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サラマンダー編
第十一話 日曜日の朝
しおりを挟む草原で精霊を倒し次の精霊を探しながら、わたしは行き場のない怒りをイオにぶつけていた。
「指輪の宝石が割れた?」
「そうなの! 威力が上がるって言うから、買ったのに偽物つかまされたの! 高かったのに!」
リングは捨ててしまったけれど、現物があれば見せてあげたいぐらいだ。
「本当か? イオも持っているけど、そう簡単に割れるようなもんじゃないぜ」
カカが言う通り、イオの指にも小さいけれど黄色い宝石が付いた指輪がはめられていた。イオは指輪を見ながら話す。
「割れるとしたら精度が低かったか、力が強すぎて耐えられなかったか」
「そういや、鷹を倒したときのユメノはヤバかったもんな」
「きっと両方だわ」
精度が低くかったから、ちょっと火事場の馬鹿力が出たくらいで割れたのだ。そうじゃないと、一回も使わずに割れるはずがない。こんなことなら、田舎町じゃなくてもっと栄えた町で探すのだった。
「ユメノたちもサラマンダーに挑むつもりなのかよ!」
「わたし達もってことは、イオたちも?」
たどり着いた町の食堂で、わたしとイオは向かい合わせで食事をしている。もちろんイオの代わりに話すのはカカだ。夕飯時なので食事をしている人も多く、食堂は賑わっていた。イオの首に巻かれた布にはカカが、わたしのフードの中にはエルメラが隠れてパンやフルーツをかじっている。
スープをすくっていたスプーンの手を止めて、チラリとイオがこちらを見た。
「止めておけ。無謀だ」
わたしだけに聞こえるよう小声だ。
「嫌よ。サラマンダーに聞くことがあるの! 絶対行くんだから!」
聞くこととはもちろん元の世界への帰り方だ。わたしが言い張ると、イオは黙りこくる。代わりにカカが返答した。
「ま! いいんじゃねーの。あそこは力の無い奴が行っても引き返すしかない場所だ。他の精霊に行くより、むしろ安全だと思うぜ」
引き返すしかないという言葉が引っかかった。
「どういうこと?」
「行けば分かるって。ユメノも行ってみれば、考え直して村の守り人になろうとするさ」
それ以上は二人とも教えようとしない。何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
だけど、守り人のことは分かった。この町に入るときも、わたしたちのように大きな精霊石の杖ではないけれど、精霊使いの人が門に立っていた。ムウマの町でもそうだった。町に悪い精霊が入ってこないように守っているのだ。
エルメラが遠慮がちに髪を引く。
「ユメノ。わたしは別にどこかの町の守り人になっても……」
「絶対に嫌! そりゃ大事な仕事だろうけれど、完全に門番じゃない! わたしは帰って声優の仕事を続けるの!」
そのためには一歩でも早く、前へ。わたしは体力を付けるために、皿の上の大きなステーキにかぶりついた。
閉じたカーテンの隙間から光が差し込んで来ている。もう、朝だ。この世界だからか、田舎だからか、正確な時計というものがない。だから、人々は太陽の動きと共に生活するようだ。とはいえ、まだエルメラも寝ているし、太陽も昇り始めたばかりだから、まだ起きるには早い。それに歩きっぱなしだったので、疲労も一晩では癒えていなかった。
ベッドに寝たまま、ぼんやりする。召喚されたのが一日目、ムウマの町で泊まったのが二日目。そして、この町にやってきたのが三日目。指折り数えてみる。もう三回も夜を超えてしまった。一週間で本当に元の世界に帰ることが目標けれど、本当に――
あれ……? 確か、オーディションがあったのが木曜日。それから、一、二、三。思わずガバッと上半身を起き上がらせる。木曜日から三日。つまり、金、土……。
「ああッ!」
大変なことに気づいてしまった。ベッドの上をゴロゴロと転がり回る。さすがに枕元にいたユメノも起き上がった。
「ど、どうしたの、ユメノ!」
「ああああああああ!!」
拳を何度もベッドに叩きつける。
「どうした!」
