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ウンディーネ編
第百五話 心からの感謝を
しおりを挟む周りを取り囲んでいた水の精霊たちが、次々に壁に埋め込まれた精霊石へと戻って行く。ツルオリも頭を垂れていた。わたしは祭壇の前にいるエルメラのもとに駆けて行く。
「エルメラ!」
「わっ、ユメノ!」
小さい妖精のエルメラ。抱きしめると潰れてしまうから、そっと手で包んで頬ずりをする。
「すごいよ、エルメラ! 本当にエルメラの声がウンディーネに届いたんだよ!」
「くすぐったいよ、ユメノ!」
そう言いつつも、エルメラも本気で嫌がったりしない。
「よくやったな、エルメラ」
「本当に。もう体力も限界でしたの」
イオとルーシャちゃんも武器を解除してやって来る。
「エルメラさま」
振り向くとすぐ近くにウンディーネが佇んでいた。波打つ水色の髪は艶々していて、肌も見ただけで潤っている。目鼻立ちもハッキリしていて、すごく綺麗な女の人だ。
だけど、エルメラにさまをつけて呼ぶのは違和感を覚えた。エルメラも不思議に思ったみたい。話しかけられても、ぼんやりして、返事を出来ずにいる。
ウンディーネは胸に手を当て、エルメラを真っ直ぐ見たまま続けた。
「エルメラさま。わたしの目を覚まさせていただき、ありがとうございました。エルメラさまの声が届かなければ、取り返しのつかないことになっていたでしょう。こうして、メジロと分かり合えることも出来なかった」
「拙者からも礼を申し上げます。エレメンタルマスターの皆さまにも、本当になんと謝罪すればよいか……」
後ろにいるメジロも深々と頭を下げた。普段はピンと立っている耳がしゅんと垂れ下がっている。本当に後悔しているみたいだ。エルメラがメジロのもとに行って、顔を覗き込む。
「えっと、確かにメジロがしようとしたことはいけないことだけど、ウンディーネが無事なんだから大丈夫だよ! だから、顔を上げて」
「かたじけない」
「エルメラさま、メジロを許していただき、ありがとうございます。さすがはわたしが主と認めたお方です」
ウンディーネが微笑む。しかし、わたしたちは目を見開いた。
「え。わ、わたしがウンディーネの主? でも、わたし、精霊石もなくて今は妖精なのに?」
エルメラにとっても寝耳に水だったようだ。
「エルメラさまがどのようなお方でも、わたしを救っていただいた事実は変わりません。サラマンダーがこのお方に仕えているように、わたしもエルメラさまに仕えたいと思います」
このお方とは、わたしのことだ。だけど、サラマンダーはわたしに仕えているというか……。
「ユメノは吾輩の主ではない。友である! 吾輩は友のピンチに駆けつけているだけである!」
「わっ!」
やっぱりというか予想通りというか、サラマンダーが文句を言いに精霊石の中から出て来る。
「わたしがイオ殿と共にあるのは贖罪のためです」
続いてイオの精霊石からノームが出てきた。珍しく青年じゃなくて、小人のおじいちゃんの姿だ。
「ルーシャは僕の大事な子供だからね。もちろん力を貸すさ」
シルフまでがルーシャちゃんの精霊石から出て来た。
「おお……!」
メジロが感嘆の声を上げた。四人の精霊の王が、わたしたち四人を取り囲んでいる。
全員揃うとその光景は荘厳だ。神殿の中が神聖な気配で満たされている気がした。
「吾輩たちからも、改めて礼を言う」
「よくぞ心を乱したわたしたちを鎮めて下さいました」
「命を懸けて戦ってくれたエレメンタルマスターの君たちに」
「心からの感謝を送ります」
精霊の王たちは恭しく頭を下げる。メジロまでもが、ウンディーネの後ろでひざまずいていた。エルメラも、イオも、ルーシャちゃんも、もちろんわたしも何も言えない。
しばらくして、四人が顔を上げるとみんな清々しい表情をしていた。
イオが少し感慨深げに口を開く。
「……しかし、ようやくすべての精霊の王たちが揃ったな」
確かにここまで長い道のりだった。特にイオはサラマンダーのいる山に登るときからずっと一緒だ。シュウマ山を登って、ノーマレッジで村を巻き込んだ大乱闘をして、未開の地で風を捕まえ、氷の地の精霊の海を越えてきた。
「それで四体揃えば何が起きますの?」
ルーシャちゃんが言うことに、シルフとウンディーネは顔見合わせる。そして、首を捻った。まさか――
「何がと言っても、……何が起きるのでしょうか?」
ノームも答えを求めるようにサラマンダーの方を見て尋ねる。
「どうなるのか教えてもらえますか?」
「うむ。四体揃ったからと言っても、何が起きるわけでもあるまい。吾輩が正気を取り戻しても、火の精霊たちは言うことなど聞かず好き勝手しているようであるし」
「水の精霊も同じようです」
ウンディーネも頬に手を当てて言う。だけど、せっかく全員揃ったのだから、何か起きそうなものだ。そこで、わたしは気づいた。
「もしかして、わたしが元の世界に帰る方法が分かるんじゃない!?」
当初の目的を思い出した。精霊の王を訪ねて回っていたのは、何も人助けをするためだけじゃない。わたしが元の世界に戻る方法を探すためだ。
精霊の王たちが正気を取り戻したのなら、わたしはもうお役御免だ。
元の世界で声優に戻れるに違いない!
わたしは期待を込めてサラマンダーを見つめる。そのサラマンダーはサッと視線をそらした。
「え、まさか……」
そこにクスリと小さく笑う声がする。
「悪いお人ですね、サラマンダー」
笑ったのはウンディーネだ。
「どういうこと?」
「元の世界への帰し方なんて、エルメラさまとユメノの魂を一目見れば分かりますのに」
「え! えッ!?」
わたしはノームとシルフを見る。すると、二人は気まずそうに視線をそらした。
「わたしはユメノ殿の助けが必要かと思って……」
「僕は二人の企みに乗っただけだけどー」
なるほど。二人ともサラマンダーの共犯だったわけだ。
「サ・ラ・マ・ン・ダー……」
これまでにないほど怒りを覚えた。きっと怒りのオーラが見えたなら、サラマンダーの炎よりも燃え上がっているだろう。
「お、おお。何だか寒気が。うむ、まだ辺りは凍ったままであるからな。吾輩は先に失礼する!」
シュンと小さく縮みあがって、杖の精霊石に戻って行く。
「こら! 待ちなさいよッ!」
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