転生済み最上級魔導士はギルドの事務職にジョブチェンジして平穏な日々を送りたい!

紫波すい

文字の大きさ
58 / 89
第3章 明日を願う「白氷」の絶唱

58.陽の昇る方から友愛を込めて

しおりを挟む

【ティア】



「親愛なるティアちゃんへ。
 生まれて初めて、お友達にお手紙を書きます。

 病気だった頃、わたしが文字を書くのは、お母さまやお父さま、お医者さまとお話するためだった。だから、すぐ反応が返ってきたの。遠くにいるティアちゃんが、どんな顔で読んでくれて、どんなことを思うのかなって想像しながら書いたのは、初めて。どきどき。

 便箋と封筒は、お母さまと雑貨屋さんに行って見つけた、雪の模様の描かれた可愛らしいものを選びました。季節外れだけど、わたしらしいかなって思ったから。

 ええと、何を書こう。
 そうだ。温泉、楽しかったね。

 わたし、自分があんなに暑さや熱いものが苦手だなんて知らなかった。もしかすると、紗雪とひとつになったからなのかな?

 フィーユ様とティアちゃんとわたし、3人で大浴場に行ったとき、温度の高いお湯には浸かれなくて、ちょっと寂しかった。でも、温度の低いお湯やお水のお風呂は、とっても気持ちがよかった。いくつもお風呂があるのって良いね。

 フィーユ様のお胸、素敵だった。とっても大きくて、少しだけ触らせてもらったら、柔らかいのに張りがあって。

 大きすぎるのも大変なのよって、フィーユ様は恥ずかしそうに笑っていたけれど……やっぱり、羨ましいよね。わたしのお胸も、いつかはもうちょっと膨らむかな。今はぺったんこで、さすった手のひらがすっと落ちるだけだけれど。

 洗い場で、背中の洗いっこができて嬉しかった。ティアちゃんの、ぴょこっとしたお耳とおんなじ色をした、もふっとした尻尾、可愛かったな。フィーユ様も同意してくれたけど、普段は外に出してないのがもったいないと思う。

 お風呂から上がったあとの牛乳もとっても美味しかった。わたしが飲み終わるまでの間、たくさんみんなのこと、カルカのこと、聞かせてくれてありがとう。

 クロ様もレイン様も、良い人なんだって伝わったよ。私のお勉強がもう少し進んだら、お父さまとお母さまも一緒にカルカへ訪ねたい。生まれて初めてのお友達はティアちゃんがよかったように、生まれて初めての旅行先は、あなたの大好きなカルカがいいの。

 お勉強と言えば……レイン様が言っていた通り、マーマネラ先生はとっても優しいの。

 まだ声でお話するのが苦手だって言ったら、慣れるまでは筆談でも構わないって。上手くできたら凄く褒めてくれるし、わたしのお家のキッチンで焼いた、可愛くて美味しい焼き菓子をくれる。上手くできなかったら、水色の瞳を優しく細めて、どうすればもっと上手くできるかしらねって、一緒に考えてくれるの。

 生徒がわたし1人だから、誰かと比べられることもない。でもね、わたしには目標があるの。マーマネラ先生と同じ『白氷』の称号を得る。どんな傷でも癒せるようなすごい魔導士になって、カルカギルドに入る。

 わたしと同じように、ティアちゃん達も前へ進んでいく。その背中を、わたしを応援してくれる人達と一緒に追いかけるから……追いつくことが叶ったときには、わたしも、ティアちゃんの仲間に加えてもらえたら嬉しい。

 それまでに、わたしの故郷のことも、たくさん知っておかなきゃ。たくさんの人が暮らしているから、みんなが良い人ってわけじゃないと思う。でも……ティアちゃん達のお見送りのときに駆けつけた人達は、みんな朗らかに笑っていて。大勢の人が周りにいるのは初めてで、とても緊張していたのに、何だか少し胸が温かかったの。

 あのとき、わたし、街の人達とお揃いの朱色のローブを着ていたでしょ? 病気が治ったお祝いにって、町長さんがくれたんだ。ティアちゃん達にもプレゼントしたって言ってたから、みんなお揃いだね。

 天馬の馬車が走り出す前に、お日様の下で打ち上げられた花火……夜に見るものより色褪せて見えるらしいけれど、わたしはとても綺麗だと思った。クロ様がお返事として咲かせた『紅炎』の花も、とても綺麗で、とてもまぶしかった。

 やっぱり、クロ様には負けられない。

 今回のお手紙はここまで。お仕事で忙しいと思うけれど、お返事、楽しみにしていてもいい?

