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3 黒川さんたちはお金がない
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数分後、牛頭は二人のもとに戻ってきた。手にはダブルクリップで留めた書類の束を握っている。一応日本語で書かれたもののようだった。
「はい、これ。いつものところから」
「いつもの、ねえ……」
黒川は牛頭から書類を受け取ると、慣れた手つきでそれをぺらぺらめくって確認し始めた。いったいどんなことが書かれているのだろう。雪子は首を伸ばし、それを覗き込んでみた。
すると、どの書類にも、左下に「討伐」と赤くスタンプが押されていた。さらに、依頼人の欄には「法務省特別在留管理室」とあった……って、法務省ってあの? しかし聞いたことのない部署である。
「なんですか、この仕事?」
「現世《うつしよ》、すなわち人間の世界で悪さを働く妖怪を始末するか、幽世に強制送還してくれって依頼ですね」
「悪魔祓いみたいな仕事? それを法務省が依頼するんですか?」
「まあね。現世での妖怪の滞在はそれぞれの国の政府が直轄で管理していることなのですよ。なので、人間の世界に悪影響を与えるとされた妖怪はすみやかに排除されます。また、妖怪の力を安易に人間社会で行使し、特定の人間に加護を与えているバランスブレーカーなども同様です。そして、日本において、それを管轄しているのがこの法務省の特別在留管理室です。一般には公開されてない、ヒミツの部署なんですよ」
「へえ……」
妖怪って政府公認の存在だったのかあ。にわかには信じがたい衝撃の事実である。
「でも、なんでこんな仕事ばっかり紹介されるんですか? この紙、全部に討伐って書いてありますよね?」
「そりゃあ、誰もやりたがらない仕事だからですね。何かと危険だし、報酬も銀行振り込みのみだから、現世で口座を持ってない妖怪には敷居が高い。何より、討伐中であろうと、普通の人間に妖怪だとバレちゃダメですからね」
「ああ、それは確かに難易度高そうですね」
周りの魑魅魍魎たちを一瞥して、雪子は大いに納得した。黒川のように人間に変身できれば話は別なのだろうが、そうでなければ、まずこの仕事はできないだろう。
「ただ、短時間高収入の仕事には違いないですよ。ささっと片付けて、お金をもらってしまいましょう、赤城さん」
「え、私も何かするんですか?」
「はい。赤城さんに協力してもらえると、仕事が早く終わりそうですし」
「ちょ、ちょっと待って。相手は悪い妖怪なんでしょう? それを退治する仕事なんて、私――」
「報酬はもちろん、きっちり二等分で」
「やります!」
金欠なので即答しちゃう雪子であった。
その後、二人はすぐに雪子の部屋に戻った。帰りも例の鍵をスマホのアプリ操作でで楽々だった。まさにワープ。不思議便利現象と呼ぶほかない。
「では赤城さん、さっそく、討伐クエスト消化しに行きましょう」
「え、今からですか? こんな夜遅くに?」
「だからですよ。僕もそうですが、一般に邪気妖怪は夜行性です。むしろ今みたいな時間が、活動のゴールデンタイムなんです」
「は、はあ……」
菱田出版の編集の話のときも聞いたような説明である。
「ああ、ちなみに、妖怪の中には、邪気とは無縁の、神気妖怪と呼ばれる種類の方たちもいますが、そちらはだいたい夜は寝てますね」
「しんきようかい? 神っぽい妖怪も別にいるんですか? 神社に祀られてるような?」
「ですね。神使と呼ばれたりもします。ただ、邪気妖怪に比べて数が少なく、気位が高く人とは積極的に関わらず、一方的に神と崇め奉られ貢がれて調子こいている種族なので、人の世界で悪さをすることはめったにありません。なので、こういう討伐クエストにもまず登場しないんですよ」
「なんか悪意のある言い方ですね」
「ふふ、邪気と言って欲しいですね、そこは」
邪気妖怪、羅刹の男は、にやりと笑った。
「はい、これ。いつものところから」
「いつもの、ねえ……」
黒川は牛頭から書類を受け取ると、慣れた手つきでそれをぺらぺらめくって確認し始めた。いったいどんなことが書かれているのだろう。雪子は首を伸ばし、それを覗き込んでみた。
すると、どの書類にも、左下に「討伐」と赤くスタンプが押されていた。さらに、依頼人の欄には「法務省特別在留管理室」とあった……って、法務省ってあの? しかし聞いたことのない部署である。
「なんですか、この仕事?」
「現世《うつしよ》、すなわち人間の世界で悪さを働く妖怪を始末するか、幽世に強制送還してくれって依頼ですね」
「悪魔祓いみたいな仕事? それを法務省が依頼するんですか?」
「まあね。現世での妖怪の滞在はそれぞれの国の政府が直轄で管理していることなのですよ。なので、人間の世界に悪影響を与えるとされた妖怪はすみやかに排除されます。また、妖怪の力を安易に人間社会で行使し、特定の人間に加護を与えているバランスブレーカーなども同様です。そして、日本において、それを管轄しているのがこの法務省の特別在留管理室です。一般には公開されてない、ヒミツの部署なんですよ」
「へえ……」
妖怪って政府公認の存在だったのかあ。にわかには信じがたい衝撃の事実である。
「でも、なんでこんな仕事ばっかり紹介されるんですか? この紙、全部に討伐って書いてありますよね?」
「そりゃあ、誰もやりたがらない仕事だからですね。何かと危険だし、報酬も銀行振り込みのみだから、現世で口座を持ってない妖怪には敷居が高い。何より、討伐中であろうと、普通の人間に妖怪だとバレちゃダメですからね」
「ああ、それは確かに難易度高そうですね」
周りの魑魅魍魎たちを一瞥して、雪子は大いに納得した。黒川のように人間に変身できれば話は別なのだろうが、そうでなければ、まずこの仕事はできないだろう。
「ただ、短時間高収入の仕事には違いないですよ。ささっと片付けて、お金をもらってしまいましょう、赤城さん」
「え、私も何かするんですか?」
「はい。赤城さんに協力してもらえると、仕事が早く終わりそうですし」
「ちょ、ちょっと待って。相手は悪い妖怪なんでしょう? それを退治する仕事なんて、私――」
「報酬はもちろん、きっちり二等分で」
「やります!」
金欠なので即答しちゃう雪子であった。
その後、二人はすぐに雪子の部屋に戻った。帰りも例の鍵をスマホのアプリ操作でで楽々だった。まさにワープ。不思議便利現象と呼ぶほかない。
「では赤城さん、さっそく、討伐クエスト消化しに行きましょう」
「え、今からですか? こんな夜遅くに?」
「だからですよ。僕もそうですが、一般に邪気妖怪は夜行性です。むしろ今みたいな時間が、活動のゴールデンタイムなんです」
「は、はあ……」
菱田出版の編集の話のときも聞いたような説明である。
「ああ、ちなみに、妖怪の中には、邪気とは無縁の、神気妖怪と呼ばれる種類の方たちもいますが、そちらはだいたい夜は寝てますね」
「しんきようかい? 神っぽい妖怪も別にいるんですか? 神社に祀られてるような?」
「ですね。神使と呼ばれたりもします。ただ、邪気妖怪に比べて数が少なく、気位が高く人とは積極的に関わらず、一方的に神と崇め奉られ貢がれて調子こいている種族なので、人の世界で悪さをすることはめったにありません。なので、こういう討伐クエストにもまず登場しないんですよ」
「なんか悪意のある言い方ですね」
「ふふ、邪気と言って欲しいですね、そこは」
邪気妖怪、羅刹の男は、にやりと笑った。
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