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ウンディーネ編
第百七話 氷の海が溶けるとき
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トントントン、カンカンカン
「んー……、何の音?」
まだ眠いのに何かを叩く音で、わたしは目を覚ました。
「まだ眠いよー」
上半身を起こすと、わたしのお腹の上にいたエルメラも文句を言う。
「でも、こううるさいと眠れないよ。ふわあぁ」
大きなあくびをして、周りを見る。けれど、わたしたちが運び入れた荷物が置かれているだけだ。だけど、神殿にはイオもルーシャちゃんもメジロもウンディーネも、誰もいない。
みんな、早起きだ。神殿の中にいないということは、外に違いない。眠気眼のエルメラを手の平に乗せて、神殿の入り口の方へと向かった。
外に出ると、朝陽がまぶしく目を細める。そういえば、精霊の海はずっと雲が厚くかかっていたけれど、晴れたみたいだ。ウンディーネが復活したおかげだろう。
けれど、少し歩いたところで、足を止めた。
「え……」
わたしは朝陽が照らす、それを見てあんぐりと口を開ける。
「何しているの?」
エルメラも目をぱちくりさせて驚いていた。何もなかったはずの神殿の前では、土の人形であるゴーレムたちがたくさん働いている。ノームが生やしたのだろう、大木をノコギリで切り、金づちをもって大工仕事をしている。
ノームが指示を出して、花の精霊の女王や宝石の精霊の王も手伝っていた。
「音の正体はこれかぁ……。でも、本当に何しているの?」
彼らが何をしているか、さっぱり見当がつかなかった。
「これは船を作っているのです」
「船?」
気づくとすぐそばにウンディーネが立っていた。恭しく頭を下げる。
「おはようございます、エルメラさま」
「あ、うん。おはよう、ウンディーネ。船って、もしかして月へ行くための?」
「はい。もちろんです」
清々しい顔で言うウンディーネ。しかし、わたしの口角はぎこちなく動く。
「い、いやいや。船って、浮かぶところがないじゃない。空だよ、空!」
思わず大きな声を出して、空を指さした。
「そうですね、今は」
「今は??」
「わたしが目を覚ました以上、精霊の海をこのまま凍ったままにしておくわけにはいきません。昔は人々にも愛される湖でしたから」
人も寄りつけないくらい厳しい寒さの土地だけど、昔はきっと温暖で気持ちのいい湖だったのだろう。今のウンディーネなら氷も溶かせるみたいだ。
「ですが、氷を溶かすにあたって一つ問題があります」
「問題?」
「溶かしたら何か悪いことがあるの?」
エルメラの顔を見て、はいと頷くウンディーネ。
「氷の土地は長い年月を経て、空気中の水分も雪が降り積もることで氷として堆積させています。それを全て溶かしてしまったら」
「そっか! 湖の容量を超えて、あふれ出ちゃうんだ!」
ウンディーネはゆっくりと頷いた。きっと精霊の海では容量が足りなくて、周りの森も水浸しになってしまうだろう。
「でもそれじゃ、ずっとこのまま溶かせないんじゃ……」
ちょっとずつ溶かしていくぐらいしか思いつかない。
「そこで余剰になった水は天に昇らせようと思うのです」
「天に?」
「ええ。天に昇った水はシルフたちの協力を得て、まんべんなく雨として降らせます。地上には少し長く雨が降ることにはなりますが、溢れさせてしまうよりもずっとよろしいでしょう」
「「なるほどー」」
わたしとエルメラは素直に感心した。雨を降らせるように調整することは、精霊の王たちの力だからこそ出来るのだろう。だけど、感心したのは束の間だった。
「そして、水を天に昇らせる勢いを利用して、船を空に上げるのです」
わたしたちは目が点になる。
「どうですか。一石二鳥でいいアイデアでしょう」
ウンディーネは誇らしげだ。でも、船を空に浮かべるなんて、聞いただけで、とんでもないことのような気がする。
その上、わたしたちがその船に乗る!?
