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4 黒川さんと星月夜
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「すごーい! 爆発しないで目玉焼きができちゃった!」
「解凍モードで少しずつ加熱することで、爆発せずに出来上がるってわけなのですよ」
「これ便利ですね!」
黒川との付き合いで、初めて有益な何かを得た気がした雪子だった。
「赤城さんは目玉焼きには何をかける派ですか?」
「マヨネーズと塩コショウですね」
「いいですね。僕は基本しょうゆ派ですが、たまにはマヨにも走ります」
「ケチャップとかお好みソースとかもおいしいですよね」
二人はそのまま出来上がった目玉焼きを箸でつついて食べた。激安の卵だが、十分においしかった。きっと天使の食品に違いないと思った。
それから、雪子はまだその場で何か食べたいような気持ちになり、野菜やら調味料やら肉やら一通りそろっていたこともあって、黒川の家の台所で肉野菜炒めを作った。調味料はみりんと味噌を混ぜ合わせて作った。
野菜はモヤシに、黒川の家の冷蔵庫にあったキャベツ。そして、使う肉はもちろん、買ってきたばかりの若鶏胸肉だ。それらを手際よく包丁で切り、フライパンで炒めた。料理はそれなりに得意な雪子であった。
二人ぶん作って皿に盛ると、雪子は台所から居間にいる黒川に声をかけた。すると、「うわー、おいしそうなにおいがしますねえ」と言いながら、黒川が台所にやってきた――のだが、なぜか鬼の姿になっていた。
「黒川さん、その姿――」
「ああ、僕、飲んじゃうと変化が解けちゃうみたいなんですよ」
と、黒川は手に持っているものを掲げた。見ると、それはビールの缶だった。雪子が野菜炒めを作っている間にすでに飲み始めていたらしい。
「お酒には強いほうなんですけどねえ。一滴でも飲むと正体バレです。だから、外では飲めないんですよ」
「……ふうん。なんだか面白い体質ですね」
久しぶりに鬼の姿の黒川を見て、雪子はやはりちょっとドキドキした。相変わらずの美貌だし、今は少しお酒が入っているせいか、いつもより血色がいいようだ。
それから二人は居間でちゃぶ台に向かい合って、一緒に肉野菜炒めやバナナや助六などを食べた。
黒川は鬼だけあって、食べながら酒をがぶがぶ飲んでいた。ビール六缶を全て飲んでもけろっとしていた。さらにその後は日本酒を飲み始める始末だった。
ただ、一応少しずつだが酒は回っているそうで、最初は高いがおいしいビールを飲んで、酔いが回って感覚が鈍くなってきたら安い酒を煽るのが彼の飲みスタイルなのだそうだ。なるほど、貧乏なりに工夫して飲んでいるというわけか。
黒川がビールやら日本酒やらを飲んでいる間、雪子は少しだけビールをもらった。酒に弱い彼女は、グラス一杯でも頭がふわふわになった。そして、なんだかとても楽しい気持ちになった。
目の前にはイケメンがいて、自分は彼の部屋で飲んで食べて談笑しあっているのだ。これが楽しくないわけないではないか。イケメンにツノやら牙やら生えているのは、この際気にしないことにする。
「……しかし、こんなに飲んでいるとツマミがさらに欲しくなりますね」
ふと、黒川は言った。
「おつまみ? スナック菓子とかなら私の家にありますよ。取ってきましょうか?」
雪子はふらふらしながら立ち上がったが、黒川はそこで「いや、そういうのじゃなくて」と、そんな彼女を止めた。
「僕が食べたいのは邪気邪気したスイーツですよ。ちょうどこういう夜遅い時間は特にね」
そう言うと、黒川は立ち上がり、近くクローゼットを開けて中をあさり始めた。
何をやってるんだろう?
すっかり酔ってしまった雪子はその様子を後ろからぼんやり眺めた。すでに時刻は夜の十一時。こんな時間に男の部屋で二人きりで酒を飲むなんて体験、雪子にとっては初めてだったが、それゆえにこの状況を特別に意識することはなかった。意識するには彼女の恋愛経験はあまりに希薄すぎた。おまけにしこたま飲んでるし、相手は普通の男じゃなくて妖怪だし。
「……お、あった、あった」
やがて黒川はクローゼットから何か引っ張り出してきた。見るとそれは――着物と羽織のようだった。
「これはただの着物じゃないんですよ。鬼の強い邪気を織り込んで作られた、特別な装束なのです」
黒川はそう言うと、いきなりジャージを脱ぎ始めた。その着物に着替えるようだった。雪子はあわてて目をそらした。さすがに彼女でも、目のやり場に困る。
黒川はすぐにその着物に着替え終わったようだった。
「ほら、どうですか、赤城さん?」
と、言って彼女の目の前に現れたのは、鮮やかな赤い着流しの上から紺色の羽織をまとった男だった。その面差しはとても端正で、透き通るような白い肌は、白磁の人形のそれのようだ。黒い髪は長くつややかで、紺色の羽織の肩の上にさらりと流れている。体つきは細身で背は高く、その立ち姿はりりしくも、どこか繊細で儚げな雰囲気があった。
「……え、誰?」
雪子は一瞬、それが誰なのかわからなかった。こんな完璧和風イケメン、どっから沸いて出てきたんだろう?
「解凍モードで少しずつ加熱することで、爆発せずに出来上がるってわけなのですよ」
「これ便利ですね!」
黒川との付き合いで、初めて有益な何かを得た気がした雪子だった。
「赤城さんは目玉焼きには何をかける派ですか?」
「マヨネーズと塩コショウですね」
「いいですね。僕は基本しょうゆ派ですが、たまにはマヨにも走ります」
「ケチャップとかお好みソースとかもおいしいですよね」
二人はそのまま出来上がった目玉焼きを箸でつついて食べた。激安の卵だが、十分においしかった。きっと天使の食品に違いないと思った。
それから、雪子はまだその場で何か食べたいような気持ちになり、野菜やら調味料やら肉やら一通りそろっていたこともあって、黒川の家の台所で肉野菜炒めを作った。調味料はみりんと味噌を混ぜ合わせて作った。
野菜はモヤシに、黒川の家の冷蔵庫にあったキャベツ。そして、使う肉はもちろん、買ってきたばかりの若鶏胸肉だ。それらを手際よく包丁で切り、フライパンで炒めた。料理はそれなりに得意な雪子であった。
二人ぶん作って皿に盛ると、雪子は台所から居間にいる黒川に声をかけた。すると、「うわー、おいしそうなにおいがしますねえ」と言いながら、黒川が台所にやってきた――のだが、なぜか鬼の姿になっていた。
「黒川さん、その姿――」
「ああ、僕、飲んじゃうと変化が解けちゃうみたいなんですよ」
と、黒川は手に持っているものを掲げた。見ると、それはビールの缶だった。雪子が野菜炒めを作っている間にすでに飲み始めていたらしい。
「お酒には強いほうなんですけどねえ。一滴でも飲むと正体バレです。だから、外では飲めないんですよ」
「……ふうん。なんだか面白い体質ですね」
久しぶりに鬼の姿の黒川を見て、雪子はやはりちょっとドキドキした。相変わらずの美貌だし、今は少しお酒が入っているせいか、いつもより血色がいいようだ。
それから二人は居間でちゃぶ台に向かい合って、一緒に肉野菜炒めやバナナや助六などを食べた。
黒川は鬼だけあって、食べながら酒をがぶがぶ飲んでいた。ビール六缶を全て飲んでもけろっとしていた。さらにその後は日本酒を飲み始める始末だった。
ただ、一応少しずつだが酒は回っているそうで、最初は高いがおいしいビールを飲んで、酔いが回って感覚が鈍くなってきたら安い酒を煽るのが彼の飲みスタイルなのだそうだ。なるほど、貧乏なりに工夫して飲んでいるというわけか。
黒川がビールやら日本酒やらを飲んでいる間、雪子は少しだけビールをもらった。酒に弱い彼女は、グラス一杯でも頭がふわふわになった。そして、なんだかとても楽しい気持ちになった。
目の前にはイケメンがいて、自分は彼の部屋で飲んで食べて談笑しあっているのだ。これが楽しくないわけないではないか。イケメンにツノやら牙やら生えているのは、この際気にしないことにする。
「……しかし、こんなに飲んでいるとツマミがさらに欲しくなりますね」
ふと、黒川は言った。
「おつまみ? スナック菓子とかなら私の家にありますよ。取ってきましょうか?」
雪子はふらふらしながら立ち上がったが、黒川はそこで「いや、そういうのじゃなくて」と、そんな彼女を止めた。
「僕が食べたいのは邪気邪気したスイーツですよ。ちょうどこういう夜遅い時間は特にね」
そう言うと、黒川は立ち上がり、近くクローゼットを開けて中をあさり始めた。
何をやってるんだろう?
すっかり酔ってしまった雪子はその様子を後ろからぼんやり眺めた。すでに時刻は夜の十一時。こんな時間に男の部屋で二人きりで酒を飲むなんて体験、雪子にとっては初めてだったが、それゆえにこの状況を特別に意識することはなかった。意識するには彼女の恋愛経験はあまりに希薄すぎた。おまけにしこたま飲んでるし、相手は普通の男じゃなくて妖怪だし。
「……お、あった、あった」
やがて黒川はクローゼットから何か引っ張り出してきた。見るとそれは――着物と羽織のようだった。
「これはただの着物じゃないんですよ。鬼の強い邪気を織り込んで作られた、特別な装束なのです」
黒川はそう言うと、いきなりジャージを脱ぎ始めた。その着物に着替えるようだった。雪子はあわてて目をそらした。さすがに彼女でも、目のやり場に困る。
黒川はすぐにその着物に着替え終わったようだった。
「ほら、どうですか、赤城さん?」
と、言って彼女の目の前に現れたのは、鮮やかな赤い着流しの上から紺色の羽織をまとった男だった。その面差しはとても端正で、透き通るような白い肌は、白磁の人形のそれのようだ。黒い髪は長くつややかで、紺色の羽織の肩の上にさらりと流れている。体つきは細身で背は高く、その立ち姿はりりしくも、どこか繊細で儚げな雰囲気があった。
「……え、誰?」
雪子は一瞬、それが誰なのかわからなかった。こんな完璧和風イケメン、どっから沸いて出てきたんだろう?
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