてしまう。だから、こんなことを言うのだ。



「ダメだよ! そんなこと!」



 エルメラが飛び出て叫ぶ。



「ルーシャははじめから望んで影に憑りつかれたわけじゃないんでしょ?! ユメノだって、そんなこと出来っこない! わたしには分かるよ!」



 わたしはエルメラの顔を見る。いつの間にか、いがみ合っていた二人は信頼し合うようになっている。本当に必死にザックさんに訴えていた。

 ザックさんだって本当はこんなことは言いたくない。その証拠に、いつもは強い瞳がにじんでいた。わたしはしっかり頷く。



「絶対、絶対に、わたしがルーシャちゃんを助けます!」



 杖の赤い精霊石に手をかざす。



「サラマンダー召喚!」



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