私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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祈祷書は物事の順序を考えてだしたほうがいいと思った件。

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 というわけで、現時点、このタクシーの後部座席についての取り合い、正確に言えば、美代の隣の争いとなったのだ。
 な、なぜか3人が一緒に後部座席に乗ることになった。歩美、美代、蓮司という順で後部座席に乗っていた。
 そして、後ろ二台のタクシーに山川さんを含むSPの方々が付いてくることになった。あー、この険悪な雰囲気でしかもぎゅーぎゅーな状態……後ろのタクシーに乗りたかった。

 き、きつい!! だって隣の大男……ガタイが半端でない。

 「美代。きつかったら、俺の膝に乗ってもいいんだぞ」

 ひえーーー!!

 なに?? その甘々仕様。返って怖さが増すんですけど……と美代は思う。
 さっき上空からみた東京湾に埋められちゃんではないでしょうかと思い、悪寒が走る。
 「結構です。大丈夫です」
と顔を引きつりながら答えるが、ぎゅうぎゅうと両サイドから押されて苦しい。

 「あの二人とも……おしくら饅頭ではないんだから、すみませんが落ち着いてシートベルトを閉めて座ってください。それじゃなければ、私だけ助手席に座らせていただきます」
 「「美代!!!!わかってない!!」」

 おかしーな。なんだろう。さっきからこの二人に怒鳴られてばかりいる。
 タクシーだと普通車が入れないところまでの場所、つまり参道付近までの進入を許される。降りたところは、まさしく参道の始まりの部分だった。2台の高級車仕様のタクシーからガタイいい男たちが続々を降り、辺りが一時騒然となる。みんな黒服プラスグラサンだ。そして、安全を確認したあと、山川さんが最後の一台の私たちのドアを開ける指示を出した。

 参道を歩いていた人たちが、タクシーから降り立つ蓮司を見て、色めき立っている。

 蓮司は芸能人ではないので、顔を見て『大原蓮司だ!』ということはあまり言われない。まあ、あの有紗の芸能スクープで、いままでよりも認識は増えたことは確かだが、流行り熱のようなスクープだったため、忘れられることの方も早い感じがした。たった1週間程度まえなのにね……

 でも、その蓮司特有の甘いオーラを感じさせる佇まいは、ただの通りすがりな人でさえ魅了しているのだ。
 かなり、タクシーから出にくい!!と美代はちょっと感じたが、まあこれはある意味忘れ物お届け係の試練だ。いつもの通りにやればいい。
 タクシーから降り立つと、やはりほとんどの人がまだ蓮司の姿にざわざわとしていた。もちろん、見ながら通り過ぎていく人がほとんどなのだが、その中にはその後降りてきた美代を見て、かなり?マークを顔に浮かべているのが観察される。
 この表情……あまりにも見慣れすぎて、笑っちゃう。まあ慣れてるからいいよ。私は。
人って本当に釣り合わない人間がモデルさんのような人たちの横にいると、あれっという自然な反応が顔に出てしまうらしい。他人なら特にだ。

 後ろから歩美ちゃんも降りてきた。実は歩美ちゃん。見た目だけは美少女なんです。ふわふわのちょっと茶色の長い髪の毛は、おじいさんがフランス人だったというだけあって、透明感のある白い肌をとても似合っていた。どうやら、歩美ちゃんは、『おフランス人形』と皆に言われて育ってきたため、イケメンとか見た目重視の人たちを毛嫌いしている。
 ちなみに、彼女のいまの本命はなんとかっていう将棋の名人らしい。聞いても名前が覚えられなかった。まあ絶対に見た目だけで選んでいないところは確かだ。だって幾つの人?って聞いたら、『70歳』って言われて絶句した覚えがある。
 歩美ちゃん……素敵すぎっと美代はますます歩美が好きになった事件だった。
 見た目クオーターのフランス人形系美少女、歩美はヘリコプターから降りた後、もってきていたブラシで髪の毛を整えていた。それまでは寝癖ボサバサでその素顔がよく見えなかったが、髪の毛を整え、身なりをきっちりさせた歩美は、すっぴんであっても、また、ロングコートと黒のパンツをいうカジュアルな姿にもかかわらず、歩美ちゃんはその路上の人達からの強烈な視線を浴びていた。

 よくわからないが、どっかの外国からのセレブが降りてきたのかと勘違いして、写真を撮ろうとする人まで現れてSPの人たちから止められていた。
 蓮司と歩美ちゃんはその外見が別格級の美しさの為、それだけで注目なのだ。
 しかも、歩美ちゃん、人の視線を浴びることに慣れているせいか、その不躾な視線に『何?文句ある?』的な強烈な眼光を発動させることができる。すごすぎ。

