声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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ウンディーネ編

第百六話 月へ行こう

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 すっかり陽も暮れて、わたしたちは神殿の中で食事を作る。メジロが神殿に隠していた大きな鍋や食材を持ってきたので、今夜は中々豪華なディナーになった。鍋にはウンディーネが新鮮な湧き水を満たして、野菜やお肉を煮詰める。

 サラマンダーに腹を立てていたわたしも、何とか気を鎮めて料理を手伝った。ノームとシルフも精霊石に戻って、いるのはウンディーネだけだ。ルーシャちゃんがスープの入った器を渡してくれる。



「まだ熱いですからお気をつけなさい」

「ありがとう。……これから世界の異変の原因を突き止めるんだよね」



 器を手に座り込んだわたしは皆の顔を見て言う。

 元の世界に帰れる方法が分かっても、さすがにこの状態では帰れない。精霊の王たちは正気を取り戻しても、多くの精霊たちは人間たちを襲っている。

 イオも頷く。



「そうだな。ウンディーネ。三百年前に何か異変はなかったか」



 サラマンダーやノーム、シルフに異変が起き始めたのは三百年前。ウンディーネにも何かがあったかもしれない。手がかりは三百年前にしかなかった。



「三百年前……。何かあったでしょうか」



 ウンディーネは首を捻る。



「精霊の海が凍ったのは三百年前じゃないの?」



 エルメラがウンディーネの前に飛んでいく。



「……いいえ。あれは二百五十年前のことです」

「じゃあさ、月が無くなったときのことは覚えている?」



 シルフがルーシャちゃんの精霊石から尋ねて来る。

 そうなのだ。もともと、三百年前にはあったはずの月がこの世界ではなくなっている。



「ああ。すっかり忘れていましたが、そんなことがありました。わたしはもしかして光と闇の精霊が、何かケンカでもしたのかと思っていましたが」

「光と闇の精霊?」



 はじめて出てきた名前だ。イオやルーシャちゃん、メジロも、興味深そうにウンディーネを見ている。これまで火や水の精霊はもちろん、雷や花の精霊には会ったことがある。

 だけど、思い返せば光や闇の精霊には会ったことがない。



「珍しいの?」

「わたくしも見たことないですわ」



 ルーシャちゃんがそう言うと、イオやメジロも首を振る。みんなが知らない様子を見て、サラマンダーが教えてくれる。



「それもそのはずだ。その昔、光の精霊と闇の精霊は、全て遠い空に旅立って行ったのである」



 ノームとシルフも、そうだそうだと思いだしたように話し始めた。



「そうでしたね。旅立つ前にわざわざわたしたちに挨拶に来てくれたのです」

「彼らが旅立ったのは、月が無くなる十数年ぐらい前だったと思うよ」



 三百年より前に居なくなったのなら、月とは関係ないのだろうか。でも、月は闇に浮かぶ光だ。ウンディーネの言う通り、この世界なら精霊たちがケンカしたと思ってもおかしくない。



「光と闇の精霊はどうして旅立ったの? しかも、二人同時になんて」

「なに。不思議なことではあるまい。光と闇は双子の兄弟であるからな。いつも一緒であった。この地の光と闇のことわりは完成させたから、他の地にまた光と闇の息吹を届けるために旅立つと言っていたな」

