18 / 113
サラマンダー編
第十八話 ランクアップ
しおりを挟むその頃。Sランクの精霊使いたちは、水の精霊に対して代わる代わる攻撃を繰り出していた。花の精霊を操る彼女は、黒いマントを被りびしょ濡れになりながらも華麗に杖を振る。
「いいよ! プルメリア! そのまま絞めちゃって!」
風の精霊を操る彼も調子がよさそうだ。
「雷が稲光り、豪雨が降り、そして暴風が吹く。ここは俺の独壇場だ」
雷の精霊を操るもう一人の男はどちらかと言うと、乗り気ではなかった。
ギルドでのんびりしているところに、いきなり叩き出されたのだ。ギルドを出ると、あれほど天気が良かったのに横殴りの雨が降っている。逆立てているお気に入りの髪型も一瞬でぺしゃんこになってしまった。
その上、暴れているのは主人に拒絶された水の精霊だそうだ。
例の設計図を盗み出した精霊。経験上、この手の精霊は非常に厄介だ。滅多なことでは倒れないし、実際に天候まで操り、荒れに荒れていた。反抗も強い。もう一度、言霊で使役など、とてもではないが不可能だろう。完全に倒して、ただの水に帰すしかない。
「よし。長期戦だが勝てない相手ではない。行くぞ!」
そう力強く言ったときだ。
「な、なに、あれ」
花の精霊を操る彼女が手を止める。彼女が見る方向には、石の階段が空中に作られていた。作るのはキツネだ。おそらく土の精霊なのだろう。そいつが、ぴょんぴょんと跳ねる度に、上へと石の階段が出来ていた。
そして、ひとりの人影が階段を登っている。
「女の子?」
その子は黒く長い髪を濡らし、赤茶色いマントを羽織っていた。よく見ると傍には妖精がいて、精霊石をついた杖を持っている。見習いの精霊使いだろう。ただ、この場にいるにはあまりに幼い。
「お、おい。危険だ! 風を止めてあの子を守れ!」
風の精霊を操る彼が真っ先に精霊に指示を出した。花の精霊を操る彼女も精霊に指示を出し、花で石の階段を補強する。雷の精霊の彼は落ちてきた場合のために下で待ち構える。
「ありがとう」
女の子の声がこの暴風雨の吹き荒れる中、わたしたちの耳に届いた。不思議と耳に心地よい声だ。石の階段が暴走している水の精霊の元に続いていることに気づく。
『きゅるるるるるるる!』
水の精霊は彼女を威嚇するように鳴いた。三人の精霊使いは緊張感を持って杖を構える。
「大丈夫。辛かったよね」
女の子からは子供とは思えない大人びた声がした。水の精霊に声が届くところに立つと女の子は止まる。
まさか、使役するつもりか。Sランクの精霊使いでも不可能だというのに。
「一人で待っていて寂しかったよね。大丈夫よ。これからはわたしがずっと一緒にいるから」
そう言った途端、雨が止む。あれほど濃かった曇天の隙間から光が差した。
「まさか……」
巨大な魚の水の精霊が小さくなっていく。透明な球になって浮かんだ。
「あなたの名前はオトヒメ。よろしくね」
そう言うと、水の精霊だった球は女の子の精霊石に吸い込まれていった。
「あ!」
風の精霊を操る彼が声を上げる。土の精霊が作り出していた石の階段が消えていったのだ。即席のものだから当たり前だ。これまでよくもった方だと思う。
「わたしが……」
花の精霊を操る彼女が助けに行こうとする。しかし、その必要はなかった。
女の子が落下することを予期していたように、真下に一人の男が待ち構えていたからだ。彼が女の子を抱きとめて、水の精霊の暴走事件は全てを終えたのだった。
◇◇◇
わたしたちはすぐに宿屋に帰ってお風呂に入り、雨風でびしょ濡れになった身体を温めた。
「あーっ。温まるー」
お風呂の中でうーんと大きく手足を伸ばすと、エルメラも一緒に伸びをする。
「でも本当に良かった。オトヒメがユメノの声をすぐに聴いてくれて」
「まあ、一度、話した仲だからね。通じやすかったんじゃないかな? それもよかったけれど、イヒヒヒヒ」
思わず声を出して笑いが出てしまう。
「……品のない笑いだね」
「そう言わないでよ、エルメラ。だって、犯人を捕まえたから、これでSランクにランクアップだよ!」
思わず水しぶきを飛ばしながら、拳を振り上げた。
「すごいよね! まだ一番下のEランクなのに。でも、本当にシュウマ山に行くの?」
エルメラは不安そうだ。よほど討伐が怖いのだろう。だけど、行かなければ始まらない。
「もちろん! 何のためにランクを上げると思っているの! Sランクになって討伐隊に入ってサラマンダーに会いに行くためなんだから。ああ、ここに来るまですごく苦労したけれど、もう山は目の前! 絶対、元の世界に帰るんだから!」
「……この前来たばかりなのに」
仲良くなったエルメラには悪いけれど、ゆっくりはしていられない。もう何日も仕事場にも顔を出していないのだ。帰ったら、すっぽかしてしまった仕事のことを真っ先に謝らないとならないだろう。突然失踪したことになっているだろうから、マネージャーも心配しているに違いない。
お風呂から上がって服をホムラに乾かしてもらう。カラッと乾いた服を着て宿屋の一階に降りると、イオがわたしを待っていた。カカがちらりと布の隙間から顔をのぞかせる。
「兵士が来て、二人とも精霊ギルドに来るようにだってさ!」
わたしは来た来た!と気分が一気に高揚する。これから、Sランクに昇格しますって言われるに違いなかった。
「それじゃあ、行きましょう!」
わたしは意気揚々と宿屋を出て行く。その後にイオが続いた。雨上がりの街は所々壊れていて、街の人は忙しそうに木材や石材を運び駆けまわっている。
「ランクアップ、ランクアップ、ランクアップ~♪」
わたしは思わずスキップしてしまう。すると、どこからか声が聞こえて来る。
「あら、ど素人さんは随分ご機嫌ですわね。後ろの方におこづかいでも貰えたのかしら?」
「ん?」
声のした方を振り返ると、ルーシャちゃんがテラスカフェでお茶を飲んでいた。ティーカップを持つ手の小指が立っている。
「ルーシャちゃんは何をしているの?」
「リラックスタイムですわ。もう設計図を盗んだ犯人を捕まえる必要はなくなったのですから。先ほどの暴走した精霊も、Sランクの精霊使いの方々が鎮めたらしいですわね」
「あ。その水の精霊はわたしが使役したんだよ」
自分を指さした。ルーシャちゃんはカップを止めて、目を丸くする。そして、すぐに笑いだした。
「おーほっほっほ。何を言いだすかと思いましたら! 暴走したのは天候を操るほどに力を解放した精霊でしたのよ! ど素人さんごときに、鎮められるはずはございませんわ!」
「でもわたし、精霊ギルドに呼ばれているし」
「……なんですって」
急にルーシャちゃんは真顔になる。
「ユメノ、そろそろ行くぞ!」
カカが急かすので、じゃあねと言ってルーシャちゃんに背を向けた。けれど、すぐにガタガタと椅子を動かす音がする。
「お、お待ちなさい! そ、そうですわ! わたくしも精霊ギルドに用がございましたの。一緒に行きますわ」
「えー……」
いちゃもんを付けられそうだと思うけれど、用があるというのに止めるわけにもいかない。わたしたちは三人連れ立って精霊ギルドに向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる