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サラマンダー編
第十二話 要塞都市ゲーズ
しおりを挟むイオと出会ってから五日。徒歩と乗り合い馬車を使って、わたしたちはシュウマ山の麓にある要塞都市ゲーズにたどり着いた。もちろん、精霊使いのレクチャーを受けながらだ。背後には富士山型の大きな山がそびえている。
山肌は茶色く、木々は生えていないようにみえた。どれくらいの標高があるのだろう。山頂にサラマンダーがいるはずだ。
感慨深く少し埃っぽい空気を吸う。わたしはやっとたどり着いた。一週間も仕事を離れて旅をするなんて、三千年間山にこもって出てこないようなものだ。
そのシュウマ山の麓に広がる都市、ゲーズ。城塞都市と言うだけあって、城壁に囲まれている。所々、窓のように穴も開いているから大砲や弓矢が打てるのかもしれない。
高く囲む城壁にはぽっかりと門が開いていて、そこに人々は列をなしていた。どうやら入るのに荷物や怪しいものがいないかチェックしているようだ。槍を持った兵士が多く並んでいた。わたしたちも前にならえで、列の最後尾に並ぶ。
すると、カカが布の間から声をかけて来た。
「おい! 杖に巻いている布を外しておいた方がいいぜ」
「なんで?」
「こういう場合、精霊使いってだけで優遇されるんだ。たぶん、すんなり中に入れるはずだ!」
確かに前の町でも、うっかり精霊石を見られてしまったことがある。そのときも、旅で疲れているだろうからと、両手に抱えられるだけのお菓子を貰っていた。
「へー。こんな大きな町でも、そうなのね」
素直に従って布を外した。イオも同じようにする。そこに鎧を着た兵士が列を乱さないようにと言いながら歩いてきた。
「ん。お前たち……」
さっそく、反応があった。やっぱり並ばずに町に入れてくれるのだろうか。しかし、予想は全く外れてしまう。
「お前たち、精霊使いだな! 拘束させてもらう!」
「え? ええええええ!!」
あっという間に数人の兵士たちに取り囲まれ、わたしとイオは槍を向けられてしまった。
なぜか何もしていないのに、杖を取り上げられて手を縄で縛れてしまう。囲まれたまま連行された。
「なんで精霊使いってだけで、捕まるの?」
兵士に聞くけれど、黙って歩けと槍の先を突き付けられたら黙るしかない。門の詰所にいる兵士の隊長の元に連れていかれた。兵士の一人がビシッと敬礼する。
「ニコ隊長! 精霊使いを二名捕えました!」
「そうか。では疑いが晴れるまで……ん?」
ニコ隊長と呼ばれた人は、わたしに顔を近づけてまじまじと見つめる。そして、わたしではなく連れて来た兵士をキッと睨みつけた。
「この子のどこが精霊使いだ!」
口ひげの生えた口を大きく開けて怒鳴りつける。
「え。でも鎮霊の杖を持っていて」
「確かに持っているが、この子はどう見ても子供ではないか!」
確かにわたしの見た目は子供だ。
「見習いの精霊使いだろう。杖だってほとんど色が染まっていない。こんな子供にあんな芸当は出来やしない。早く縄を解いてやれ」
「はっ、はい!」
連行してきた兵士はわたしの手にグルグル巻きにしていた縄を解いた。杖も返してくれる。初めて子供でよかったと思った。
「イオは?」
まだ縄で拘束されているイオを指さす。ニコ隊長が蓄えたひげを弓状に曲げて優しく答えた。
「すまんな、嬢ちゃん。連れさんまだ質問することがあるんだ。まあ、わざわざ犯人が正面の門から入ってくるとは思いにくいが、決まりでね」
犯人というは、この都市で何か事件があったってことだ。それも精霊使いに疑いがかかるような――。とはいえ、わたしには直接関係ない。
「ふーん。質問ってどれぐらいかかるの?」
「そうだな。二、三日ってところかな」
「二、三日!?」
声を上げたのはカカだ。甲高くイオから出た声とは思えないのだろう。兵士たちの注目がイオに集まった。ごほんと咳払いを一つして、少し低めの声で言い直す。
「い、いや、そんなにかかるのか?」
「牢も混んでいるからな」
しかも、牢で待つみたいだ。わたしはさっさとイオに背を向けた。
「じゃあ、イオがんばって」
「おい、ユメノ。薄情者」
