声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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ウンディーネ編

第百十二話 孤独の行方

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 サラマンダーとわたしは、闇の眼のすぐ真横にまで飛んで来た。ここなら、眼から落ちて来る闇にも当たらない。



『あの眼、きっと精霊なんだよね』



 だから、わたしの声も聞こえている。エルメラもずっと精霊の気配を追って来たのだから、そうなのだろう。



「うむ。精霊、それも闇の精霊の眷属か何かには違いない」

『闇の精霊自身ではないんだね』

「闇の精霊であったなら、光の精霊が黙っていまい。それに闇の精霊よりも力は強くないように思える」



 これで強くないと言ったら、闇の精霊はどれだけ強いのだろう。



「そろそろ突入するが良いか」



 わたしは神妙に頷いた。



「では、参るぞ!」



 突入なんてどうするのかと思っていたら、サラマンダーは炎を吐きながら闇の眼に羽ばたいていく。



『わっ! わっ! ぶつかる!』



 魂の状態のわたしもぶつかるかは不明だけれど、闇の眼がすぐ目の前に迫った。



『馬鹿な火トカゲめ! 懐の中で潰してやる!』



 金色の真っ黒な瞳の中にサラマンダーは突っ込んでいく。



『まさか眼の中に!?』



 ボスッと少しの抵抗を感じたけれど、簡単に中に入った。



『真っ暗!』



 思った通り、そこは闇の真っ只中。何も見えない。



「う、うぐ」



 わたしは何ともないけれど、サラマンダーは苦しそうだ。見ただけで闇が圧力をかけていると分かる。身体を覆う炎だけでは、効果がないみたいだ。



『サラマンダー、炎で闇を晴らして!』

「分かっておる!」



 サラマンダーは口から炎を辺り一面に吐く。サラマンダーを苦しめていた闇が退いた。



『やった!』

『無駄だ! 闇は際限なくお前を苦しめる!』



 一度は退いた闇だったが、再びサラマンダーにまとわりつこうとしてくる。



「ユメノ! こやつの本体を探すのだ! 必ずいるはずである!」

『うん!』



 サラマンダーは炎を吐きながら闇の中を突進した。だけど、変幻自在な闇とはいえ、本体なんているのだろうか。闇の声はあらゆる方向から聞こえて来た。



『ここに来た時点でお前たちの負けだ! 召喚者を失い、唯一対抗できる火の精霊の王を失えば残った者たちにもう希望など残されていない! 奴らはこの月で力尽きるのだ!』

「……そんなこと、させないッ!」

『その虚勢がどれほど続くだろうな!』



 わたしは目の前の闇を睨みつける。本体がどこにいるかは分からないけれど、声は間違いなく届いていた。絶えず声をかけ続けて、本体への糸口を見つける。

 今のわたしにはそれしか出来ない。



『今頃、奴らも後悔している。異世界から代わりの魂など呼ばなければ、あの者と行動を共にしなければ。こんな場所で闇に押しつぶされ死ぬことは無かったのにと! 地上で緩やかな滅びの中にいた方がましだっただろう!』

『そんなことは……』

「そんなことはないである!」



 わたしが言い淀むとサラマンダーが叫んだ。



「ユメノが吾輩の元に来てくれて、吾輩を鎮めてくれた。これほど気分が晴れ、気持ちの良い日々は何百年ぶりであっただろうか。ユメノと友になり、共に旅をして本当に良かった! それは他の仲間たちも間違いなく同じ思いである!」



 サラマンダーの言葉がジンと胸に響く。ちょっとでも、闇の言うことも一理あるんじゃないかと思った自分が恥ずかしい。みんなでたくさんの壁を乗り越えて来た。だから、わたしたちはここまでたどり着いた。



『黙れ……』



 闇がいきなり静かになった。何か薄っすらと影が見える。もしかして、あれが本体なのだろうか。



『黙れ、黙れ、黙れーッ』



 叫びと共に濃い闇があふれ出す。瞬時にサラマンダーを拘束した。



「ぐ……」

『純粋な光でもない炎の精霊風情が闇に敵うはずがない!』

『サラマンダー!』



 闇は無理やり、わたしとサラマンダーを引き離す。



『魂だけになったお前に手だしが出来ないと思ったか! 元の世界に帰れないように留めることぐらい出来る! あのとき素直に元の世界に戻っておけば良かったな! お前はずっと孤独に闇の中でさ迷うのだ!!』



