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サラマンダー編
第二十二話 シュウマ山へ出発
しおりを挟む次の日は街で山登りに良さそうな靴と非常食、怪我をしたときのための薬を買った。わたしとイオがSランクに昇格したことは街中の噂なのだそうだ。すれ違う人々に笑顔で話しかけられる。
「よく設計図を取り戻してくれたね」
「これでロザ王国に負けたりしない!」
すごくロザ王国に敵対心が強いようだ。だけど、どうしてこの街はロザ王国と戦っているのだろうか。聞くとロザ王国は要塞都市ゲーズと同じく壁に囲まれた小国なのだそうだ。もし負けたら植民地になったりするのだろうか。士気を下げるのも悪いので、詳しいことを聞くことは出来なかった。
討伐隊の出発の日はすぐにやって来た。宿屋の部屋を出るとまだ夜も明けていないのに、討伐隊全員が待っている。みんな厚手のマントを羽織っていた。
「準備はいいな」
「はい!」
わたしたち討伐隊は朝早く出発する。街に出ると歩いている人は、新聞を配達する人ぐらいだ。その新聞を一つ買うと、わたしたち討伐隊が今日シュウマ山へ出発することが一面の隅に書かれていた。街の人がこれを読む頃にはもう山を登っている頃だろう。そう思っていたけれど、街の門へと向かうと驚いた。街の人や兵士さんたちが見送りに来ていたのだ。
そして、この人も――
「おーほっほっほ! わたくしがわざわざ見送りに来て差し上げましたのよ!」
「ルーシャちゃん」
さすがルーシャちゃんは朝からテンションが高い。少しだけ残っていた眠気も声を聞いただけで全て無くなってしまった。ビューロさんもハハハと笑いながら話しかける。
「今日は以前よりも、見送りの数が多いな。イオとユメノがスパイを捕まえてくれたおかげだ。見送りがないことにも慣れている俺たちも気合が入るというものだ」
後ろにはシュルカさんとオリビアさんも頷いている。知り合いを見つけたようで、ほんのひととき別れの挨拶をすることになった。
「ユメノ、こちらにいらっしゃい」
ルーシャちゃんが手招きをして、わたしを呼ぶ。
「なに? ルーシャちゃん」
「じっとしてなさい」
ルーシャちゃんはわたしが目の前に立つと、杖を両手で構えて目を閉じた。
「この者に我が精霊の加護を与えん」
目の前のルーシャちゃんの精霊石が緑色にわずかに光る。丸い精霊石をコツンと私のおでこに当てた。目を開いたルーシャちゃんがふんっと胸を張る。
「これはわたくしの家に伝わる旅に出る者への祝福ですの。ありがたく思いなさいませ!」
「うん! ありがとう、ルーシャちゃん。行ってくるね」
わたしたちはたくさんの人に見守られながら、シュウマ山に向かった。
大きな門を出ると、まずは街の東側に回る。乾いた空気が朝の空気をさらに冷たくしていた。
「山はやっぱり険しいの?」
ビューロさんが敬語じゃなくていいと言うので、軽い口調で尋ねる。すると、物騒なことをさらに軽い口調で返ってきた。
「ああ。何せ火口に入るのだからな! 足場がほとんどない場所もたくさんあるぞ」
「あ! 見えて来た! あそこがシュウマ山の登山口ね!」
わたしの側を飛ぶエルメラが指をさした。カカも隠れずにイオの周りを飛んでいる。城塞都市の影に隠れて全体が見えなくなっていた山。シュウマ山は富士山のような綺麗な形をしていた。ほとんどが土の色で、所々マグマが流れる赤い筋が見える。登山口以外は大きな木の杭で囲われ、簡単には入れないようになっていた。
サラマンダーが住み着いていなくても危険な山だろう。まずサラマンダーの所に行く前に、あんな険しい山が登れるだろうか。体力は一応あるつもりではあるけれど、いまは子供の身体だ。旅をしてそれなりに体力はついたけれど不安は残る。
「こっちだ。足元に気をつけてな」
ビューロさんが何故か下を指さす。しゃがみ込んだと思ったら、姿を消した。シュルカさんもオリビアさんも慣れた様子で近づいていき姿を消す。なんだろうかと思って近づいてみると、穴が掘ってあった。それが、横に長く繋がっている。
後ろにいるイオが言う。
「ユメノ、先に降りろ」
どうやら後ろを守るつもりのようだ。こんな山でもないところから、真面目にしなくてもいいのに。そう思いつつ、わたしははしごを使って、ゆっくり穴の中に降りた。
「これって……」
キョロキョロ周りを見ても穴の中だから土しかない。とはいえ、ただの穴ではないことは明らかだった。横に続く穴は人がすれ違えるほどの幅で、兵士の人がちらほらと行き交っていた。
「ははっ、はじめてだろう? これは戦争で使われる溝だ。主に防御の為に掘られている」
映画で見たことがある。確か塹壕というはずだ。ゲーズの街は戦争をしている。ゲーズの街は呆れるほど高い城壁に囲まれているし、平原の向こう側にも同じように壁が薄っすらと見えた。ロザ王国だ。
「ここを通るの狭くて埃っぽくて嫌なのよね。在中している兵士も汚れているし、早く通り抜けましょう」
物珍しさに気を取られているうちに、オリビアさんが先にずんずん進んでいく。わたしたちも縦に並んでそれに続いた。他に人がいるから、エルメラがフードの中から尋ねて来る。
「ねっ、ねえ。どうして、戦争に穴を掘る必要があるの?」
「ああ。これは、銃で。……いや、この世界にはたぶん銃はないか。えーと、相手を見張るにしても平原の真ん中に一人で立っていると、弓とか砲弾の的になっちゃうでしょ」
「精霊を攻撃に使う場合もあるらしい。精霊使いは暴れる精霊を祓うのに忙しいが、生活に困窮した精霊使いが仕方なく協力するそうだ」
イオが付け加えてくれる。確かに精霊使いが協力してくれるかは分からないが、武器よりもずっと強力だろう。
「だから、穴を掘って、こっそり地面の下からのぞいて相手を見張るのよ。そうしたら、安全でしょ」
わたしは梯子を上って、平原を見ている兵隊の人を指さす。
「そっか。こんなこと、よく思いつくね」
エルメラは納得した様子だ。
「でも、どうして精霊が暴れているのに戦争なんてしているの?」
そんなのこっちが聞きたいよ。塹壕まで掘っているなんて、考えていたよりも本格的な戦争だ。とはいえ、街と国の歴史上の何かがあるのだろう。とにかく、登山口へ向かうべく、埃っぽい横穴を歩き続けた。
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