78 / 89
第4章 悠久を渡る「黒虚」の暇つぶし
78.未だ全能に至らず
しおりを挟む「フィーユちゃんとティアちゃんにも、アンタの帰還を伝えねえとな……
通信機の接続状態はどうなってます?」
ベルの言葉にはっとした。
そうだ、2人にも早く伝えなければ!
振り返り、卓上に置かれた通信機を確認した。魔石の灯りが点っていない……指名直後に起こった異変のせいもあって、ベルは通信を切れていない。フィーユかティアが終了させたんだろうか?
「切れているみたいだ。連絡を待っているかも知れないから、もう一度通信を試みる」
間近で見ていたから扱い方はわかる。ボタンを押して、灯る色の変化を待つだけ。ひとつの機能しか持たない分、異世界で使用していたスマートフォンよりも簡単だ!
「ああ、それで……いや待った!!」
「っ!? す、すまない、もうボタンを押してしまった……! ぐっ、身体が鈍っているせいで反応速度も遅く……あれ?」
赤く灯る筈なのに、点かない?
「エネルギー切れ、だろうか? 確かにボタンを押し込んだ手応えがあったのに、呼出さえ始まらないなんて……」
ベルは片手で額を押さえて深く項垂れ、長く息を吐いた。
「……壊れたんですよ」
「え、……ええっ!? ど、どうして……!」
「どうして? アンタが触ったからですよ。今のアンタは超高濃度の純粋魔力結晶みたいなもんです、内側に抑え込めてることが奇跡だと思える程のね。安価な魔導具に下手に接触すれば、どんなに外側が頑丈だろうと、回路の方が焼き切れちまう……そう、言おうとしたんですけど」
弁償、という単語が脳内を埋め尽くした。
「……ベル、さん。
教えて欲しいのですが、その……これは一体、幾らくらいする代物、なのですか……」
「安価だって言ったじゃないですか。アンタが粉砕した試験用の魔導人形よりはずっと安い、オウゼでの依頼報酬に余裕で収まる金額です。弁償する為に上級任務を必死になってこなす必要はありません」
試験用の魔導人形? 入会試験のときの、かな。
だがあれは、逆に破壊しなければならないものだったような?
……とにかく。
「壊してしまったのは申し訳ないけれど、安価なら、きっちり弁償できそうだ。それに……」
俺は玄関へと向かって一歩踏み出した、
つもりだった。
それが、どうしてか周囲の景色が一変した。目の前には扉が立ち塞がっている。慌てて、いつもの感覚で周囲の魔糸を読もうとした、のだが……
「……~~っ、何だ、これは……っ!」
現時点での処理能力を、遥かに上回る量の情報の奔流。頭を押さえて後方へよろめく。
どうやら……どうやら、自分の周辺だけの魔糸を視る筈が、カルカの街を丸ごと範囲としてしまったようだ。
範囲を絞れ、小さく、小さく……!
「アンタ、何やって……突然また瞬間移動したと思ったら、扉の前でフラフラして……ん?」
背後からベルの声。
壁に手をつきながら、安堵の息を吐いた。ここはベルの部屋であり、その玄関扉の前だ。
そしてベルも、来客の気配に気づいたらしい。
「迎えに行っていいですよ、オレはここにいるんで。鍵は開けたままにしておきますから」
「……ありがとう、行ってくる」
情報に溺れた痛みの余韻を、深呼吸することで取り除き、俺は自らの足で外へ出た。
フィーユ、ティア、レイン……3人が、互いを信じる為にそれぞれの魔法を使った庭へ。
魔糸の痕跡は残っていない。灯りにと、炎の球を傍らにひとつ浮かべて、もう一度深呼吸。夏の夜の空気を身体に満たす。
すぐに、2人の少女が駆け込んできた。
1人はピンクブロンドを靡かせ、1人は兎の耳をピンと立てて。
「クロっ!」「クロさぁん……っ!」
「フィーユ、ティア……わ、」
疾風のような速度を緩めることなく、俺の胸に飛び込んできた幼馴染。
前方へ転倒しそうになりながらも何とかブレーキに成功し、あわあわしながら、俺の背中に大地のように優しく寄り添ったティア。
挟まれた。退路がない。
いい。受け止めるつもりだったから。
ただ……小さな2つの身体を、通信機を破壊してしまった魔力で傷つけてしまわないように、制さなくては。
「馬鹿ぁっ! クロのばか、ばか、ばか……ほんとに、ほんとに、心配したんだから……!
