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忘れ物お届け係 腹を立てる
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もうあのお気に入りのペンを覚えてしまった。
どうやらあの高級ブランドのモンブランの万年筆の限定品で、その黒塗りの本体のキャップの先には、白地のロゴにサファイアが埋め込まれている。ドイツの往年の女優マレーネ・ディートリヒをモチーフにした物らしい。
まあどう考えても、お高そうな代物。
「ですから、大切に扱ってくださいね。値段ではなく、とても蓮司様にとって思い出の品なんです」
ーーいや、わかっているよ。だったら、持って行けって言いたい!! 忘れるな!!!!
家でのんびりしていたら、真田さんが連絡をよこす。
「はぁ? あのティッシュを持ってこいってどういうことですか?」
耳に入ってきた単語を確認する。なにか絶対に聞き間違えだ。
「蓮司様が必要とされたら、あなたの仕事はそれを持っていくことです」
「いやいや、だって、どう考えたって、ポケットティッシュの一つくらい、あの会社にならあるでしょ? すぐそばのコンビニだって売ってますよ」
「いえ、蓮司様がこのティッシュを持ってこいとの仰せですから、美代様が持っていってください。15分後にお待ちしています」
ぷっと電話が切れる音がする。
その電話が切れた音にむかっとさせられた。なにか腑に落ちない。忘れ物がティッシュとは、おかしい。お金持ちだからって、こんな忘れ物が許されるのだろうか?
学校でも宿題を忘れると先生に怒られる。それが、総裁だったらいいのだろうか?
なにかギャフンと言わせたくなってきた。
ただ問題はどうやって一般庶民が、なんでも持っている御曹司をギャフンと言わせるんだ……。
もう一度真田に電話をかける。やっぱりワンコールで出る。なんかむかつく。このインテリ男、いつトイレに行くんだろう。
「はい、真田です」
わかっている! と言いたいが言わない。
「先ほどの用件ですか、ポケットティッシュを持って行きます。でも、忘れ物お届け係として、お願いしたいことがあるのですが……」
「……忘れ物お届け係としてですか? 私が対応出来る範囲でしたら、喜んでサポートさせていただきます」
範囲っという言葉には、ちょっと納得ができないが、まあそれはとにかく、用件を伝える。
「わかりました。それでしたら、たぶん大丈夫です」
えええっ! 嬉しい! ダメ元で話したお願いが通って、かなりテンションが上がった。
どうやらお得意様のお嬢様から襲われる一件から、蓮司会長の専任の女よけ地味女配達員というわけのわからない称号をいただいた。それから、ほとんど、顔パスで秘書のところを通ることができた。また、私のこの女っ気のない容貌、髪は肩上、しかもまったく化粧なしっというのが秘書のお姉さま方にはひどく気に入られ、あら、またねーーという感じで愛想を振りまかれる。いままで、美人さんたちには虫けら扱いされてきたので、変な称号をもらってしまったが、ちょっと嬉しい。
頭をさげながら、秘書の前を通り過ぎる。社内ではこの時代にネットだけのやりとりは危ないと思った会長が、その徹底した企業秘密を保守しているために、この配達員を専門に雇っていると勘違いされ、蓮司会長のセキュリティーに対する考えに皆感心しているらしいと誰かから聞いた。
言えないよな、お気に入りのペンがないと、会議に出れないだなんて……。いや、でも今回のティッシュって……もう嫌がらせなのか、なんなのか、わからなくなってきた。そういや、この前アラブの王様が日本にやってきたとき、なんだかすっごい物いっぱい持参したな。はっきり言って、この会長もそんな気がしてきた。
緊張しながら、その重厚なドアを叩く。
「入れ……」
威圧感のある低い声が返ってきた。いつもながら、この声には緊張させられる。だが、やるしかない。
「失礼します……」
と言って部屋の中に入る。会長様は、何か机の前の大きな革張りの椅子に座って書類に目を通していた。こちらを見ていない。
だいたい、蓮司会長と話すことばはいつも一言か二言。
「会長。お届けものです」
「あ、わかった。ここに置け」
「はい、では失礼いたします」
どんっと音がする。
「………」
蓮司は目の間に置かれたポケットティッシュが山ほど入っている大きいダンボール箱を唖然と見ている。お気に入りの『マルエール 鼻に優しい 保湿抜群 ポケットティッシュ』が山盛り入れてある。
「お、おい。俺はこんなに頼んでいないぞ」
「いえ、会長。会長様がティッシュごときで、あたふたされては困ります。ですから、今回は忘れ物お届け係としてダンボール箱ごとお持ちしました。では、失礼します。あ、お忘れ物にはどうぞお気をつけください」
嫌味っぽく深くお辞儀をして退室する。
ーーフゥー、ワッハッハッ!! これで、やつはしばらくポケットテッシュを忘れられない。ポケットティッシュ地獄へ落ちろ!!と心の中で叫ぶ。
自分でもよくわからない理論だが、なんかすっきりする。
これで任務終了だ。素晴らしい。2万円万歳。
美代が出て行った後、大きな書斎のテーブルに置かれたティッシュの山を見つめて、蓮司はちょっとにやっと微笑んだ。それを偶然、書類を届けに来た勤続7年のベテラン秘書、矢崎康夫が目撃し動揺して、自分が持っていた書類を落としそうになった。
「会長が……微笑んでる……こえっ!」とつぶやいてしまった。
どうやらあの高級ブランドのモンブランの万年筆の限定品で、その黒塗りの本体のキャップの先には、白地のロゴにサファイアが埋め込まれている。ドイツの往年の女優マレーネ・ディートリヒをモチーフにした物らしい。
まあどう考えても、お高そうな代物。
「ですから、大切に扱ってくださいね。値段ではなく、とても蓮司様にとって思い出の品なんです」
ーーいや、わかっているよ。だったら、持って行けって言いたい!! 忘れるな!!!!