「そうは言っても、わたしにはどうしようもできないもの。先に町を見ているね」
もしかしたら、勢い余ってサラマンダーのところにまで行っているかもしれないけれど。そんなことを内心思いながら詰所を出た。
石畳の道を進んで行き、アーチ状の門をくぐる。エルメラとわたしは、二人でキョロキョロと辺りを見回した。
「ここがゲーズかぁ」
「ふーん。都はやっぱり栄えているのね」
現実の大都市とは言わずとも、石造りの大きな建物がたくさん並んでいる。町では家の窓は木の板で塞がれていたけれど、ここではどこの家もガラスの窓だ。
「うわぁ」
大通りに出ると、頭の上でエルメラはさらに感嘆の声を漏らした。
立派な商店がずらずらと並んでいる。武器屋に道具屋、洋服店に装飾品店。布の屋根の露店も見かける。どの店も大きく看板も工夫を凝らしていた。露店もあり、まだ加工していない鉱石が並んでいる。都会に慣れているはずのわたしも思わず魅入ってしまう。
「へー。面白いものもありそ……ぶっ!」
骨董品に気を取られていると、誰かにぶつかった。なんだか、もふっとした感触がする。随分上から声がした。
「おっと、お嬢さん。ごめんよ」
ぶつかった人を見上げて、わたしは目を丸くした。その場で何も言えずに固まる。目の前に立っていたのは、胸毛がふさふさした人だった。いや、人じゃない。確かファンタジーのアニメでは、コボルトと呼ばれる種族だ。コボルトのおじさんは、じゃあ気を付けてなと言って、肩に担いでいた荷物を抱え直して去って行った。
わたしは驚いたけれど、フードの中のエルメラは平然として言う。
「へー、やっぱり大きな都市は獣人もたくさん歩いているね」
ぐるりと視線を巡らせると確かに人間が一番多いけれど、獣の耳が生えた獣人も多い。中には傷だらけの鎧を着て、武器を背負っている獣人もいた。やっぱりファンタジーの世界だなと思った、そのときだ。
カンカンカンカン!
街中に鐘を金づちで叩くような音が響き渡る。何も分からないけれど、警戒させる音に思わず身構えた。
「えっ?! これなに、エルメラ!?」
「わたしも分かんない!」
わたしたちが右往左往している間に、大人たちは次々に建物の中に入っていった。入れ替わりに武器を持った兵士や獣人たちが門の方へと駆けていく。駆けて行く大人たちの慌ただしさに、さらに混乱した。
「ええ!? なに、どうすればいいの!?」
「お嬢ちゃん、こっち!」
わたわたしていると、建物の扉からおばちゃんが手招きしていた。すぐに向かうと強く腕を引かれる。中に入ると、そこは家具店のようで照明器具や机などが所狭しと並んでいた。奥には他にも避難している人がひしめいている。
入り口の近くで、中に招き入れてくれたおばちゃんに尋ねた。
「ねぇ、何が起きているの?」
「敵国が攻めて来たんだよ」
わたしは予想外の言葉に目を見開いた。
「敵なんているの?」
「そんなことも知らないのかい? 旅人にしても無知だね」
無知と言う言葉にムッとするけれど、わたしは質問を繰り返した。
「さっきの鐘の音は敵が攻めて来た合図?」
「そうさね。敵国ロザ王国が攻めて来たんさね。ロザ王国は同じシュウマ山の麓に都市を構えているのさ」
「攻めて来たって、戦争!?」
おばちゃんは神妙に頷く。話している内に、ドンドンと衝撃音が聞こえてきた。微かに怒号も耳に届く。
「もう、領土を巡って三百年も続いている戦争さね」
「さ、三百年……」
なんだか空いた口がふさがらない。それほど長く何を争っているのだろう。領土を取り合いしているとはいえ、他にも土地はいくらでも広がっている。
「まあ、堅牢な城壁が守ってくれているから大丈夫なんだがね。この前、事件が起きたんさ」
事件と聞いてピンときた。
「もしかして、精霊使いを尋問していることに関係があるの?」
おばちゃんはまた深く頷いた。
「大事な物が盗まれちまったのさ。それはこれから新たに作る城壁の設計図」
それは敵国からしたら、のどから手が出るほど欲しいだろう。逆に盗まれた方にしたら、たまったものじゃない。
「盗んだ犯人は水の精霊。いま門を閉鎖して全軍を上げて探しているところさね」
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