もちろん船は一日では作れなくて、雑務をしていると夜になる。
「だからさ、宇宙にはなーんにもないの。空気すらないから呼吸も出来ないんだから!」
わたしは焚火を囲んで座るみんなに力説した。この世界では宇宙に行ったことがある人間がいないから、宇宙がどうなっているか知らないのだ。
「呼吸が出来ないと……」
「もちろんあっという間にお陀仏よ」
震えるエルメラに、わたしは大げさに倒れてみせる。ひぇっと声がエルメラとルーシャちゃんから上がった。イオが冷静ぶって言う。
「しかし、この世界の空がユメノの世界と同じとは限らないだろう」
「いいや!」
わたしは大きくかぶりを振る。
「だって、太陽だって星だって同じなんだもん。宇宙空間も絶対一緒に違いないわ!」
わたしは夜空を指さした。夜の空にはやはり月は浮かんでいない。
「だけど、ユメノの世界には精霊は居ないのであろう」
わたしの精霊石の中からサラマンダーが口を挟む。
「そうだけど」
「吾輩たちが行くことが出来たのだ。大丈夫だろう」
「そりゃ、サラマンダーたちは超常現象みたいな存在じゃない」
人間を同じにしてもらっては困る。
「だけど、もうすでに船は作っていますし」
ノームも渋るような声で言う。確かにノームが作っている船はたった一日で、骨格が出来上がってきている。もったいないと思うだろうけれど、人命には変えられない。
「船は精霊の海が普通の湖に戻ったら、浮かべればいいよ。きっと人間たちの役に立つと思う」
わたしは腕を組んでうんうんと頷いた。ノームがそんなぁと言っているけれど、これは仕方がないことだ。
それまで黙って話を聞いているだけだったメジロが口を開いた。
「しかし、実際問題として、月にしか手がかりがないのでは? エルメラ殿を妖精にしたという商人は当然手がかりがないであろうし、拙者の村に戻ったとしてもユメノ殿も見た通り廃墟があるだけである」
「でも、月に手がかりがあるとは……」
しどろもどろとしながら反論を試みる。すると、自信ありげな声がした。
「いや、確実に何かは分かるはずだよ」
シルフの声だ。確かにサラマンダーたちに異変が起き始めたのは、月が無くなってからだから原因があると考えても仕方ないけれど――
「でもさ、やっぱり空気が」
ウンディーネが間を取るように提案してくる。
「では、どうでしょう。とりあえず、行ける所まで行ってみるというのは」
「そうだね。それならいいんじゃない、ユメノ」
エルメラも頷いた。みんなの視線がわたしに集まる。そもそも最初から反対しているのは、わたしだけだ。
「仕方ないな……」
というわけで、月へ旅立つことが決定してしまったのだ。
月に行くことになって、一週間。ノームはせっせと船を作っていた。その間に、わたしたちも旅の準備をする。主に水と食料の確保だ。
水は地下の洞窟の湖から汲んできて、食料はメジロがソリを飛ばして、森にある一番近くの村に買い出しに行く。他にも精霊の海にいる動物をイオが狩ってさばいていた。
そして――
「完、成、で、す……」
ノームが後ろ向きに倒れると同時に、船に大きな帆が張られる。
「わぁ!」
「でっかい船!」
「すごいですわ!」
「よくやったな、ノーム」
神殿の前には巨大な帆船が出来上がっていた。わたしたち数人だけが乗るのに、大きすぎないかってぐらいだ!
ゴーレムたちに手伝ってもらって、荷物を運びこんでいく。
「ついに旅立ちのときであるな」
メジロがわたしたちを見送る。メジロは月への旅へはいかない。そんなメジロを振り返って、わたしはもう一度問いかける。
「メジロ、やっぱり一緒に行かない? 一人で待つのは寂しくない?」
せっかくまた打ち解けて、仲良くなったのに。
「いや、やはり精霊の王たちが守れるのはパートナーの精霊使いだけだろう。未知の土地で何が起きるかも分からないからな。拙者は足手まといだ」
「それに、メジロは一人ではない。我と共にウンディーネさまをこの地で待つのだ!」
メジロの肩に乗るのは水の龍だ。この数日で、あれだけ犬猿の仲だった二人もすっかり打ち解けていた。ウンディーネも微笑ましく二人を見つめる。
「わたしの大切な友、メジロを頼みましたよ」
「もちろんでございます、ウンディーネさま!」
わたしたちは船の甲板にあがる。
「サラマンダー!」
「シルフ!」
わたしとルーシャちゃんは、サラマンダーとシルフを呼び出した。甲板も広いからサラマンダーも寝そべることが出来る。
「いよいよ、旅立ちのときである。吾輩が飛ばずに旅をするなど、いつぶりだろうか! へ、へ、へくしょい!! ウンディーネ! まだ、氷は溶かさぬのか!?」
「せっかちだなぁ。少しは別れを惜しませてやりなよ」
出て来て早々おしゃべりな二人をよそに、わたしたちは神殿の前にいるメジロたちに手を振る。
「じゃあ、行ってきますわ!」
「すぐに戻ってくるかもしれないけれど!」
「世界の異変の原因を突き止めて来るよ!」
ウンディーネが船の先端で、両手を空にかかげた。
「では、……参ります」
手に青い光が集まって来る。すると、ズズズズと地面が揺れ始めた。しかも、周りでピシッピシッと音まで鳴る。何百年も凍り付いて微動だにしなかった氷の大地が大きく揺れ動いているのだ。
「これは……」
「想像していたより、大変なことなんじゃ……」
自然とデッキの手すりを掴む手に汗がにじむ。
「精霊の海よ。元の姿に戻るのです」
ウンディーネが上げていた手を両側に広げた。それとほぼ同時だ。
遠くにあった氷山が真っ二つに割れた。どこまでも広がっていた雪原は一気にくぼんでいき、ボコボコと水が湧き上がって来る。
ガコンッ!
