余命一年と言われたギャルの話

白川ちさと

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第二十一話

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「やばい! この可愛さやばい!」

 わたしはやはり目の前に来たパンケーキに興奮を抑えられない。スマホで写真をたくさん撮る。

「渡辺さんが楽しそうでよかったよ。昨日のイチゴパフェ、美味しそうに食べていたからさ」

 あれ? と思った。

 美味しいものを食べに行くという、やりたいことは義理の妹の願望だ。

 でも、山崎は聖と言うより、わたしを喜ばせるためにこの店を選んだみたいに聞こえた。義理の妹へのリサーチはしていないようだし、昨日のわたしの様子を見て同じイチゴのメニューがあるところを選んだのだろう。

 もしかして、山崎なりにわたしを元気づけようとしてくれているのかもしれない。学校を休学するのが嫌だと落ち込んでいる姿を見たから。

「それじゃ、ありがたく。いただきまーす!」

 それなら、美味しくいただかなければ罰が当たるというものだ。

 ゆっくりと生地にナイフを入れる。ひと口大に切って、生クリームとイチゴのソースをたっぷり付けた。フワフワの食感に甘酸っぱさとクリーミーな甘さが口いっぱいに広がる。

「美味しーッ! これ神じゃん!」

「そんなに美味いの? 味見させて」

 わたしは同じようにひと口大にソースをたっぷりつけて、陽介の前に差し出す。大きな口を開けて、陽介はかぶりついた。

「おー。ちょっと甘過ぎるけど、うまいな!」

「でしょー。陽介もパンケーキにすればよかったのに。あ! ティラミスちょうだい!」

 わたしと陽介が食べさせ合っていると、横から視線を感じる。

「……なに?」

 義理の妹と山崎が食べもしないで、こっちをジッと見ていた。

「いや、だって。二人で来ているならまだしも、わたしたちも一緒なのに……」

 義理の妹は顔を伏せて、フォークでティラミスをつんつんしている。

「しょうがないじゃん。お互いの食べたいんだし」

「い、いや! 渡辺さんがやりたいことをやればいいと思うよ! うん!」

 山崎がやりたいことと言うから、今まで夢の中にいるような感覚だったのに、突然現実に引き戻された。

 イチャイチャしている場合じゃない。さすがに今日は無理だけど、わたしは陽介に別れてって言わないといけないんだから。

 わたしはもう一度、夢の中に行くために甘いパンケーキを頬張る。

 そうこうしている内に、隣に新しい客が案内されて来た。

「へー、店内も良い感じー」

 隣の席に座ったのは中学生二人組だ。よく知る黒いセーラー服、わたしが卒業した中学であり、義理の妹が着ている制服でもある。こんな所まで来るなんて珍しい。

「え。やばくない?」

「すごいカッコいい」

 二人の女子中学生は、陽介を見てソワソワと目線を投げて来た。よくある光景に、わたしは反応しないで食べ進める。

「あれ? え、一緒にいるのって……」

「渡辺じゃん」

 義理の妹の肩が震えて、フォークが食器に当たる音が響いた。どうやら、知っている子たちのようだ。けれど、仲が良いとはまるで思えない。

 現に義理の妹の表情は硬く、女子中学生の二人はニヤニヤと笑いながら話しかけ始めた。

「おーい、渡辺さん無視ですかー」

「なんだー。仲のいい友達いるんじゃない」

「いつも、ぼっちなのにねー」

「チャラ高の人と仲いいなんて、意外ー」

 チャラ高と笑われるにしても、居心地が悪かった。だけど、義理の妹が反応しない以上、わたしたちも口を出しづらい。

「ていうか、渡辺、パンケーキ食べてないじゃん」

「本当だ。わざわざ遊んでもらっているのに、空気読めなさすぎじゃない?」

「ねー。だから、友達一人も居ないんだよねー」

 友達が一人も居ない? 本当に一人も?

 わたしはつい義理の妹の顔を見る。すると、義理の妹は俯いて震えていた。堪えているのだろう。あまりの顔の赤さに涙が出ていないことが不思議なくらいだ。

「今日だってさー」

「なあ、そこの人たち」

 さすがに黙って居られないと陽介が口を出そうとした。

「ダサ」

 ガシャンとわざと音を立てて、ナイフとフォークを皿に置く。一気にわたしに注目が集まった。

「こんな素敵な場所にわざわざ口汚いこと言いに来たわけ? この子が気に入らないにしても、黙ってパンケーキ食ってなよ」

 わたしは目力を込めて女子中学生たちを睨みつける。睨みが効いたようで二人はたじろいだ。でも、それも一瞬のことだ。

「な、なに? チャラ高のギャルが説教とか」

「やだー。おばさん、こわーい」

 全く話にならない。

「時間の無駄だから早く食べて出よう」

「え、あ! うん!」

 陽介と義理の妹はほとんど食べ終えていたから、わたしと山崎は黙々とフォークを動かす。その間も隣で何か言っていたけれど注文したパンケーキが来たら、そっちに夢中になっていた。わたしたちが店を出て行くときも気づいていない様子だった。

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