家でのんびりしていたら、真田さんが連絡をよこす。
「はぁ? あのティッシュを持ってこいってどういうことですか?」
耳に入ってきた単語を確認する。なにか絶対に聞き間違えだ。
「蓮司様が必要とされたら、あなたの仕事はそれを持っていくことです」
「いやいや、だって、どう考えたって、ポケットティッシュの一つくらい、あの会社にならあるでしょ? すぐそばのコンビニだって売ってますよ」
「いえ、蓮司様がこのティッシュを持ってこいとの仰せですから、美代様が持っていってください。15分後にお待ちしています」
ぷっと電話が切れる音がする。
その電話が切れた音にむかっとさせられた。なにか腑に落ちない。忘れ物がティッシュとは、おかしい。お金持ちだからって、こんな忘れ物が許されるのだろうか?
学校でも宿題を忘れると先生に怒られる。それが、総裁だったらいいのだろうか?
なにかギャフンと言わせたくなってきた。
ただ問題はどうやって一般庶民が、なんでも持っている御曹司をギャフンと言わせるんだ……。
もう一度真田に電話をかける。やっぱりワンコールで出る。なんかむかつく。このインテリ男、いつトイレに行くんだろう。
「はい、真田です」
わかっている! と言いたいが言わない。
「先ほどの用件ですか、ポケットティッシュを持って行きます。でも、忘れ物お届け係として、お願いしたいことがあるのですが……」
「……忘れ物お届け係としてですか? 私が対応出来る範囲でしたら、喜んでサポートさせていただきます」
範囲っという言葉には、ちょっと納得ができないが、まあそれはとにかく、用件を伝える。
「わかりました。それでしたら、たぶん大丈夫です」
えええっ! 嬉しい! ダメ元で話したお願いが通って、かなりテンションが上がった。
どうやらお得意様のお嬢様から襲われる一件から、蓮司会長の専任の女よけ地味女配達員というわけのわからない称号をいただいた。それから、ほとんど、顔パスで秘書のところを通ることができた。また、私のこの女っ気のない容貌、髪は肩上、しかもまったく化粧なしっというのが秘書のお姉さま方にはひどく気に入られ、あら、またねーーという感じで愛想を振りまかれる。いままで、美人さんたちには虫けら扱いされてきたので、変な称号をもらってしまったが、ちょっと嬉しい。
頭をさげながら、秘書の前を通り過ぎる。社内ではこの時代にネットだけのやりとりは危ないと思った会長が、その徹底した企業秘密を保守しているために、この配達員を専門に雇っていると勘違いされ、蓮司会長のセキュリティーに対する考えに皆感心しているらしいと誰かから聞いた。
言えないよな、お気に入りのペンがないと、会議に出れないだなんて……。いや、でも今回のティッシュって……もう嫌がらせなのか、なんなのか、わからなくなってきた。そういや、この前アラブの王様が日本にやってきたとき、なんだかすっごい物いっぱい持参したな。はっきり言って、この会長もそんな気がしてきた。
緊張しながら、その重厚なドアを叩く。
「入れ……」
威圧感のある低い声が返ってきた。いつもながら、この声には緊張させられる。だが、やるしかない。
「失礼します……」
と言って部屋の中に入る。会長様は、何か机の前の大きな革張りの椅子に座って書類に目を通していた。こちらを見ていない。
だいたい、蓮司会長と話すことばはいつも一言か二言。
「会長。お届けものです」
「あ、わかった。ここに置け」
「はい、では失礼いたします」
どんっと音がする。
「………」
蓮司は目の間に置かれたポケットティッシュが山ほど入っている大きいダンボール箱を唖然と見ている。お気に入りの『マルエール 鼻に優しい 保湿抜群 ポケットティッシュ』が山盛り入れてある。
「お、おい。俺はこんなに頼んでいないぞ」
「いえ、会長。会長様がティッシュごときで、あたふたされては困ります。ですから、今回は忘れ物お届け係としてダンボール箱ごとお持ちしました。では、失礼します。あ、お忘れ物にはどうぞお気をつけください」
嫌味っぽく深くお辞儀をして退室する。
ーーフゥー、ワッハッハッ!! これで、やつはしばらくポケットテッシュを忘れられない。ポケットティッシュ地獄へ落ちろ!!と心の中で叫ぶ。
自分でもよくわからない理論だが、なんかすっきりする。
これで任務終了だ。素晴らしい。2万円万歳。
美代が出て行った後、大きな書斎のテーブルに置かれたティッシュの山を見つめて、蓮司はちょっとにやっと微笑んだ。それを偶然、書類を届けに来た勤続7年のベテラン秘書、矢崎康夫が目撃し動揺して、自分が持っていた書類を落としそうになった。
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