「わわッ!」
大きな音を立てて、船が揺れたと思ったら後ろ向きに下がっていく。突然出来た水の渦に流されているのだ。わたしの髪に掴まっているエルメラが叫ぶ。
「ウ、ウンディーネ! これって、大丈夫?!」
だけど、彼女は振り返って微笑むだけだ。
「そろそろ風が必要かな」
シルフが腕を振って風を吹かせる。帆がパンッと張って、追い風を受け止めた。
「行きましょう」
ウンディーネが空を指さした瞬間、水の流れが大きく唸りを上げる。
空に向かって。船を水の流れに乗せて。
「吾輩も!」
サラマンダーは船につけられている炉に火を吐いた。それが動力となって、船底につけられているスクリューを回す。
「きゃああああ!!」
いきなり動き出した船に、わたしたちは必死に船にしがみついた。サラマンダーの背に乗るのなんて目じゃないくらいのスピードだ。大きな帆船は天に届くほどの水の流れに乗って空を駆け上っていった。
「んー……、何の音?」
まだ眠いのに何かを叩く音で、わたしは目を覚ました。
「まだ眠いよー」
上半身を起こすと、わたしのお腹の上にいたエルメラも文句を言う。
「でも、こううるさいと眠れないよ。ふわあぁ」
大きなあくびをして、周りを見る。けれど、わたしたちが運び入れた荷物が置かれているだけだ。だけど、神殿にはイオもルーシャちゃんもメジロもウンディーネも、誰もいない。
みんな、早起きだ。神殿の中にいないということは、外に違いない。眠気眼のエルメラを手の平に乗せて、神殿の入り口の方へと向かった。
外に出ると、朝陽がまぶしく目を細める。そういえば、精霊の海はずっと雲が厚くかかっていたけれど、晴れたみたいだ。ウンディーネが復活したおかげだろう。
けれど、少し歩いたところで、足を止めた。
「え……」
わたしは朝陽が照らす、それを見てあんぐりと口を開ける。
「何しているの?」
エルメラも目をぱちくりさせて驚いていた。何もなかったはずの神殿の前では、土の人形であるゴーレムたちがたくさん働いている。ノームが生やしたのだろう、大木をノコギリで切り、金づちをもって大工仕事をしている。
ノームが指示を出して、花の精霊の女王や宝石の精霊の王も手伝っていた。
「音の正体はこれかぁ……。でも、本当に何しているの?」
彼らが何をしているか、さっぱり見当がつかなかった。
「これは船を作っているのです」
「船?」
気づくとすぐそばにウンディーネが立っていた。恭しく頭を下げる。
「おはようございます、エルメラさま」
「あ、うん。おはよう、ウンディーネ。船って、もしかして月へ行くための?」
「はい。もちろんです」
清々しい顔で言うウンディーネ。しかし、わたしの口角はぎこちなく動く。
「い、いやいや。船って、浮かぶところがないじゃない。空だよ、空!」
思わず大きな声を出して、空を指さした。
「そうですね、今は」
「今は??」
「わたしが目を覚ました以上、精霊の海をこのまま凍ったままにしておくわけにはいきません。昔は人々にも愛される湖でしたから」
人も寄りつけないくらい厳しい寒さの土地だけど、昔はきっと温暖で気持ちのいい湖だったのだろう。今のウンディーネなら氷も溶かせるみたいだ。
「ですが、氷を溶かすにあたって一つ問題があります」
「問題?」
「溶かしたら何か悪いことがあるの?」
エルメラの顔を見て、はいと頷くウンディーネ。
「氷の土地は長い年月を経て、空気中の水分も雪が降り積もることで氷として堆積させています。それを全て溶かしてしまったら」
「そっか! 湖の容量を超えて、あふれ出ちゃうんだ!」
ウンディーネはゆっくりと頷いた。きっと精霊の海では容量が足りなくて、周りの森も水浸しになってしまうだろう。
「でもそれじゃ、ずっとこのまま溶かせないんじゃ……」
ちょっとずつ溶かしていくぐらいしか思いつかない。
「そこで余剰になった水は天に昇らせようと思うのです」
「天に?」
