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第二十六話
しおりを挟む次の日曜日は、家族で入院に必要なものを買い物に行って食事もする。
わたしが好きなものでいいと言うので焼肉と答えた。だけど、この前も食べたからと中華料理を食べる。でも、お肉がゴロゴロ入っている酢豚が美味しかった。
帰りにみんなでおじいちゃんの家にも寄る。四人でお土産を渡したら、すごく喜んでいた。わたしが新しい家族と打ち解けたことを心の底から祝ってくれた。
けれど、言わないわけにもいかなくて、病気のことを話す。
「渉ちゃん、じいちゃんが付いているからな」
涙ながらに手を握って言うおじいちゃんに、わたしは頷くことしか出来なかった。しわくちゃの細い指はわたしが握り返したらいけないと思えるほど震えている。
帰りに聖と茜さんにたまにおじいちゃんの様子を見に行って欲しいとお願いすると快く引き受けてくれた。お父さんも気にかけるから渉は安心していいと言ってくれる。
大事な人を守ってくれる家族が頼もしかった。
休日が終わると一日だけ学校を休んで、病院でまた検査を受ける。最初話にあがったときは聞いていなかったけれど、予定通り四月に手術をすることが決まった。その後、薬での治療が始まるらしい。
「手術、か……」
わたしは教室の窓際で空から落ちて来る雫を眺めながらつぶやく。
「ん? どうかしたの、渉」
「あ。ううん、何でもないよ」
そう?と、美玖は首を捻った。聞かれるところだった。
でも、美玖には他の人よりも先に話をしておいた方がいいかもしれない。中学からの親友が病気だと知ったらどう思うだろう。考えるだけでも、胸が痛い。
「あのさ、美……」
「あ! もう部活の時間だ! 渉、また明日ね!」
美玖は鞄を持って教室を出て行く。わたしはふぅと一息ついた。
「どうしたの、渡辺さん。何か考えごと?」
声を掛けられた方を向くと、山崎がノートを持って立っている。
「ううん。じゃあ、始めようか」
わたしは窓際の席の椅子を引いて座った。山崎もその前に座る。ノートを開いて、眼鏡の真ん中を指で押し上げた。クラスには、まだまばらに人が残っている。
さわさわと声が耳をかすめる中、山崎は姿勢を正して言う。
「えっと……、それではインタビューを開始します」
「あはっ、何それ」
別に録音しているわけでもないのに山崎が律儀に言うのがおかしかった。
約束していた、わたしへのインタビュー。クラスメイトから色々と話を聞いて、わたしに聞きたいことをまとめたからと昼休みに言われたのだ。
「渡辺さんと一番仲がいいのは井川さんですね」
「そうだね」
井川というのは美玖の苗字だ。わたしが美玖と一番仲がいいのは誰の眼からも明らかだろう。
「井川さんとは中学のときからの付き合いですね。一番印象深いなと思うエピソードを教えてもらえますか?」
「仲の印象のあるエピソード……」
わたしは腕を組んで考えた。そりゃ、美玖とはたくさんの思い出がある。
でも、一番というと、すぐには――
「あ! 中学の卒業旅行で京都に行ったんだけど、自由行動でお寺に行ったんだけど、わたしと美玖だけグループからはぐれちゃって」
あのときのことを思い出して、思わず笑みが浮かぶ。
「お寺の中を延々と歩いて、それでもどこを歩いているか分からなくて。スマホの充電も切れちゃって、二人でお迎えが来るまで何時間も待っていたの。大体、京都のお寺って広すぎだから! あのときは悟りが開いて尼さんにでも何でもなれると思ったなー。いまでは笑い話だけどね」
目の前の山崎が口を押えて、はははっと笑う。
「二人の尼さん姿を想像しちゃったよ」
「えー?」
「でも、井川さんは言っていたよ。お寺で迷ったのは渡辺さんが食べ物に釣られて、単独行動をしようとしたからだって」
「え! 嘘! はぐれたのは、すぐに追いつけるはずだったのに、美玖がお土産に釣られてお店に入ったからだから!」
ここだけは譲れない点だ。山崎は笑みを浮かべたまま頷く。
「井川さんも一番に修学旅行の話をしていたよ。本当に二人は仲がいいんだね」
「……まあね」
「じゃあ、次は――」
その後も山崎のインタビューは続いた。わたしが答える度に山崎は少し大げさなぐらい反応する。
いつの間にか、教室には二人だけになっていた。
「ちょっと待って、山崎。もしかして、わたしの失敗集でも作るつもり?」
わたしは思わず額を手で押さえる。
「ははっ。印象に残っていることを教えてもらっているからね。渡辺さんも結構おっちょこちょいだし……」
山崎は苦笑いをして、指で頬を掻いた。確かに身に覚えがあることばかりだけど、みんなももっと格好のつくことを言ってくれればいいのに。
「もっと真面目なことを聞いて!」
「分かった。そうだな、……病気の方はどう?」
山崎が気づかわし気な表情をする。
本当はこれが一番聞きたかったことなのかもしれない。
「うん。咳は出るけど、すごく身体が重いとかはないよ。んで、四月になったら手術することになった」
わたしは変わらない口調で話したけれど、山崎は「そっか……」と声のトーンを落とした。
「入院したら全部向こうに任せるしかないんだし。まあ、ダメでも天国からのお迎えを待つだけって感じ?」
「何言っているの、渡辺さん。ダメだなんて……」
「だってさ。風邪や骨折じゃないんだし。一応、そういうことも」
自虐的なことを言っている自覚はあるけれど止まらない。だって、もしもを考えておかないと、もしもそうなったときすごくガッカリしそうだ。
「ダメだよ。渡辺さん」
山崎はもげそうなぐらいブンブンと頭を振る。
「渡辺さんはこの先もずっと生きて、やりたいことをやるんだ」
それから山崎の長い話が始まった。
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