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空ろ木な装束
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「ここをモチーフにすればいいのよね」
青園を家まで送った翌日。鬼灯は町田と一緒に2時間程離れた町の公園に来ていた。
「はい、この公園の奥の、あっあそこですね」
町田は公園のさらに奥、茂みのトンネルを指さした。
「ねぇ、本当に行くの?」
「はい」
「汚れたくないんだけど……」
「諦めて下さい、行きますよ」
町田は自分の倍くらいある鬼灯の手を掴み、引き摺るように茂みへ向かった。
「いや! やめて! 汚れちゃう!」
「はーい、行きますよー」
薄暗い茂みを抜けると、朝日に染まって朱色に輝く町並みが視界いっぱいに広がった。
「おー! 凄いですよ鬼灯さん! 絶景です!」
「全く……」
葉っぱや土埃で汚れた白いワンピースをはたく。
こんなならもっと動きやすい服で来れば良かった。というか、別に青園が来ないんだし、ジーパンとかで良かったかなぁ。
「どうですか?」
「ま、これくらい綺麗な風景ならこのままで大丈夫かしらね」
鬼灯はカバンからカメラを取り出すと、風景を写真に撮り始めた。
眼下に広がる町は勿論、茂みの入口や、隅に置いてある大きな石までカメラを向けた。
「そんな所まで撮るんですか?」
「仕事はしっかりやるって言ったでしょ。それがどんな相手でも同じよ。それにね、こんな所だったり、私達にとっては何でも無い砂埃一粒までもお客にとっては大切な思い出の一欠片なの」
「なんだかロマンチックですね」
「作業は地味ったらありゃしないけどね。ま、こんだけ撮れば大丈夫でしょ」
「夕焼けは良いんですか?」
「確かに夕焼けも欲しいんだけどね、まずは全体のざっくりとした構想を知りたかったのよね、夕焼けはまた後で撮りに来るわ。まぁ他にも色々理由はあるけど」
鬼灯は手をはたきながら立ち上がった。
「とりあえず、次の場所行くわよ!」
2人は鬼灯の運転で津雲市最大のホームセンタールピナスにやって来た。
「ここって、ホームセンターですよね? 何か買うんですか?」
「装飾に必要な物資の調達よ。ここにしかない物とか結構あるのよね。とりあえず町田さんはこれ買ってきてくれるかしら?」
町田に発泡スチロールやビニールシートなんかの長さや大きさ、重さまで細かく書かれたメモを渡すと、鬼灯は颯爽と目的の品を買いに店内ではなく、店外に陳列した商品の元へ向かった。
外には珍しい植物や建材なんかも売っていて、今回の目的はそんな中でも特に珍しく、鬼灯が知る限り日本ではここでしか売ってない貴重な花だった。
「おじさん久しぶりね」
「んお、鬼灯の、久しぶりだねぇ。今日は何をお望みだい?」
「この前買ったキョコウランをまた買いたいの」
「あー丁度先日最後の1本が売れちまってねぇ、次入るのはいつになるやら」
あの公園を見た時この花がピッタシだと思ったのに、どうしたものか。
「あら、そうなの、残念だけど分かったわ。また寄らせてもらうわね」
「おう、また来いよ」
車に戻った鬼灯は、町田と合流して買ってもらったポリバケツや発泡スチロールを車の後部座席に押し入れた。
「大きさと長さと、なぜか重さもしっかり分かりましたが、これは一体何に使うんですか?」
「……そりゃ戻ってからのお楽しみよ」
右手の人差し指で町田の鼻に触れ、ウィンクしてごまかした。
「ただ、1番欲しかった花が売ってなかったのよね」
「なんて花ですか?」
「キョコウランって花よ。全く、ついてないわね」
「キョコウランですね、私の友人に花好きな子がいて、今度会いに行く予定あるんで売ってる場所あるか聞いてみましょうか?」
「あら本当? ただ本当に珍しいから見付からなくても気にしないでね」
「はい、ダメ元で聞いてみます」
花の名前をメモしながら町田は答えた。
「そろそろ式場戻りますか?」
「そうねぇ、本当なら戻るんだけど、丁度お昼だしあそこ寄っていきましょうか」
そう言って鬼灯が指差したのは、ホームセンターの横に建つ定食屋だった。
カランコロンと鳴る扉をくぐると、適度な喧騒と、店員の掛け声が辺りを包んだ。
「いらっしゃいませー! 何名様になりますか?」
「2人よ」
「では、こちらの席へどうぞ」
店員に促されて席に着いた。
「ご注文決まりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい」
「ひまちゃん何食べる?」
慣れた手付きでメニューを操作する鬼灯。
「じゃあこれにします」
町田は少し悩んで小エビのサラダを指差した。
「あら、それだけ?」
「はい、朝食べてきたので」
「そう? じゃあ注文完了しちゃうわね」
ボタンを押して、タブレットを充電器へ差し直した。
「そういえばひまちゃんは何で式場で働く事にしたの?」
「青園先輩が居るからですかね」
「……え、それだけ?」
「? えぇ」
日常における常識に疑問を持たれた様な純粋な目でそう言った。
「そんなに好きなら、私とはライバルかもね」
「ライバル?」
「ほら、店員さん来たわよ、料理貰っちゃいなさい」
タイミング良く運ばれてきた料理を店員から受け取って町田さんに渡した。
「ほら、食べちゃいましょ」
「……多くないですか?」