「ええ。天に昇った水はシルフたちの協力を得て、まんべんなく雨として降らせます。地上には少し長く雨が降ることにはなりますが、溢れさせてしまうよりもずっとよろしいでしょう」
「「なるほどー」」
わたしとエルメラは素直に感心した。雨を降らせるように調整することは、精霊の王たちの力だからこそ出来るのだろう。だけど、感心したのは束の間だった。
「そして、水を天に昇らせる勢いを利用して、船を空に上げるのです」
わたしたちは目が点になる。
「どうですか。一石二鳥でいいアイデアでしょう」
ウンディーネは誇らしげだ。でも、船を空に浮かべるなんて、聞いただけで、とんでもないことのような気がする。
その上、わたしたちがその船に乗る!?
もちろん船は一日では作れなくて、雑務をしていると夜になる。
「だからさ、宇宙にはなーんにもないの。空気すらないから呼吸も出来ないんだから!」
わたしは焚火を囲んで座るみんなに力説した。この世界では宇宙に行ったことがある人間がいないから、宇宙がどうなっているか知らないのだ。
「呼吸が出来ないと……」
「もちろんあっという間にお陀仏よ」
震えるエルメラに、わたしは大げさに倒れてみせる。ひぇっと声がエルメラとルーシャちゃんから上がった。イオが冷静ぶって言う。
「しかし、この世界の空がユメノの世界と同じとは限らないだろう」
「いいや!」
わたしは大きくかぶりを振る。
「だって、太陽だって星だって同じなんだもん。宇宙空間も絶対一緒に違いないわ!」
わたしは夜空を指さした。夜の空にはやはり月は浮かんでいない。
「だけど、ユメノの世界には精霊は居ないのであろう」
わたしの精霊石の中からサラマンダーが口を挟む。
「そうだけど」
「吾輩たちが行くことが出来たのだ。大丈夫だろう」
「そりゃ、サラマンダーたちは超常現象みたいな存在じゃない」
人間を同じにしてもらっては困る。
「だけど、もうすでに船は作っていますし」
ノームも渋るような声で言う。確かにノームが作っている船はたった一日で、骨格が出来上がってきている。もったいないと思うだろうけれど、人命には変えられない。
「船は精霊の海が普通の湖に戻ったら、浮かべればいいよ。きっと人間たちの役に立つと思う」
わたしは腕を組んでうんうんと頷いた。ノームがそんなぁと言っているけれど、これは仕方がないことだ。
それまで黙って話を聞いているだけだったメジロが口を開いた。
「しかし、実際問題として、月にしか手がかりがないのでは? エルメラ殿を妖精にしたという商人は当然手がかりがないであろうし、拙者の村に戻ったとしてもユメノ殿も見た通り廃墟があるだけである」
「でも、月に手がかりがあるとは……」
しどろもどろとしながら反論を試みる。すると、自信ありげな声がした。
「いや、確実に何かは分かるはずだよ」
シルフの声だ。確かにサラマンダーたちに異変が起き始めたのは、月が無くなってからだから原因があると考えても仕方ないけれど――
「でもさ、やっぱり空気が」
ウンディーネが間を取るように提案してくる。
「では、どうでしょう。とりあえず、行ける所まで行ってみるというのは」
「そうだね。それならいいんじゃない、ユメノ」
エルメラも頷いた。みんなの視線がわたしに集まる。そもそも最初から反対しているのは、わたしだけだ。
「仕方ないな……」
というわけで、月へ旅立つことが決定してしまったのだ。
月に行くことになって、一週間。ノームはせっせと船を作っていた。その間に、わたしたちも旅の準備をする。主に水と食料の確保だ。
水は地下の洞窟の湖から汲んできて、食料はメジロがソリを飛ばして、森にある一番近くの村に買い出しに行く。他にも精霊の海にいる動物をイオが狩ってさばいていた。
そして――
「完、成、で、す……」
ノームが後ろ向きに倒れると同時に、船に大きな帆が張られる。
「わぁ!」
「でっかい船!」
「すごいですわ!」
「よくやったな、ノーム」
神殿の前には巨大な帆船が出来上がっていた。わたしたち数人だけが乗るのに、大きすぎないかってぐらいだ!