 わたしはもう、明日を恐れない。
 未来のために、今日を……お父さまとお母さまの笑顔がたくさん見られるようになった、今を。精一杯に、生きるから。


 いつもあなたと、あなたの愛する人々の平穏を願う。
 メメリカ・アーレンリーフより」





 大家さんに渡してもらったメメリカちゃんからのお手紙を読んだら……ううっ、お別れのときの寂しさと、お手紙をくれた嬉しさの両方で、また涙が溢れそうに!

 駄目、駄目ですっ! 涙で大切なお手紙を濡らすわけにはいきません!

 あたしは大急ぎでお手紙を元通りに折り畳んで、破かないよう丁寧に封を切った封筒の中に、皺がつかないよう丁寧に戻しました。何とかぽろっと最初の涙が落ちるのに間に合って……それからちょっとの間だけ、泣いちゃいました。

 あたし、本当に泣き虫だなあ……。
 泣き虫のままじゃ、駄目なのに……。

 涙を拭いたあとで、ポケットにしまっていたライセンスを取り出してみます。

 あまり他の方には見せたくない、ぎこちない表情の顔写真の下。金色の文字で書かれた職級は「地魔導士・五級」になりました。

 昇級のお知らせをいただいたとき、あたしは椅子から転げ落ちそうになるほどびっくりしました。オウゼでのお仕事ぶりが評価されたそうなのですが……全然活躍していないのにと恐縮してばかりです。

 「紅炎魔導士・零級」という、職級の天辺であるクロさんの職級は、当然変わりませんでした。でも、あたしより活躍されたフィーユちゃんもレインさんも、昇級していないそうで……ほ、本当にどうしてなんでしょうか!?

 でも、オウゼでお仕事をした4人の中で、あたしは一番下の職級です。つまり、あたしが昇級すれば、挑戦できるお仕事の幅が広くなるので……皆さんに近づけている気はあまりしないのですが、きっと、おめでたいこと……ですよね?

 本当に本当に恐れ多いのですが、今日はフィーユちゃんが主催者さんとなって「ティアちゃん昇級おめでとうパーティー」を開催してくれるそうなのです。これから会場としてお借りする、レインさんのお部屋へと向かいます。

 あたしは、故郷から持ってきた私服に着替えました。ササナという植物で染めた深緑色のショートパンツには、その……フィーユちゃんとメメリカちゃんのお2人が、声を揃えて「出した方が良い!」と言ってくれた、尻尾のための穴があいています。

 髪が跳ねちゃっていないか、お洋服に変なところがないか、鏡の前で念入りに確認して。

 オウゼでのお仕事の報酬としてたくさんいただいたお金は、夢のためにぜんぶ貯金したかったのですが、お出かけ用の鞄さんは新調することにしました。

 その鞄さんに、お財布とハンカチと絆創膏と、それから……お母さんが調合してくれた茶葉が入っているかも、念入りに確認して。

 手にはちゃんと鍵があります、焦らなくても大丈夫。窓からたっぷり入り込んでくる日差しの暖かさを感じながら、ゆっくりと玄関へと向かいました。

 振り返ると戸棚の上で、お母さんが作ってくれた、うさぎのぬいぐるみさん……リマさんが円らな瞳であたしを見つめています。

 いつものように、ぺこりと一礼。

 メメリカちゃんがお手紙をくれて、これから大好きな皆さんに会える。そう思うと、表情がふにゃっと緩んじゃって。

 遠くにいる、お父さんとお母さんにも届きますように。あたしはいつもより少しだけ大きな声で、

「いってきます!」










 ……でも、その日。

 どれだけ待っても、クロさんが姿を見せることはありませんでした。

 そして、その異変。『紅炎魔導士・零級』の失踪が……フィーユちゃんとレインさん、そしてあたしを、次の依頼へと導くことになるのです。

 依頼主さんの、お名前は……




【第3章 明日を願う『白氷』の絶唱・完】

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...