「何かあったのか!?」
隣の部屋から声を聞きつけたのか、無駄にイケボが部屋に入ってきた。記憶を呼び覚まさせられて、さらに頭を抱える。
「今日は! 日曜日!!」
「「「にちようび??」」」
「ラブピュア、完全に見逃したぁぁぁぁ!」
わたしは枕に顔をうずめて、血の涙を流した。
ラブピュア。毎週日曜の朝に放送される女児向けアニメである。シリーズは十年を超える長寿番組だ。
「あにめっていうのはね。物語を絵にして生きているように動かすのがあにめなのよ!」
「ふーん?」
わたしたちは、朝一番の乗り合い馬車に乗っていた。他に誰もいないので、エルメラもカカも肩に乗って御者さんに聞こえない程度に話している。エルメラがイオとカカにアニメの説明をざっくりと説明していた。
「ユメノ。飴食べるか?」
イオがそう言って、飴の入ったビンを差し出してくる。でも、受け取る気にはならない。
「子供扱いすんな!」
「でも、子供向けあにめ?を見逃して落ち込んでいるんだろ? 二十越えているとか嘘で、やっぱり子供じゃねぇか」
カカがニヤニヤしている。だが、彼は勘違いしていた。
「違う。違うのよ。確かに子供向けのアニメよ。でも、それだけじゃない。ラブピュアにはいつも根底に社会的テーマがあって、それに気づいたとき、はっとするの。これはただの女児向けアニメじゃないって」
わたしは揺れる馬車で立ち上がる。
「もちろん、子供たちには大人気。わたしも子供のときに日曜日の朝のアニメを夢中で見ていた。でも、十歳ぐらいには卒業。そのあと、見ることは無かった。……でも高校のときに自分の声の才能に気づいた。わたしは絶対に声優になるべき人間だってね」
三人はわたしの若干早口になる話を黙って聞いていた。
「そんなとき一番キラキラ輝いて見えたのが、ラブピュア。ラブピュアは愛と勇気の戦士。ラブピュアは言っていたわ。勇気を出して、夢を語るのは恥ずかしいかもしれない。でも、それは誰かに言わないと叶わない夢なのよって!」
実際は違うセリフだったけれど、勇気を出してとは言っていた。
「ユメノ……」
「わたしの夢は愛と勇気の戦士ラブピュアになること。つまり、ラブピュアの声を演じること! もちろん、わたしみたいにラブピュアになりたい女の子たちはたくさんいる。みんなで競い合いよ。同世代の声優たちの演技をチェック出来なかったのは痛い。わたしは元気な役でも、クールな役立だってなんだって出来るつもり。もう何度もオーディションを受けて落ちている……けど! わたしは絶対なってやるんだから!」
グッと拳を握った。絶対に叶える夢だ。
「ユメノ、ごめんね……」
しょんぼりと羽までしょげてエルメラが謝った。
「え。なんで、エルメラが」
あ!と気づく。エルメラがわたしを召喚したんだった。
「えーと、だ、大丈夫! サラマンダーに会って、帰り方を聞いてすぐに帰るし! そうしたら大丈夫、のはず! それもこれも経験だと思って、やり切るし!」
異世界に召喚された経験のある声優なんていない。声優も何だかんだ経験がものをいう仕事だ。黙って聞いていたイオが口を開く。
「なら俺がサラマンダーを使役したら、奴に話を聞いてやる」
「本当、イオ! ……というか、サラマンダーの使役なんて出来るの? 精霊の王なんでしょ?」
「出来る。出来なくてもやる」
真っ直ぐこっちを見て、イオは力強く言った。何だか事情がありそうな雰囲気だ。突っ込んでは聞けなかった。それでも、イオが使役して話させてくれるならありがたい。
「じゃあ、わたしたちパーティを組むってことね」
「ああ。ユメノのことは守ってやる」
イケボにイラっと来るが、言っていることは頼もしい。段々と慣れて行こう。
「じゃあ、四人でサラマンダー攻略! やって、やるぞ!」
「というか、ユメノはサラマンダーの所までたどり着けないけどな」
せっかく、気合を入れたというのにカカが水を差した。ラブピュアになることはもちろんだけど、サラマンダーの元に行くのは絶対だ。
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