ゴーレムたちに手伝ってもらって、荷物を運びこんでいく。
「ついに旅立ちのときであるな」
メジロがわたしたちを見送る。メジロは月への旅へはいかない。そんなメジロを振り返って、わたしはもう一度問いかける。
「メジロ、やっぱり一緒に行かない? 一人で待つのは寂しくない?」
せっかくまた打ち解けて、仲良くなったのに。
「いや、やはり精霊の王たちが守れるのはパートナーの精霊使いだけだろう。未知の土地で何が起きるかも分からないからな。拙者は足手まといだ」
「それに、メジロは一人ではない。我と共にウンディーネさまをこの地で待つのだ!」
メジロの肩に乗るのは水の龍だ。この数日で、あれだけ犬猿の仲だった二人もすっかり打ち解けていた。ウンディーネも微笑ましく二人を見つめる。
「わたしの大切な友、メジロを頼みましたよ」
「もちろんでございます、ウンディーネさま!」
わたしたちは船の甲板にあがる。
「サラマンダー!」
「シルフ!」
わたしとルーシャちゃんは、サラマンダーとシルフを呼び出した。甲板も広いからサラマンダーも寝そべることが出来る。
「いよいよ、旅立ちのときである。吾輩が飛ばずに旅をするなど、いつぶりだろうか! へ、へ、へくしょい!! ウンディーネ! まだ、氷は溶かさぬのか!?」
「せっかちだなぁ。少しは別れを惜しませてやりなよ」
出て来て早々おしゃべりな二人をよそに、わたしたちは神殿の前にいるメジロたちに手を振る。
「じゃあ、行ってきますわ!」
「すぐに戻ってくるかもしれないけれど!」
「世界の異変の原因を突き止めて来るよ!」
ウンディーネが船の先端で、両手を空にかかげた。
「では、……参ります」
手に青い光が集まって来る。すると、ズズズズと地面が揺れ始めた。しかも、周りでピシッピシッと音まで鳴る。何百年も凍り付いて微動だにしなかった氷の大地が大きく揺れ動いているのだ。
「これは……」
「想像していたより、大変なことなんじゃ……」
自然とデッキの手すりを掴む手に汗がにじむ。
「精霊の海よ。元の姿に戻るのです」
ウンディーネが上げていた手を両側に広げた。それとほぼ同時だ。
遠くにあった氷山が真っ二つに割れた。どこまでも広がっていた雪原は一気にくぼんでいき、ボコボコと水が湧き上がって来る。
ガコンッ!
「わわッ!」
大きな音を立てて、船が揺れたと思ったら後ろ向きに下がっていく。突然出来た水の渦に流されているのだ。わたしの髪に掴まっているエルメラが叫ぶ。
「ウ、ウンディーネ! これって、大丈夫?!」
だけど、彼女は振り返って微笑むだけだ。
「そろそろ風が必要かな」
シルフが腕を振って風を吹かせる。帆がパンッと張って、追い風を受け止めた。
「行きましょう」
ウンディーネが空を指さした瞬間、水の流れが大きく唸りを上げる。
空に向かって。船を水の流れに乗せて。
「吾輩も!」
サラマンダーは船につけられている炉に火を吐いた。それが動力となって、船底につけられているスクリューを回す。
「きゃああああ!!」
いきなり動き出した船に、わたしたちは必死に船にしがみついた。サラマンダーの背に乗るのなんて目じゃないくらいのスピードだ。大きな帆船は天に届くほどの水の流れに乗って空を駆け上っていった。
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