あやかし漫画家黒川さんは今日も涙目

真木ハヌイ

文字の大きさ
29 / 62
3 黒川さんたちはお金がない

3 - 5

しおりを挟む
「ス、スライムさん?は、私なんかのオシッコが体に混じると、健康によくないんじゃないですか?」
「いや、おらの体はすでにいろんな女の尿でいっぱいだ」
「汚い!」
「汚くない! 若い女の尿はとても清らかで尊いものだべよ! おら、こんなふうに体がほとんど水分で出来てるけんど、これを全部女の尿で満たすのが夢なんだべ!」
「し、知りませんよ、そんなの!」
「さあ、排尿してくれろ! おらを尊いあったけえ汁で満たしてくれろ!」

 と、スライムは何やら体に摩訶不思議パワーをこめたようだった。急にその体が冷たくなった。当然、それに絡みつかれている雪子は寒さを感じ、身震いした。尿意も感じてくる。

「だ、だめ、そんなにしちゃ……出ちゃう……」
「おお、出してくんろ! 早く排尿してくんろ!」

 ぎゅっぎゅ! スライムの冷たい体が雪子の体にますます強く絡みつき、彼女はいっそう強く尿意を感じ、ついに――、

 と、そこで、

「はいはーい、悪ふざけはそこまでー」

 と、後ろからのんきな声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、雪子の体からスライムの体が剥がれ落ちた。何か後ろから、鋭利なものですぱっと切られ、束縛を解かれたようだった。

 はっとして後ろを振り返ると、そこにはやはり、黒川がいた。今は人間への変身を解いて、鬼の姿である。髪も長いし目も赤いし、ツノも生えている。また、その手には一振りの刀が握られていた。街灯の光に、その刃は冴え冴えとした冷たい輝きを放っている。

「お、おめえ、いきなり何するだ!」
「ひでーだよ! 痛かったでよ!」

 おそらくは黒川の持つ刀で斬られたらしいスライムは、二つに分離したまま同時に叫んだ。

「く、黒川さん! 今まで何してたんですか!」
「いやあ、あの妖怪が本当に人間に危害を加えるものなのか、見極めていただけですよ」
「遅いですよ! もっと早く来てください!」
「そうですね。おかげですっかり赤城さんはねちょねちょだ」

 黒川は他人事のようにけらけら笑った。そして、ふと、ジャージの上着を脱ぎ、雪子の体にかけた。見ると、おそらくはスライムと一緒に刀で切られたのだろう、キャミソールの背中がぱっくり裂けていた。

「ひ、ひどい! これけっこう気に入ってたのに!」
「はは、バイト代で新しいの買うしかないですね」

 そう言って、やはり笑う黒川は、上半身は白い無地のTシャツ姿だった。ジャージの下に着ていたのだろうか。相変わらず貧乏くさいというか、着るものにこだわりがなさすぎるというか。

 ただ、普段の冴えない姿と違って、今は相当なイケメンになっているので、その姿でもなんとなくさまになっていた。

 さっきの完璧イケメンと違って、こっちは本物のイケメンなんだよなあ……。久しぶりなので、雪子はちょっと見とれた。

 と、そこで、

「なに、和気藹々とくっちゃべってるだ! おら、まだその女から尿を回収してねーでよ!」
「邪魔するやつは許さないだ!」

 二つに分裂したスライムは黒川に飛び掛ってきた。

 それは外見に似つかわしくない俊敏な襲撃だった。だが、彼らは黒川の体に接触することは出来なかった。その寸前、彼は軽やかな動きでバックステップし、彼らを回避したからだった。スライムたち以上にすばやい上に、実に無駄のない動きだった。

 そして、スライムたちがむなしく路上に落ちた刹那、彼は再び刀を一閃させた。スライムたちの体はさらに細かく両断され――やがて一つをのぞいて消えてしまった。青白い光を放ちながら。

「な、なにをしただ、おめえ!」

 最後のひとかけらのスライムは震えながら叫ぶ。

「あんまり体がたくさんあるのも不便かなって思って。僕の邪気を刀身に混めて、蒸発させてみたんですよ」
「じょ、蒸発? おらが今までためた女の尿が、蒸発……」

 スライムはめちゃくちゃショックを受けているようだった。小さい体がさらに縮こまった。声も実にか細くなっている。

「まあ、僕としては、このまま最後の一個を消してもいいんですけどね」
「うっ……」

 黒川に刀の切っ先を突きつけられ、スライムは完全に抵抗する気力を失ったようだった。

「わ、わかっただ……。おめえの言うとおりにするだ。おらのこの体、好きにもてあそぶがええ! 思う存分むさぼるがええ!」

 と、ヤケクソのように叫ぶと、小さい粘液状の体ながらも、路上に大の字に寝転がったようだった。「いや、その体はいらないです」黒川は苦笑いしながら首を振った。

「この手配書の通り、現世から幽世に帰ってもらえればそれでいいですよ」

 黒川はジャージのズボンのポケットから紙切れを出し、スライムに見せた。

「幽世に帰るのはええが、今すぐか?」
「ああ、その点はご心配なく。あとの処理はこっちで全部やりますから」

 と、黒川は言うと、今度はポケットから例の小さい鍵を取り出し、スライムのすぐそばに置いた。そして、スマホのアプリを操作し始めた。たちまち、鍵を中心にして光る丸い円が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...