「朝になると陽が登り、夜になると闇が広がることか」



 当たり前のことだけど、この世界では精霊がそうさせていると思われているようだ。



「じゃあ、何で月が消えちゃったんだろう。それに、どうして月が消えたからって、精霊の王たちに異変が起きるの?」



 わたしの言葉に、みんな黙ってしまう。



「……光と闇の精霊は旅に出たって言っていたけど、本当は旅に出ていない、とか?」

「いや、それは考えにくい。吾輩たちは確かに見送った。それにあれだけ大きな気配を隠すのは不可能であろう」



 光や闇だ。他の精霊とは規模が違う。

 みんな黙ってしまった。しばらくするとイオが眉根を寄せて、話し始める。



「……三百年前のことは検討がつかない。だが、今も異変は起きている。気づいているか。王たちが正気を取り戻したのに、精霊たちがより狂暴になってきている」

「確かに未開の地では、以前は襲ってこなかった精霊が襲ってきましたわね」

「精霊の海の精霊たちもより強くなっている」



 ルーシャちゃんとメジロがイオの言うことに頷いた。精霊の海だから精霊が強いんだと思っていたけれど、どうやら違うようだ。住んでいるメジロが言うんだから間違いない。

 そういえばと、わたしは思いだした。



「異変といえば、エルメラにわたしを召喚するようにそそのかした人も怪しかったよね」

「お父さんの友達の商人の人?」



 エルメラがあまり疑っていない様子で首を捻る。妖精になったとはいえ、エルメラはまだ十二、三才の子供だ。

 わたしはみんなにエルメラの過去のことをかいつまんで話した。イオがわたしの意見に対して同意する。



「なんの思惑もなく、高価なエーテルを渡すなんてことないと思う」

「でも、呼び出したユメノはこうして皆を助けてくれたし、きっといい人だよ!」

「そりゃ、結果的には良かったかもしれないけれど。これがもしわたしじゃなければ、たぶん村で炎に包まれて」



 ――ジ・エンド。

 想像しただけでゾッとする。本当にホムラに声が届いてよかった。



「……その商人にとって、ユメノが来たことがイレギュラーなんじゃないか?」

「え?」



 イオがわたしとエルメラを見つめる。



「エルメラは村の巫女として選ばれ、本来ウンディーネに声を届けるほどの実力があった」

「でも、そのときわたしは声が出なくて……」

「だが、ずっと出なかったとは限らない。だから、それを利用して別の世界からこちらの知識などない人物を呼んだ。それならば、精霊を使役も出来ないだろうと踏んで」

「そ、そっか! つまり、精霊使いとして将来有望なエルメラを潰そうとして、商人はわたしを呼ばせたんだ!」



 そう考えると、商人は親切でも何でもない。



「……もしかすると、メジロの村も強い精霊使いを潰すために襲われたのかもしれませんわね」

「……」



 ルーシャちゃんの言葉に、メジロはグッと持っている拳を握る。



「しかし、その商人を追うにしても、拙者の村を襲った者を追うにしても、手がかりはあるのですか?」



 わたしたちはうーんと考え込む。どちらにしても、時間が経ちすぎている。商人を追うのにロオサ村に戻って村の人に目撃情報を集めても、あまり有益な情報があるとは思えない。距離が近いのはメジロの村だけど……



「じゃあ」



 とりあえず、メジロの村に行こうと、わたしが口を開こうとしたときだ。



「では、皆さんで月に行きましょう」

「「「「「は?」」」」」



 みんなが間の抜けた顔で見つめるのは、ニコニコと微笑むウンディーネの顔だった。

 わたしたちがウンディーネをぽかんと見つめていると、サラマンダーたちが精霊石の中から愉快そうに話し出す。



「おお! 月に行くのは久しぶりではないか!」

「以前はよくピクニックに行きましたね」

「何百年も前のことだけどね」



 どうやら精霊たちは夜空に浮かぶ月と言っても、気軽に行けるみたいだ。



「じゃあ、四人で月の様子を見て来るんだね」



 ウンディーネが言う皆さんで月に行こうという話は、精霊の王たち四人でという意味だったみたいだ。自分たちも一緒かと思って驚いてしまった。

 だけど、ウンディーネはまたしてもニコニコして言う。



「何を言っているのですか? もちろん、エルメラさまたちも一緒ですよ? 月は美しいところですよ」



 エルメラは目を丸くして、わたしを振り返った。わたしの世界でも月に行けるのかと聞きたいのだろうけれど、わたしも信じられない話だ。

 けれど、神妙な顔をしたイオが口を開く。



「……災いと関係があるかもしれない月に行くとして、どこに月があると思う」



 さすがに月には行けないと思うよという言葉を一度飲み込んだ。

 確かに月に行ける精霊たちも、場所が分からないと行けない。夜空には星しか無くて、月は太陽のように夜の間動いているはずだ。

 サラマンダーも、うーむと唸った。



「それは行ってみないと分からないであろう」

「そうだね。本当になくなってしまっていたなら、それはそれで確かめないと。でも、あれだけ大きなものが忽然と無くなるとは思えないよ」



 シルフの言うことはもっともだ。ルーシャちゃんは頬に指を当てる。



「わたくしは見たことありませんけど、夜空にあるはずの月に行くのですわよね。サラマンダーの背中に乗っていきますの?」

「いやいやいや!」



 わたしはルーシャちゃんの言うことに、素早く手を振る。いくらサラマンダーの背中に乗っていけるとしても、宇宙には空気がない。すぐに窒息してしまう。



「無理だよ!」

「ユメノの言う通りである。さすがに吾輩も休憩もなしに月には行けぬ。それに月は真上であるから、吾輩の背中では皆振り落とされてしまうであろう」

「そういう意味じゃないんだけど……」



 やっぱりわたしたちが月に行くなんて無理なんだとホッとする。でもそれも束の間のことだ。わたしのことは無視してウンディーネが話を進める。



「それに月はとても遠いです。わたしたちでも、以前月に行ったときは一月かかりました。エルメラさまたちも一緒なのに、それほど時間はかけていられませんね」

「以前は僕たちが休憩するのに、いかだを作ったね」

「ええ。わたしが樹々を出して、シルフが風で浮かせたのでした」

「うむ。ユメノたちが一緒ならばその程度では心もとないである」



 精霊の王たちは、わたしたちを余所に話し込みはじめた。



「月ってどんな所だろう」

「いくら何でも月には行けないと思うよ。エルメラ」



 きっと明日には諦めようと結論が出ているはずだ。とにかく今日は疲れた。食事を片付けると、わたしたちは寝ることにする。

 毛布にくるまって、精霊たちの声を子守唄に眠りについた。

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