 魂だけになったから、寒さなんて感じないはずだ。だけど、サラマンダーと引き離されて、ヒヤリとした感覚が背中を伝った。










 目の前も後ろを振り返っても、どこもかしこも真っ暗だ。ずっと頼りにしていたサラマンダーの炎も、一緒に戦えるホムラもいない。

 わたしは今、ひとりぼっちだ。思えばこっちの世界に来て、一人だったことなんてあっただろうか。最初からエルメラが一緒だったし、杖があれば精霊がすぐ来てくれた。

 こんな所にずっと一人でいるなんて、きっと耐えられない。とにかく、今も見ているだろう闇に向かって呼びかけた。



『こんなことをして何になるの! ううん、わたしだけじゃない! みんなを苦しめて、一体あなたに何の得があるっていうの?』



 震えないように、出来るだけ毅然とした態度で声を出す。闇に囲まれて、サラマンダーから離されてもやるべきことは変わっていない。全力で魂を込めた声を伝えるだけだ。



『何の得? それはこちらが聞きたいものだ! 人間は何の理由もなく攻撃し、精霊は自らを崇高な存在とおごっている! わたしのように全てを壊すものが現れるのは必然だ!』



 そんなことはない。けれど、わたしがどれだけ主張しても、高ぶった口調の彼には届かないだろう。

 そこで、あれ?と気づいた。

 そう言えば、さっき薄っすらと見えた影は闇の正体なのだろうか。何となくだけど、男性に見えた。商人も男性の姿だった。



『あなたは、いったい何者なの? 精霊だと思っていたけれど、そうじゃない気がする』



 これは勘だ。サラマンダーたち精霊は闇の力の影響を受けなければ、人間に危害を与えようとはしない。本来、精霊たちは自然そのものなんだ。声を聞いてくれるのは、きっと強くて雄大な存在だからだと思う。弱い存在なら、人の声は正しく聞けない。

 闇の彼は声を聞くことが出来ないようだ。きっと、人間のことを受け入れられないから。

 もしかしたら――



『昔、三百年前に人間に何かをされたの?』



 闇が震えた気がした。人間は理由もなく攻撃すると言っていた。本当に彼自身が攻撃されたのかもしれない。

 攻撃的な言葉をぶつけて来た闇の人間たち。もしかしたら、あれは彼の記憶なんじゃないだろうか。自分が恐ろしかった体験ならば、他人も怖いに違いないと思っているかもしれない。



『そんなことを聞いて何になる!? お前も、あいつらと同じだろう!』



 拒絶反応をするように闇は荒れ狂う。だけど、わたしは声を止めない。きっと人を怖がっている。これは怯えている声なんだ。



『わたしは違う! あなたに攻撃なんてしない! 攻撃的な言葉も、もう言わないよ! わたしの声を聞いて!』

『い、嫌だ……。どうせ、そんなことを言って、僕を見世物にするんだ……』



 彼の声が段々弱々しくなる。聞いている内に、大人の男性から小さな子供のような気がして来た。自然とわたしの声も柔らかくなる。



『大丈夫。今のわたしが何も出来ないことは、よく知っているでしょ?』

『そう、だけど……』

『旅をしてきて、たくさんの人に出会った。その中にはわたしを利用しようとしたり、傷つけようとしたりしてきた人もいたけれど、優しい人もたくさんいた。それはこっちの世界だけじゃなくて、元の世界でも同じ。きっと、あなたが出会ったのは、ほんの一部の人間だよ』



 彼は昔、辛い思いをしたかもしれない。けれど、みんながみんな、同じような人ばかりだとは限らない。



『……そんなことは知っている。けれど、人間も精霊も、異質なものを嫌うんだ』



 異質なもの。きっと自分自身のことだろう。つまり、彼は人間でも精霊でもないものだ。でも、確かに精霊の力が使える。ふと一つの可能性が頭に浮かんだ。



『もしかして、エレメンタルハーフなの?』



 人間と精霊の間に生まれた子供。ルーシャちゃんの祖先がそうだった。



『そんな、良いもんじゃない。僕は闇の精霊が旅立つ前に残した化け物。人間の母親の腹から生まれた醜い化け物だ』



 やっぱりエレメンタルハーフだ。でも、その姿は人間の形とは違ったのかもしれない。ウンディーネの子供も安定せずに、命を落としていしまった。きっとエレメンタルハーフが人の姿をして生まれることは珍しいことなんだ。

 彼は異質な姿に、生まれてから人間に辛く当たられたのだろう。



『そっか。君はずっと孤独だったんだね』



 だから、全てを憎んで壊そうとしていた。



『わたし、思うんだ。一人でいるとどんどん怒りも膨らんじゃうし、一人でただ喜んだって虚しいだけ。楽しさも一人よりみんなと一緒の方が何倍も大きくなる。悲しみだって、みんなが支えになってくれるんだ』

『僕はそんなの……』

『うん。知らないんだよね。それなら、わたしが教えてあげる! こっちにおいでよ!』



 闇が揺れ動く。まだ迷っている様子だ。わたしは手を伸ばした。



『どんなんだって、どんと来いだよ!』



 すると、辺りの闇がどんどん薄くなっていく。

 何も見えなかった濃い闇が星の瞬く夜空に変わった。わたしの目の前には、バスケットボールぐらいの黒い綿毛。小さな手足があり、金色の眼が一つだけついている。

 そっと抱えると、思ったよりひんやりしていて心地いい。



『これが一緒……』

『うん。そうだよ』



 わたしたちは抱きしめあったまま、しばらくそっと目を閉じていた。

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