あやかし漫画家黒川さんは今日も涙目

真木ハヌイ

文字の大きさ
31 / 62
3 黒川さんたちはお金がない

3 - 7

しおりを挟む
 その日、二人はいったんアパートに戻った後、夜行性の黒川はそのまま就寝、睡眠不足の雪子はそのまま出勤し、やがて夕方になった。雪子がふらつく足取りでアパートに戻ると、またいつかのように黒川が階段の踊り場で彼女を待っていた。手にはゆうべ片付けた討伐依頼書の束を握っている。あと、何か入った紙袋も。

「じゃあ、赤城さん。さっそくこの紙を現金に換えに行きましょう!」
「はあ」

 今からじゃないとだめかなあ。眠いんだけどなあ。雪子はとりあえずそのまま黒川と一緒にアパートを出た。

 黒川が向かった先は、とある高級住宅街の一角にあるマンションだった。その最上階に法務省の担当とやらが住んでいるらしい。場所が場所だけに、そこもいかにも高そうなマンションだった。

 貧乏くさいジャージの男が中に入れるのかどうか、実にあやしいものだったが、マンションの入り口のオートロックのところで彼の呼び出しに対応した人物は、すんなりドアを開けてくれた。眠くて朦朧としていてよく聞こえなかったが、子供の高い声に聞こえた。

「その人って、妻帯者なんですか?」
「いえ、独身ですよ」
「でも、今、インターフォンに出たの子供ですよね?」
「ああ、彼には歳の離れた弟がいるんですよ。小学生の」
「へえ」

 つまり、今の声は、小学生の弟の子かあ。あれ? どこかの誰かにもそういうのがいたような。まあいいか……。雪子は本当に眠いのであった。

 やがてエレベーターで最上階につき、黒川は担当者の部屋のチャイムを押した。すると、インターフォンに誰か出るより前に、中から玄関が開いて、一人の少年が飛び出してきた。

「一夜兄ちゃん! 久しぶり!」

 年のころは十一歳ぐらいだろうか。Tシャツに半ズボンという服装で、金髪碧眼で白い肌をして、人形のようなとても愛らしい顔立ちをした少年だった。雪子ははっと目が覚める気がした。なんで、こんないかにも外国人風の美少年が、黒川のことを兄と呼んでいるのか。

「あの、黒川さん、この子は――」
「ああ、僕の弟で、黒川聖夜《くろかわ・せいや》って言うんですよ」
「え、弟?」

 さらにその言葉で眠気が完全に吹っ飛んだ。確かに、表札を見ると「黒川」とある。

「じゃあ、法務省の担当っていうのは――」
「ええ、彼も僕の弟ですよ」
「白夜《びゃくや》兄ちゃんっていうんだよねー」

 と、美少年こと、聖夜が言った。また驚きの事実だった。

 こんな売れない漫画家の、貧乏くさい陰気臭い、そのくせ性格だけは人一倍めんどくさい男の弟が、法務省なんてお堅いところで働いていたなんて。国家公務員、というか官僚だったなんて! いやまあ、それらしい話は黒川自身の口からなんとなく聞いてはいたのだが。

「で、聖夜。白夜はいるんですか?」
「いや、まだ帰ってないよ。今日も残業なんじゃない?」
「そうですか。じゃあ、勝手に中に入って待ってますか」
「あ、一夜兄ちゃん、その前にあれ」
「ああ、あれね。はいはい。ちゃんと終わりましたよ」

 黒川は聖夜に携えていた紙袋を手渡した。ああ、そういえば、小学生の弟から夏休みの宿題代行を頼まれていたって話だっけ。それが、あれか。

 その後、黒川と雪子は白夜の家に入って、居間のソファに座った。中は広々としていて、天井も高く、家具や内装も高級感にあふれていて、やはりとてもお高そうな住まいだった。なんでも、白夜と聖夜、二人で生活しているそうで、何日かに一度、メイドさんが家事をしにやってくるそうだ。セレブか何かか。

「すごいですね。弟さん、こんな豪邸に住んでいるなんて。めちゃくちゃ家賃高そうじゃないですか」
「ああ、ここはもとは悪霊つきの事故物件らしくて、見た目よりは家賃は安いんですよ。悪霊は当然、白夜が食べてしまいましたが」
「……な、なるほど」

 やはりこの男の弟には違いないようだ。

「ただ、それでも家賃二十万なんですよね。さすが親方日の丸、いいご身分ですよね」
「へえ、割引価格でもけっこうするんですね。まだ若いのに、そんなところに住めるほど法務省の職員ってお給料いいんですか?」
「まあ、部署と役職にもよるんでしょうけどね。白夜はキャリア組のはずですし、そこそこもらってるはず――」
「え、キャリア組? それで法務省で働いてるって、もしかして超エリート官僚じゃないですか!」

 雪子はますます眠気を感じてる場合ではなくなった。こんな社会の底辺にこびりついているような男の弟が、そんなエリートだったとは!

「本当に黒川さんって、その白夜さんと兄弟なんですか?」
「ええ、ちゃんと血を分けた兄弟ですよ。まあ、父親は違いますけどね」
「へ、へえ……」

 同じ母親からこうも違う兄弟が生まれるんだ。おかしすぎる。

 というか、血を分けたと兄弟ということは、やはり……。

「ということは、白夜さんも鬼の妖怪なんですか?」
「もちろん、彼も羅刹です。それが、人間のふりして官僚やってるんですよ。笑っちゃいますよねー」
「いえ、すごく立派なことだと思います!」

 人間じゃないのに、人間社会のために働いている超エリート官僚とか、むしろ、尊敬の念しか感じないのだが?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...