サラダが運ばれてきて少しして、ステーキやカレーピザなど、大人3人分くらいの料理が次々と机に並べられた。
青園を家まで送った翌日。鬼灯は町田と一緒に2時間程離れた町の公園に来ていた。
「はい、この公園の奥の、あっあそこですね」
町田は公園のさらに奥、茂みのトンネルを指さした。
「ねぇ、本当に行くの?」
「はい」
「汚れたくないんだけど……」
「諦めて下さい、行きますよ」
町田は自分の倍くらいある鬼灯の手を掴み、引き摺るように茂みへ向かった。
「いや! やめて! 汚れちゃう!」
「はーい、行きますよー」
薄暗い茂みを抜けると、朝日に染まって朱色に輝く町並みが視界いっぱいに広がった。
「おー! 凄いですよ鬼灯さん! 絶景です!」
「全く……」
葉っぱや土埃で汚れた白いワンピースをはたく。
こんなならもっと動きやすい服で来れば良かった。というか、別に青園が来ないんだし、ジーパンとかで良かったかなぁ。
「どうですか?」
「ま、これくらい綺麗な風景ならこのままで大丈夫かしらね」
鬼灯はカバンからカメラを取り出すと、風景を写真に撮り始めた。
眼下に広がる町は勿論、茂みの入口や、隅に置いてある大きな石までカメラを向けた。
「そんな所まで撮るんですか?」
「仕事はしっかりやるって言ったでしょ。それがどんな相手でも同じよ。それにね、こんな所だったり、私達にとっては何でも無い砂埃一粒までもお客にとっては大切な思い出の一欠片なの」
「なんだかロマンチックですね」
「作業は地味ったらありゃしないけどね。ま、こんだけ撮れば大丈夫でしょ」
「夕焼けは良いんですか?」
「確かに夕焼けも欲しいんだけどね、まずは全体のざっくりとした構想を知りたかったのよね、夕焼けはまた後で撮りに来るわ。まぁ他にも色々理由はあるけど」
鬼灯は手をはたきながら立ち上がった。
「とりあえず、次の場所行くわよ!」
2人は鬼灯の運転で津雲市最大のホームセンタールピナスにやって来た。
「ここって、ホームセンターですよね? 何か買うんですか?」
「装飾に必要な物資の調達よ。ここにしかない物とか結構あるのよね。とりあえず町田さんはこれ買ってきてくれるかしら?」
町田に発泡スチロールやビニールシートなんかの長さや大きさ、重さまで細かく書かれたメモを渡すと、鬼灯は颯爽と目的の品を買いに店内ではなく、店外に陳列した商品の元へ向かった。
外には珍しい植物や建材なんかも売っていて、今回の目的はそんな中でも特に珍しく、鬼灯が知る限り日本ではここでしか売ってない貴重な花だった。
「おじさん久しぶりね」
「んお、鬼灯の、久しぶりだねぇ。今日は何をお望みだい?」
「この前買ったキョコウランをまた買いたいの」
「あー丁度先日最後の1本が売れちまってねぇ、次入るのはいつになるやら」
あの公園を見た時この花がピッタシだと思ったのに、どうしたものか。
「あら、そうなの、残念だけど分かったわ。また寄らせてもらうわね」
「おう、また来いよ」
車に戻った鬼灯は、町田と合流して買ってもらったポリバケツや発泡スチロールを車の後部座席に押し入れた。
「大きさと長さと、なぜか重さもしっかり分かりましたが、これは一体何に使うんですか?」
「……そりゃ戻ってからのお楽しみよ」
右手の人差し指で町田の鼻に触れ、ウィンクしてごまかした。
「ただ、1番欲しかった花が売ってなかったのよね」
「なんて花ですか?」
「キョコウランって花よ。全く、ついてないわね」
「キョコウランですね、私の友人に花好きな子がいて、今度会いに行く予定あるんで売ってる場所あるか聞いてみましょうか?」
「あら本当? ただ本当に珍しいから見付からなくても気にしないでね」
「はい、ダメ元で聞いてみます」
花の名前をメモしながら町田は答えた。
「そろそろ式場戻りますか?」
「そうねぇ、本当なら戻るんだけど、丁度お昼だしあそこ寄っていきましょうか」
そう言って鬼灯が指差したのは、ホームセンターの横に建つ定食屋だった。
カランコロンと鳴る扉をくぐると、適度な喧騒と、店員の掛け声が辺りを包んだ。
「いらっしゃいませー! 何名様になりますか?」
「2人よ」
「では、こちらの席へどうぞ」
店員に促されて席に着いた。
「ご注文決まりましたら、そちらのボタンでお呼び下さい」
「ひまちゃん何食べる?」
慣れた手付きでメニューを操作する鬼灯。
「じゃあこれにします」
町田は少し悩んで小エビのサラダを指差した。
「あら、それだけ?」
「はい、朝食べてきたので」
「そう? じゃあ注文完了しちゃうわね」
ボタンを押して、タブレットを充電器へ差し直した。
「そういえばひまちゃんは何で式場で働く事にしたの?」
「青園先輩が居るからですかね」
「……え、それだけ?」
「? えぇ」
日常における常識に疑問を持たれた様な純粋な目でそう言った。
「そんなに好きなら、私とはライバルかもね」
「ライバル?」
「ほら、店員さん来たわよ、料理貰っちゃいなさい」
タイミング良く運ばれてきた料理を店員から受け取って町田さんに渡した。
「ほら、食べちゃいましょ」
「……多くないですか?」
サラダが運ばれてきて少しして、ステーキやカレーピザなど、大人3人分くらいの料理が次々と机に並べられた。
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