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3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

416 混沌

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「いいから、お前は違う術を使え! ツァドは女帝様に禁止されてるんだろ!」
「あ、そういえば、そうでしたね」

 と、俺の呼びかけにはっとする呪術バカだった。

「いやあ、僕としたことがうっかりしていました。このままここで禁止されているツァドを使ってしまったら、また陛下に怒られて討伐対象になって、学院もクビになってしまうところでした。そうなったらもうお給料はもらえなくなって、呪術の本を買うことができなくなってしまいますよね。そんな辛いことってないですよねー」
「そ、そうだな」

 相変わらず頭のおかしい男だ。やべえ術を使うのを思いとどまるポイントがズレまくってやがる。

「とにかく、今はベルガドにダメージを与えない術を使え! 例の足元から暗黒レーザーぶっぱなす術とかさあ!」
「ああ、そうですね。せっかくラファディさんが、あんな、なんだかよくわからない液体になっているのです。僕の呪術がどこまで通用するのか、威力の弱い術から試していく価値はありそうですね」

 と、また何やら頭のおかしい理論を展開する男だった。まあ、このさい細かいことはいいか。

「というわけで、行きますよ! 始原の混沌の、さらに奥深くに潜む悠久の観測者よ! その深淵から、すべての魔力を解き放ち、かの敵を穿て! 始原の観測者アビスゲイザー・ケイオス!」

 と、聞き覚えのある詠唱とともに、例の呪術、始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスは発動し、液体魔剣と化しているラファディのすぐ真下から暗黒レーザーをぶっぱなした。おお、これは直撃か?

 だが、そう思ったのもつかの間だった。直後、

「呪術反射《リターン・カース》!」

 という声が液体魔剣のほうから聞こえてきたかと思うと、始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスの暗黒レーザーの射出場所が、リュクサンドールのすぐ足元に変わってしまった。

「のわあっ!」

 しゅびびびっ。突然、真下からの暗黒レーザーを浴びて悶絶する男……でもないようで、

「わあ、僕の呪術が跳ね返ってきましたよ。びっくりしたなあ」

 次の瞬間にはけろっとした顔で立っている男だった。こいつ、もしや暗黒属性攻撃はほぼノーダメか。

「しかし、まさかお前の呪術を跳ね返してくるとはな。あの液体、なんでもありかよ」
「いや、きっと、なんでもありってわけじゃないですよ。今の、あらゆる呪術を跳ね返す呪術反射《リターン・カース》の術は、あのロス・メロウ大先生の十八番の呪術なんですし」
「? つまり、ラファディはあのジジイの知識を使ってるのか? なんかさっき、ジジイとかを吸収してたみたいだしな」
「でしょうね! ロス・メロウ先生のお姿は消えても、その知識は、あのなんだかよくわからない液体に宿ってるんですね! 素晴らしいことですね!」
「いや、素晴らしくねえだろ!」

 ようするに、あいつには呪術の攻撃も効かないってことじゃんよ!

「おい、その呪術反射《リターン・カース》って術で跳ね返されない呪術はねえのかよ?」
「確か、二つほど、その術で跳ね返された記録が存在しない呪術があるはずです。それならあるいは……」
「二つ? どんな術だ?」
「一つはツァド――」
「ちょ、それはダメだから! 記録がなくても、それは絶対使っちゃだめええ!」
「じゃあ、もう一つの術、レティスを使うしかないですね――」
「それもダメに決まってんだろ!」

 よりによって、その二つの術しかねえのかよ! あのおかんエクゾディアの超猛毒がうっかりベルガドに効いたら、どのみちすべてが終わるじゃねえかよ!

「じゃあ、いったい僕はどうすれば……って、そうだ!」

 と、リュクサンドールは何やら閃いたようだった。

「そういえば、僕も呪術反射《リターン・カース》の術は使えるんでした。誰も僕に呪術を使ってくれないので、ずっと忘れていましたが。ここはひとつ、向こうから跳ね返されてきた呪術を、僕の呪術反射《リターン・カース》でさらに跳ね返してみてはどうでしょう!」
「どうって……またこっちに術が跳ね返ってくるんじゃないか?」
「だったら、さらに僕の呪術反射《リターン・カース》で跳ね返します!」
「いや、それ無限ループ――」
「やりましょう! ぜひやってみましょう! 新たな発見のためには、何事も実践あるのみです!」

 と、もはや術の実験としか考えてなさそうな男だった。直後、再び始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスをラファディに向かってぶっ放した。

 もちろん、それはやはり呪術反射《リターン・カース》でリュクサンドールのほうに戻ってきたわけだが、

「呪術反射《リターン・カース》!」

 やつも瞬時にそれを跳ね返した。

 そして、予想通り、

「呪術反射《リターン・カース》!」
「呪術反射《リターン・カース》!」
「呪術反射《リターン・カース》!」
「呪術反射《リターン・カース》!」
「呪術反射《リターン・カース》!」

 ってな感じに、暗黒レーザーの押し付け合いが始まった。なんだこれ。テニスのラリーかよ。

「あ、でも、この状況なら、ラファディの足止めにはなってるか……?」

 と、俺は一瞬、この狂った状況をプラスに考えたが、その直後、今度は、

 ドォーンッ!

 という轟音とともに、リュクサンドールとラファディのちょうど中間の場所で大きな爆発が起こった。うわっ! なんだこれ!

「いだだだだだ!」

 再び、ベルガドの悲鳴がこだました。

「ああ、どうやら、術を跳ね返し続けた結果、お互いの術の処理がオーバーフローしちゃったみたいですねー。それでこんな」
「……じゃ、ねえっ!」

 俺は再び呪術オタの体をゴミ魔剣で切り刻まざるを得なかった。またこの危機的状況で何やらかしてくれるんだよ! 亀が死んだらすべて終わりだってのにさあ!
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