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2章 ドノヴォン国立学院編

113 疑惑の人

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 しかし、教室に入った直後、俺は他の生徒たちにいっせいに囲まれることになった。

「君、あの岩を素手で壊しちゃったんだって?」
「すごい力だね!」
「勇者様じゃないと、絶対に壊せない岩なのに!」

 やばい。俺が勇者岩を拳で粉砕した話が、もうクラス中に知れわたっている。

「そんなに力があるってことは、まさか君、勇者アルドレイ様の生まれ変わりとか?」

 ぎくうっ! なんか鋭い名推理が飛んできたあっ!

「そ、そんなわけないだろう。こんな俺が、ゆ、勇者様の生まれ変わりなわけはない――」
「え、でも、前にレイナートって国に現れた勇者様の生まれ変わりの少年って、俺らと同じ歳ぐらいらしいよ?」
「し、知らんよ、そんなん!」

 国が違うのに詳しいな、オイ! マジでネットが普及してるんじゃないのか、この世界。

「お、落ち着け、みなの者。突然、俺にあらぬ嫌疑をかけるのはやめたまえ!」

 俺はあわてて言い訳を考えた。

「実は、さっき理事長に謝りに行ったとき、聞いたんだが、あの岩にかけられていた強化魔法は、すでに切れていたらしい。だから、俺が壊したのはただの岩だったんだよ。勇者様やその生まれ変わりじゃなくても壊せる感じの?」
「えー、本当?」
「理事長の強化魔法がそんなにすぐはがれるのー?」
「はがれてたんだよ! お願い、信じて!」

 俺は必死に周りに訴えるしかなかった。この学校では、勇者バレはしたくなかった。なんせ、レイナートでは勇者バレしたとたん、王様に政治利用されかけて気分が悪かったからな。

「ふうん、そっかー。でも、強化魔法なしでも、あんな岩、素手で壊せるってすごいよね」
「冒険者って、みんなそんなことできるの?」
「俺もやってみたいなー。無理だけど、ハハハ」

 どうやら俺の話(激嘘)は信じてくれたようだが、強化魔法なしでもあんな岩を手で壊せること自体、この学校ではかなり特別なことのようだった。そうか、俺ってばレベリングしすぎて感覚がおかしくなっていたが、一般人から見ると、それも異常なことなのか……。

 と、そこで、

「あ、そうか! 君、そんなに強いってことはアレじゃない! ハリセン仮面じゃない?」

 ぐはっ! なんかまた名探偵が現れたんだが!

「な、なぜ、どこにでもあるようなただの岩を壊しただけで、この俺が凶悪犯になるんだい? 教えて、ホワイ?」
「えー、だって、ハリセン仮面って、めっちゃ強いらしいじゃん? ハリセン片手に素手で聖騎士団ボコボコにしちゃったんでしょ?」
「そ、それが何! この俺とは何の関係もないんですけど!」
「君も素手で岩を壊せるぐらい強いから――」
「強いから何! 岩を壊すのと、聖騎士の人たちをボコるのとは、全然話が違いますよ! 勇者様の生まれ変わりでもない、ただの普通の元冒険者の俺にそんなことできるわけないだろう!」
「あ、そっか。じゃあ、鬼のように強いハリセン仮面の正体は、勇者アルドレイ様の生まれ変わりの少年ってこと?」

 ぐはああっ! このクラス、名探偵多すぎぃ!

「そ、そんな、勇者様の生まれ変わりの少年が、あんな悪逆無慈悲なテロ行為に手を染めるわけないじゃあないか!」
「それもそっかー」
「ざーんねん。勇者様の生まれ変わりの子が、実はハリセン仮面だったら面白かったのに」

 俺は面白くないから、その考え早く捨ててえ!

「そーだよ。トモちんは、ハリセン仮面なんかじゃないよー」

 と、フィーオが俺たちのほうに近づいてきた。お、こいつ、一応あの秘密同盟の約束覚えてて、俺のことかばってくれるのか。よかった、アホなりに口は固いんだな――と、安心したのも束の間、

「トモちんはね、どっちかっていうと、ハリセン酔っ払い仮面かなー」

 むしろ俺の正体をバラしにかかってるんだが! より真実に近い表現で!

「酔っ払いってなんだよー」
「やだ、トモキ君って、もしかして酒癖悪いのー?」
「変な言い方、おっかしー」

 しかし、フィーオのアホキャラはすでに教室中に知られていたのか、ただのアホの戯言だと思われたようだった。よかった、アホで……。

 と、安心したのも、またしても束の間!

「あとね、トモちんはね。ほとんどの武器をカンペキに使えるんだって。すごいよねー」

 なんかどさくさに俺の強さアピールはじめてるんだが!

「ほとんどの武器! すごいなあ。素手でも岩を壊せるのに、武器の扱いまで卓越してるんだ!」
「俺らと同い年ぐらいだとは思えないなあ。まるで、前世が歴戦の戦士で、その記憶をまるごと受け継いでるみたいだね!」

 ぐはああっ! なぜさっきから、すべての会話が俺の身バレにつながってるの! やめよう、こんな話は! やめやめ!

「ねえ、トモキ君。今度、剣の使い方教えてよ」
「私は弓がいいなあ」
「じゃあ、俺は槍!」
「う、うん、そういう話はあとでね? そろそろ授業始まるからね?」

 俺は必死に平静を装いながら、嬉々として群がってくるクラスメートたちを避け、自分の席に戻った。

 やがて、鐘が鳴り、午後の授業が始まった。語学だった。比較的俺にとっては余裕の科目だった。比較的。

 しかし、その授業中、ふいに隣の黒ヤギが、俺の机の上にノートの切れ端を投げ込んできた。何か書いたメモのようだった。

 見ると、

『トモキ、お前はなぜ、皆の前で嘘をつく?』

 と、書かれていた。

「う、嘘って……」

 こいつ、一体何を知っているんだろう? ぎょっとして、隣を見ると、黒ヤギの琥珀色の二つの瞳が、鋭い光をたたえて俺を見つめていた。
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