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第4章 悠久を渡る「黒虚」の暇つぶし
65.ていじする
しおりを挟む【ティルダー領カルカの名士、
ドレスリート家の令嬢】
私は鞄から、肌身離さず持ち歩いている依頼ノートと、近頃愛用しているペンを取り出し、卓上に広げた。はらりと流れ落ちた右の横髪を耳に掛けて、メモの準備を整える。
フジカワ、ケイ。
10年前の約束の日、クロは確かに「ケイさん」という名前を口にした。私は、それが幼馴染の転生前の名前だと、漠然と理解していた。
だけど。幼馴染を失いたくないあまりに、私は酷いことを言って転生を拒絶してしまった。あの日以降、私を不安にさせないためだったのか、クロがケイさんについて話してくれたことは一度もない。勿論、ケイさんと会ったことも。
クロはケイさんと、ずっと心の同居生活を続けてきたのね。たった一人の幼馴染なのに、それを、私は……
言いたいことも聞きたいことも多すぎて、脳がパンクしてしまいそう。でも駄目、今はとにかくクロを取り戻すこと……ゲームに勝つことだけに集中するの。
『呈示されたルールは、6つだよ』
ケイさんは、初めにそう宣言した。
やや高めのテノールを一層硬くして、ゲームの首謀者から聞かされたルール内容を告げていく。私の筆記速度も配慮して、全員が一言も聞き漏らさないよう、ゆっくりと……
『ルール1。
このゲームはほぼ「かくれんぼ」である。
プレイヤーは「影」と「光」の2陣営に分かれる。影はあらかじめ、カルカを居住地とする一存在に変装している。影の変装を見破ることができれば光の勝ち。見破ることができないまま「終了時刻」を迎えれば影の勝ちとなる。
「影」役はラウラが、「光」役はフジカワケイ、及び彼が選んだプレイヤーが務めることとする』
終了時刻、って……制限時間があるの!?
悍ましさに指が震えて、筆致の乱れとして現れる。ううん、尚更躊躇っている場合じゃない! 問題なのは、その終了時刻がいつなのか。
『ルール2。
ゲームの開始時刻は、フジカワケイがリャニール山の上空に転送された時点と同時である。
終了時刻は固定ではない。影が、事前に設定しておいた「標的」を殺害した時点を、ゲームの終了時刻とする。なお、標的はカルカを居住地とする「個人」である』
「えええぇっ!?
はわっ、あわわ……すっ、すみませんっ!」
ティアちゃんが驚愕の声を上げて、慌てて両手で自分の口を塞いだ。
気持ちは物凄くわかるわ……何が「ほぼかくれんぼ」よ!
標的を殺害? 誰かの命が懸かっていて、こうしている間にもその誰かに危機が迫っているかも知れないってことじゃない!
落ち着いて。落ち着くのよ、フィーユ。
密かに深呼吸をして、次を待つ。
『ルール3。
このゲームについて知る人物は5人以内でなければならない。光陣営がこれを破った場合、たとえその後に影を特定したとしても影の勝利と見做す』
5人以内。
影陣営のラウラ。
光陣営の、私とティアちゃんとレインくん、それにケイさんを加えれば4人になる。
合計は5人。
もうこれ以上は、誰にも事情を伝えることができないのね。
『ルール4。
影を然るべき方法で「指名」することによって、光陣営が影を見破ったと見做す。そのタイミングは、ゲーム開始後であればいつでも構わないが、チャンスは一度きりである。
指名を行うには、光陣営プレイヤーの一人或いは複数人が、影と思わしき存在を人差し指で示しながら「ゲームの答え、『固有名詞』の中に、みーつけた」と宣言すること。
それ以外のあらゆる行為は、指名と見做されない。なお「固有名詞」は必ずしも正式名称でなくとも構わない』
ええと……たとえば、誰かが疑わしい人物に「あなたは影ですよね?」と尋ねたとしても、それは指名にはならないということよね。ルール3があるから、迂闊な発言は控える必要があるけれど。
「固有名詞」については……勿論ありえないことだけれど、私、フィーユ・ドレスリートが影だった場合なら、指名のときに呼ぶのは「フィーユ」等で構わないってことかしら。
『ルール5。
光が勝利した場合、ラウラはクロニアの身柄を、指名を行ったプレイヤーの元へただちに返還する。影が勝利した場合、クロニアの所有権はラウラが掌握する。
なお、ゲーム終了まで、ラウラがクロニアに直接触れることを禁ずる。ラウラがこれを破った場合、光陣営の勝利と見做す』
所有権。今度は頭に血が昇りそう。
私の向かいの席に腰掛けて、頬杖をつきながらケイさんの声に耳を傾けている、どこかの誰かさんにも強く主張したいことけれど……私の幼馴染は「道具」じゃないんだってば!