何も酷いこと、されてないわよね!? されてたなら、私、『黒虚』を許さないから! ううん……されてなくても、絶対絶対、許してなんかやらないんだから……!」
「フィーユ……『黒虚』は俺の手で魔法を封じて、少なくとも魔導士としては無害にした。だから、もう大丈夫だ。
ごめん。『紅炎』なのに、囚われてしまって」
「『紅炎』とか『零級』とか関係ないわよ! きみだから、駄目なの……きみは世界で1人だけの、私の、幼馴染なんだから……っ、
うぅ~っ、もう、ばかあ~っ!」
「……ありがとう」
泣かせてしまった……。
「う、ううぅ、うぅっ、ぐすっ……クロさん、良かったあ……! あたしっ、仲間の皆さんのこと、信じてたのに……どんなに信じても、ほんのちょっとだけ、も、もう、お会いできないかもって……!
あたし達、クロさんが、ピンチなときには、絶対にお助けしますから……何度でも、何度でも、お助けしますからぁ……だ、だから……」
「ティア、」
「もう、ひとりで、どこにも……ずっと、ずっと、あたしの、傍に……う、うぅ、うわああぁぁあああん!」
「ありがとう、『黒虚』の仕掛けた謎に立ち向かってくれて。本当に本当に、すまない……」
……泣かせて、しまった……。
2人とも微かに震えている。仲間を失わずに済んだことに安堵しながら、「次」があるかも知れないと怯えている、のかな。
俺のことを……これまでのクロニア・アルテドットのことを大切に思ってくれているのが伝わってくる、痛い程に。
だから。涙が止まったら……
「すみませ~ん、この近くに住んでる者なんですけど~」
びくりとして声の主を確認すると、ベルが傍らに立っていた。明らかに、心の底からは笑っていない笑顔を浮かべて。
「ははは、野暮な真似はしないでおこうと思ってたんだけどな~。まだ夜明け前なんで、とりあえずうちに入ってもらっていいですか?」
俺達が俺達の日常を送っているように、カルカに住む一人一人に、各々の生活がある。「誰かの誕生日は誰かの命日」なんて言うつもりはないが、近隣住民の安眠を妨げてはいけない。
俺達は3人とも、その意見に賛同した。
「……ねえ、クロ? きみの身体からする、甘い香り……『黒虚』がきみの意識を阻害する為に使った、薬の香りなのよね?」
ベルの部屋の扉を閉め、内側から鍵をかけた俺に、傍らに残っていたフィーユが囁いた。
「うん、……あっ、匂いがきついだろうか? 囚われていた結界内にずっと漂っていた香りだから、嗅覚が慣れてしまったようで。会話に支障があるようなら着替えを……ただ、服が……」
「着替える必要はないわ、でも」
目元を赤くしたまま、ぐいと顔を近づけて、
「本当に、何も酷いこと、されなかったの?」
え、ええと……。
俺は視線を俯け、右へと流す。
何もされなかったわけではない。「召使」達の「お世話」は、間違いなく不快ではあった。
けれど酷いことだったかと聞かれると、わからなくなる。『黒虚』が、京や仲間達に強いたことの方が、よほど酷いことだと思う。
それに。気が強く幼馴染思いな彼女に、もしも「酷いことをされた」と答えたら……世界の裏側であろうとも、『黒虚』を探しに行くのではないだろうか……?
「……、……、されて、いない……!」
俺は逃げるように、廊下を先に進んだ。
全知全能には、程遠い。幼馴染が俺の言葉をどう受け止めてくれたかどうかさえ、わからないのだから。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~
仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。 そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。
しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。
ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。
武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」 登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。
これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる