声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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ウンディーネ編

第百十一話 吾輩の名を呼べ

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 ――闇は観ていた。



「みんな! あいつを閉じ込める方法を考えよう!」



 邪魔な存在が眼下をうろちょろとしている。地表から自分を弓で指す、ちっぽけな女の存在。見ているだけで、先ほどから腹の底からぐつぐつと負の感情が湧いてきた。

 眼に映るもの全てが憎い。まさか、精霊の王たちの影を消し去ってしまうとは。

 そもそも、この女が来てから予定が狂いだしたのだ。ノームがこの十年でやっと自分が撒いた種の罠にかかりだした。サラマンダーは怒りを蓄積し続け、完全にコントロール不能に。シルフ本体を惑わすことは失敗したが分裂した影はシルフから独立し、独自に力を溜めていた。ウンディーネは子を失くしたことをきっかけに影を作り出すことに成功し、獣人の精霊使いを使って上手く凍り付かせることに成功した。

 何もかも順調だったのだ。

 それが、ロオサ村の巫女の元に向かったのが運の尽きだった。あの村は代々精霊使いとしての技術を子や孫に受け継いでいた。

 脅威にはならないだろうが、何百年もかけた計画だ。今が肝心なとき。芽を摘んでおこうと、精霊たちに村を襲わせ、巫女を孤独にすることに成功した。本当ならば、ここで巫女自身を始末しておくべきだった。まさか、念には念を入れて異世界から呼んだ魂が、精霊使いとしての素質があるとは――



『こんなことならば……』



 自分の中の闇が膨らむ。どうして奴らは絶望しない。

 理由は明らかだ。奴らには希望がある。自分とは違い仲間がいる。



『孤独のまま、捨ておけば良かったのだ!』



 そうしたら、巫女も孤独の闇に飲み込まれていただろうに。





 ◇ ◇ ◇






「な、なに!?」



 わたしたちは消し去った影と同じように、闇の眼を閉じ込める方法を考えていた。

 でも、相手は空に居てかなり巨大。ノームが土の箱を地上で作っても、追い込むことは困難だ。そんなとき、闇の眼から何かがボタボタと大量に落ちて来た。



「さきほどの闇の人間ですわ!」



 精霊の王たちの前に、わたしたちを捕えようとしてきた全身真っ黒の闇の人たちだ。また、攻撃的な言葉を吐くかと思った。けれど、何かをうめきながら緩慢な動きで近づいてくる。

 よく耳をすませてみると、微かに音を拾えた。



『捨てられたものの気持ちが分かるか……』

『お前もいずれ孤独になる……』



 さっきの攻撃的な言葉とは少し違う。自分の中から苦しみがにじみ出ているような言葉だ。



「……何が違うの?」

「ユメノ! ぼーっとするでない!」



 サラマンダーが上に向けて炎を吐いた。近づいて来ていた闇の人たちが炎に照らされて消えていく。



「ご、ごめん!」



 そうだ。闇に対抗出来るのは、わたしとサラマンダーしかいない。

 残った闇の人たちを炎の矢で射貫いていく。けれど、いくら消しても、居なくならない。闇の眼から際限なく闇は落ちて、人の形へと変化しているのだ。これでは、いたちごっこだ。

 イオも剣を振りながら、わたしに向けて言う。



「やはり眼の方をどうにかした方がいいようだな」



 同じことを考えていたみたいだ。やっぱり大元をどうにかするしかない。



「……でも、あれだけ巨大なものを炎の光で包むのは、いくらサラマンダーとユメノでも難しいですわ」

「ルーシャの言う通り、風で追い込もうにも相手は闇だ」

「水も通り抜けてしまうでしょう」



 シルフやウンディーネも、難しい顔をしている。なんだか、敗戦試合のような雰囲気だ。



「だけど、諦めても……」



 わたしの言葉にも力が入らない。そのときだ。



「きっと出来るよ! きっとみんなで力を合わせれば出来る! 今までもそうして来たじゃない!」



 エルメラの希望に満ちた声が通る。



「そうだな。炎の光が効くのは間違いないのだし」

「ええ。エルメラの言う通り、色々試してみましょう」



 暗かったみんなの顔が一瞬で明るくなった。



「エルメラ、ありが……」



 ありがとう。エルメラの声で元気が出たよ。

 わたしがそう言おうとしたときだ。



『お前さえ、居なければ!』

「え」



 闇の眼から伸びて来た細長い影。あまりに速くてわたしの目の前を一瞬で過ぎた。



「キャアアア!」

「エルメラ!?」



 さらったのは、エルメラだった。影に巻き付かれて、眼の方へと連れていかれている。



「エルメラさま!」

「いま、助けに!」



 ウンディーネも、ルーシャちゃんも、すぐに反応した。わたしも弓を引いたし、サラマンダーも炎を吐こうとした。だけど息つく暇もなく、影はエルメラを締め上げる。

 ピシッ



「え……」



 エルメラの身体にヒビが入った。そして青い光を散らしながら、まるで繊細なガラス細工が割れるかのようにエルメラの身体は割れてしまったのだ。











 パラパラと空から青い光が落ちて消えていく。



「エ、エルメラ……」



 ――まさか、そんな……。こんなあっさり粉々にされてしまうものなの?

 一歩、前に出た瞬間だった。胸に空気砲のような衝撃がぶつかる。



『え?』



 突如、ふわりと浮遊感が襲う。地面から足が離れた。



『な、何?!』

「う……。な、なんで……」



 わたしのすぐ下で、震える身体。自分の手をまじまじと見つめている。それはわたしの身体だ。



『え? なんで自分の身体が見えるの?』



 疑問に思っている場合ではなかった。浮いたわたしはいつの間にか地面からどんどん離れて行っている。



『嘘!』



 眼下には闇の人たちに囲まれているわたしとサラマンダー、イオとノーム、ルーシャちゃんとシルフ、そしてウンディーネ。みんな、まだわたしに異変があったことに気づいていない。闇の眼が何かをしたのだ。わたしはエルメラを壊した闇の眼をジッと睨みつけている。

 しかし、そんな視線をどこか愉快そうに、闇の眼は細まる。



『フハハハハッ! 最初に計画が狂ったときに、こうしていれば良かったのだ! お前たちは気づいていないだろう! 大事な戦力が無くなったことに!』



 ルーシャちゃんも闇の眼を睨みつけた。



「エルメラをよくも!」

「わ、わたし……」



 そのとき、わたしの身体が恐る恐る手を上げた。真っ青な顔をしている。つまり、そこには誰かが入っている。誰だかはすぐに分かった。



「わたしがエルメラなの」

「ユメノ、何を言って」

「妖精の身体が砕けて、わたしが元の身体に戻っちゃったの! ユメノの魂を跳ねのけてッ!」



 エルメラの悲鳴のような声が響く。みんなの顔が驚愕で固まった。



「そ、それならユメノは……」

「もう、ここにはいないんですの?」



 イオとルーシャちゃんも、声が震えている。



『まだ、空にいるよ!』



 叫ぶけれど、どんどん身体が地表から離れて行っていた。ずっと一緒に旅をしていた仲間たちが遠ざかっていく。いつかは元の世界に帰るつもりでいた。声優の仕事だって大事だ。

 だけど、こんな形で、戦っているみんなを残して帰るつもりなんてなかった。



『みんな』



 魂だけになっているはずなのに涙がこぼれる。



『サラマンダーッ!』



 ――何かあれば吾輩の名を呼べ。友の名ほど力強い言葉はないであろう。

 わたしは友の名を叫ぶ。すると、サラマンダーがこちらを振り返った。サラマンダーとわたしの眼が合う。



『え、気づいたの?』

「こんな所にいたのか、ユメノ!」

『聞こえた!』



 サラマンダーはすぐに羽ばたいて、近くに来てくれた。わたしをガシッと捕まえる。



『良かった! 魂だけになっても声は届くんだ!』



 涙を拭いながら、温かい手に安心した。



「いや、吾輩や他の精霊たちにしかユメノのことは見聞き出来ぬだろう」



 ということは、エルメラやルーシャちゃん、イオたちにはもう見えない。少しだけガッカリするけれど、そうも言っていられなかった。眼下では、みんなが闇の人たちに囲まれて悪戦苦闘している。



「ホムラ! お願い! 出て来て!」



 エルメラが精霊石に向かって、必死にホムラを呼んでいた。だけど、全く反応がない。魂が違うからだろう。



『もうッ! それぐらい融通利かせてくれてもいいのに!』



 わたしはサラマンダーを振り返る。



『サラマンダー! みんなを助けてあげて!』

「だが、それでは根本的な解決にはならぬ。……吾輩は眼の方に向かいたいと思う」



 サラマンダーの声はいつもより静かだ。確かに対抗できるのは、サラマンダーだけになってしまった。でも、いくらサラマンダーでも相手が悪すぎる。



『危険だよ。みんなと協力した方が』

「だが、吾輩一人の方が遠慮なく炎も吐ける。それに精霊の王のうち、欠けるのが吾輩だけであるならば、世界各地の火山が噴火するだけで済むであろう」

『でも』

「止めてくれるな、ユメノ。ユメノが何と言おうと吾輩は向かう。まあ、魂だけになったユメノが出来ることは、声をかけてくれるだけであるが」



 そうなのだ。わたしは魂だけになったから、ホムラを呼べないし、弓も引けない。

 出来ることは、特攻していくサラマンダーを応援することだけ――、あれ?



『待って、サラマンダー!』

「どうした、ユメノ」

『サラマンダーたち精霊なら、わたしの声も聞こえるんだよね?』

「そうであるが」

『なら、あの闇の眼! あいつにも声が届くんじゃない!?』



 地上よりは近くにある闇の眼を指さす。すると、眼が一瞬だけど、こちらを向いた。

 やっぱりだ。声が聞こえている。

 それに、闇の眼とは話が出来る。ただの操り人形の影や闇の人たちとは違う。わたしに出来ることはもうこれしかない。



『わたし、サラマンダーと一緒に闇の眼のところに行く! そこで、なんてことをしたんだって、説教してやるんだから!』



 そう力説すると、サラマンダーはふむと考え込む。



「あやつにも魂だけになったユメノをどうにかすることは出来ぬ。それに、ここで何があろうとユメノは元の世界に帰れる。危険はないであろう。……了承した。共に行こうぞ、ユメノ!」

『うん!』



 サラマンダーが力強く羽ばたき、闇の眼の元へ向かう。



『待っていて、みんな!』



 共に行こう、サラマンダー!

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