ふう……とにかく、次で最後ね。
『ルール6。
影は任意の間隔で、光陣営にヒントを提供する。ヒントは、フジカワケイの思考内に、虚属性魔法によって直接伝達する。
影が、ヒントの中に故意に偽りを混ぜること、及び無関係な情報をヒントとすることを禁ずる。禁止事項に対する処置はルール5で述べた通りとする』
レインくんが、林檎ジュースをまた一口飲んでから、
「なるほどね、わかりました。
最後の6つ目のヒントですが、もう幾つか提供が行われましたか?」
『う、うん。3つまで……』
「へえ、なかなかに気が早いな。教えてください、なるべく提供されたそのままの形で。フィーユちゃん、引き続き記録を頼むよ」
「当然!」
私は新しいページの最上段に「ヒント」と記す。
ケイさんは、レインくんが小皿に薄く張った林檎ジュースをちびちびと飲んでから、今度はヒントを示していった。
引き続きゆっくりと。だけどレインくんのリクエスト通り、提供されたときの抑揚をできる限り再現しながら。
『ヒント、その1。
ボクは影。
陽光から逃げるように伸びる、影。
だから、炎のフリをすることは、ありえない』
『ヒント、その2。
真実はいつも傍らにあるものだ。
ボクは人間を辞める前から性悪だった、多分きっと恐らく、自信はないけど。
それでも、世界の裏側に答えを置くだなんて、アンフェアな真似はしない』
『ヒント、その3。
ルールもヒントも、よ~く確認しなよ?
必要がない文言は存在しない。必ず、作り手の意図が込められているんだから』
文字として起こしたヒントを、改めて見る。
……随分と、軽薄な口調だわ。
人命を懸けたゲームを仕掛けてきたとは、とても思えない。命の重みを知らない天才児? あるいは、知っていたけど忘れてしまった老獪かしら……
「ありがとうございます。もし新しいヒントが届いたら、最優先で教えてください。オレ達がどんなに重要な話をしていたとしても、流れをぶった切って構いませんから」
レインくんはテーブルに片肘をつくのをやめて、私とティアちゃんに微笑みかけた。
「さて……栄養補給しながら意見を交わそうか。食い過ぎて頭の回転を鈍らせるのは悪手だが、腹を空っぽのまま放置しておくのもまた悪手だ」
「レインさん……で、でも、そのぉ、制限時間があるんですよね? あたし達がご飯を食べている途中に、もし、標的にされちゃった方が、攻撃されちゃったら、」
「それはない」
あまりにも鋭い断定。ティアちゃんはぴゃっと悲鳴を漏らしながら、耳をぴんと直立させて身を縮めた。
私は思わず眉を顰めた。流石に異議を唱えようと唇を開く前に、レインくんは指輪をはめた右手を私達に開いて見せて、
「あ……悪い、刺々しい言い方しちまって。
だが、どうか信じて欲しい。『黒虚』はまだ、標的の殺害を行わない」
「……明確な根拠があるみたいね。わかったわ、少しお行儀が悪いけれど、話し合いのついでにお食事をいただきましょう?」
この言い方なら、ティアちゃんも納得してくれるはず。
うん、肩は震えたままだけれど、表情はほんの少しだけ緩んだみたい。両手を胸の前できゅっと握り込んで、
「れ、レインさん、フィーユちゃん、それにケイちゃんさん、大事なお時間を戴いてしまってすみません!
あたし、食べます……これからクロさんをお助けするのに、元気が出なかったら駄目ですもんねっ!?」
こうして、フジカワケイからの依頼……『クロニア・アルテドットの救出』を引き受けた私達は、冷め切ったお食事をいただきはじめた。
みんなに見えるように開いた、私の依頼ノートを睨みながら思う。
クロの、馬鹿。
助け出したら報酬として、「ケイさんとのこと沢山教えます券」を……ううん、それだけじゃ済まさない。「全身コーディネートされます券」も併せて戴くわ。
しかも、私とティアちゃんの2人がかりで! 元々する気はなかったけれど、遠慮も容赦もしてあげない!
そして改めて、ティアちゃんの昇級パーティーを開催してやるんだから……!
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