転生済み最上級魔導士はギルドの事務職にジョブチェンジして平穏な日々を送りたい!

紫波すい

文字の大きさ
33 / 89
第2章 月夜を仰ぐ「碧水」の本音

33.水さえ飲み干す炎の中で

しおりを挟む

「はっ……はっ……はっ……」

 魔力充填。

 何波目を迎撃したのか、わからない。ただ、見渡す限りに大量の魔石が遺された地面は、碧色に染まっていた。

 わかったことが、2つある。

 1つ目。「大禍」が発生させた雲。激しく叩きつけるように大粒の雨を降らせるもの。

 この雨が、魔物を発生させることはない。だが、発生した魔物を俊敏にするなどの補助効果は持っている。

 だから、「大禍」の核が魔物をばら撒きうる全範囲を覆う、ドーム型の結界を展開した。さほどの強度は持たせていないが、雨を防ぐ程度ならば十分だろう。

 2つ目。「大禍」が断続的に発生させる、大地を灰に染める破裂は……同威力の魔力塊を投じれば、防ぐことができる。

 透魚が、霧鮫が、水属性のあらゆる魔物が、何度も何度も襲い来る。

 だけど、師匠せんせい。あなたが教えてくれたから……俺は、全てを絶やし、背後にあるものを護り続けることができる。

 『剣』。紅の軌跡を描いて滑空し、主として透魚を殲滅。

 『波』。振り抜く高さにいる魔物を一掃。

 『縮』。『波』を逃れた霧鮫等と、純なる水の炸裂を抑えるため、一度に10連程の弾丸を創造し、撃ち続ける。

 屠って、屠って、屠って。
 ……現れたか。

 魔物の王たる種……竜だ。

 「碧竜」。

 4本足の寸胴な体格で、他の竜に見られる翼はない。彼らの世界である水中においては俊敏な動きが可能だが、陸上での移動には向かない。しかし、全身を覆った碧く煌めく鱗により、防御力が極めて高い。

 更に特徴的なのは、長い頸部が3本あり、顔も3つ持っていると言うこと。

 頸部は常時、水の渦を纏っている。触れれば人間の皮膚など瞬時にずたずたになるほどの水流であり、その魔力をすぐさま、水属性の光線に変化させることができる。

 竜は特別な魔物だ。最も生物に近い種と呼ばれ、長寿であり聡明である。

 しかし「大禍」によって生み出されたそれには、一級さえも脅かすほどの、本来の知性は備わっていないだろう。

 1体ならば、冷静に戦術を詰められる。だが、複数体を同時に相手取るとするなら……

 『結』。

 左手を真横に伸ばす、その動きで。雨を防いでいた結界、俺の後方を護る部分の強化を行う。

 そしてここより魔力充填を継続。意識して充填のスイッチを押す必要性を消去。全方位に魔糸を走らせ続ける、全身強化。

 地面を蹴り、初めて前線を上げる。透魚たちの最期の水飛沫を躱し、水の炸裂に、圧縮した火炎球を指の僅かな動きで飛ばしながら、この戦場で最大の難敵へと突進する。

 3つの顔が、同時に咆哮する。呼応するように他の個体も、この窮屈な結界を破らんとばかりに叫び上げる。

 短い前足がどんと大地を踏み鳴らす、その動作により、弧を描いた水の刃が複数発生。俺は高く跳躍してそれらを避け、渦を光線化させようとする中央の顔に向かって、

「あぁアッ!!」

 右腕を叩き付けるように上から振り抜く。

 右腕を取り巻いていた紅の魔糸が、「碧竜」の首を護る水渦以上の、猛烈な回転数を誇る渦となって「碧竜」の顔面を、鱗に覆われた身体を、轟音を立てながら削り取っていく。

 複数体を同時に相手取るとするなら……連発することから逆算して「出して構わない」最大火力で以て、短期決着を狙うのみ。

 炎渦をぶつけた風圧を利用し、俺の身体は後方へと飛ぶ。

 そのときに気づいた。
 俺の右腕が、燃えている。

 身体は熱いが、特段そこから強い熱を感じるわけではない。レインに貰った服の袖が焼け焦げていくということもない。ただ……初めての現象だ。

 着地の衝撃に怯んだその刹那、その地点。足元がかっと紅く光り、生まれた小さな火がすぐさま火炎となって広がる。

 何かが狂い始めた予兆なのか。
 それでも、

「はっ……はっ……、ッ!」

 止まるな。次だ、走れ。

 『剣』を展開し、『波』で更に減らし、『縮』を撃ち、竜を潰す。「大禍」をここで喰い止める、そのために、走れ。

 碧竜の水刃が来る、躱して、


 『必要ない』


 躱さずに、走り続ける。
 間近に迫った水刃が、にわかに勢いを殺され、ふわっと蒸発する。


 『貴方は炎なのだから』


 甘美な、女性の声。

 炎のように艶やかなのに、
 風のように涼やかな。
 水のように透き通り、
 大地のように豊かな。

 ……足を、止める。

 気づけば、どこもかしこもが燃えていた。
 忙しなく喘ぐような、自分自身の呼吸の音。

 よろめいた身体を大地に縫い付けるために、右足でどんと大地を踏み締める。

 たったそれだけで、良かった。

 火炎が、代わりに怒ってくれる、走ってくれる。紅蓮の荒波となって、無差別的に脅威を排除してくれる。

 竜の影がどろりと溶けて、何の影も、なくなった。

 「大禍」の核と2人きりだ。
 虚な目で、「視認できるようになった」それを、眺める。

 ……ここは、紅い。


 『貴方は炎。わたくしの、愛しい炎』


 雷のような激情。
 氷のような寂静。
 眠る前の虚のように、懐かしい……


『くろ、待って、』

「この、大馬鹿者がッ!!」

 誰かに、背を強く掴まれた気がした。

 そして、ばっしゃあああああ、と。

 突然、バケツを……いや、浴槽をひっくり返したような大量の水が降ってきて、俺は頭からそれを被った。

 俺は、間抜けにまばたきを繰り返す。見えないはずのものが、元通り見えなくなった。

 その代わりに、いなかったはずの人物が……大音声の主が、俺の前に立っていた。

「『大禍』と単独で渡り合う術は教えたが、単独で渡り合えと教えたわけではない! 生き残りたいのではなかったのか! 貴様は貴様のまま在り続けたいと、阿呆の一つ覚えのようにそう望んでいたのではないのか!」

「……師匠せんせい……」

 踊り続ける紅に、銀髪を染めて。眉を吊り上げ、三白眼をかっと見開いた鬼の形相で。

「どうして……来て、くれたんですか……」

 サリヤ・スティンゲール。
 カルカの『英雄』が、立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...