 「ここにいると混乱しそうだから、歩きだそう……」
 蓮司が立っている二人に呼びかける。

 最初は取り巻いていた周りも、当初の目的である神社への初詣にそれぞれがおもいだしたのか歩き始めた。次第に私たちもその大勢の初詣客の中に入り込んでいく。着物をきた女の人や、子連れの家族、カップルなど色々な人たちが一つの目的のために歩いている。
 神社の近くまで歩いていくと、歩行者を規制するための警察とスピーカーが流れる。まわりには私服のSPまでいるようだが、この大勢のなかでは誰がどこにいるのかがわからない。
石畳のところまできて、足がつまづいてしまった。

 あっ。

 前の人に転びそうになるが、それを防いだのは自分の腰に回った大きな手だった。

 「だ、大丈夫か? 美代。」
 「俺の手をつなげ。はぐれると困る……」
 「え、でも……」
 言いながら、あっという間に手を掴まれる。
 「だめだ。お前は俺のいないところですぐに倒れる……」
 どんどんと進んで行く参拝客の中を蓮司に手を引かれて歩く。手袋をしているが、大きな手が自分の手を包み込んでいる。
隣の歩美ちゃんが、心配そうにちょっと覗いてくるが、危害を加えそうではない蓮司を見て、『まあしょうがないっか……美代危ないし……』とか言っている。

やっと、手を清めた手水舎(ちょうずや)までたどり着き、手や口を清めた。蓮司会長も同じように清める。なんだかあたりまえだけど、不思議……同じ人間なんだよね。なんとかこの神社の大石段を登りはじめた。こんな大人数だからなかな難しいが、なるべく階段の端をあるこうとする歩美ちゃんは、やっぱりすごいなと思った。礼節とかすごい大事にする人なんだ。

 「なるべく端を歩いて、神様に敬意を払わないとね……元旦だし!!」

 歩美ちゃんはそんなことをいいながら、大石段を歩き続ける。この美形の二人はどこに居てもチラチラと人からの視線を浴びているが、まあ、そんなこと二人ともお構いなしに私に話しかけ続けた。そして、ようやく大本殿にたどり着く。大変な混み合いにも関わらず、八頭身の蓮司だけ、ぽこっと頭がでている。サングラスは境内に入った時点で外していた。その切れ長の目が本当に美しい。

 「美代。賽銭箱見えるか? 俺が肩車してやってもいいぞ」
 「……なっ。そんな……神様、怒りますよ。それに子供扱い!!」

 蓮司はぷっと、ちょっと含み笑いをしながら、
 「まえにも言ったが、いつでもおまえを大人扱いしてやるよ。お前がその気なら……」
と言って、微笑むと今度は、前を向き直して、二礼二拍手一礼を始めた。新年のお願いをしているようだった。
 美代も歩美もそれに続いてお賽銭を投げ入れ、新年の初詣の願いを心の中で唱えるのであった。

ーーどうかこの俺の隣にちょこんと立っている子リスの美代を私にください。出来れば今ください。正直我慢ができません。(ああ、マジ、もうここで今、結婚式あげたい。婚礼予約書を今もらって美代に書かせるってもあるな……)あ、でも子リスにあともうちょっと大人の知識を教えてください。あ、いや撤回。それは俺が教えます。神様は引っ込んでいてください。でも、神様。かわいいでしょ。美代。やきもち焼かないでくれよ。おれのもんだから……はぁーーー。

ーー神様、どうか大原家のみんなが健康でいられますようにお願いいたします。世界が平和でありますように。私も仕事もなんとか頑張っていますので、どうぞ宜しくお願いします。あと、となりの変態上司……どうしたらいいでしょう……いま……対応に苦戦しております。なにかいいアドバイスがあったら教えてほしいです。あ、神様。私頼みすぎでしょうか? 頼みすぎだったら、ごめんなさい。みんな健康が一番です!!

ーー神様!!どうか***名人が長生きして、ずっと素晴らしい将棋を後世に残るようにしてください。あっ!!あと、となりの美代、私の親友なんです。変態御曹司にマジ惚れされているみたいなんですが、どうぞ美代が幸せになれるようにしてください。あと、そこにいる御曹司の性欲減退お願いします。かなり猛獣系っぽいです。

 この三人はそれぞれかなり偏ったお願いを神様に元旦からしておりました。

 かえり道、みんなでお守りを買う。家でお留守番の真田さんと伊勢崎さんにも買ってあげた。さきほど消えた蓮司がどっかから祈祷書の申し込みをもってきたようだった。そこにすかさず何かを書き込んでいる。歩美は不審がって、その願いを見た瞬間……唖然としてその紙を取り上げて、切りすてた。

 「な! おまえは!!」といいながら、実はすでに書いてある2枚を自分の後ろに隠している。

 ちょっと先走りの蓮司が祈祷書の申し込みに書いたのは、結婚成就。
 先ほどの通り、その紙を盗み見た歩美はその紙を取り上げ、破りすてた。
 二人の策士がにらみ合う。
 ちっと舌打ちをした蓮司。
 が、歩美はかなりこの御曹司が変態であるとあとの二枚の祈祷書の申し込み書を見て実感した。
 あとの祈祷書申し込み書には、夫婦円満。
 そして、安産成就と書いてあった。

ーーおい、御曹司! おまえやっぱり鬼畜変態だな!やる気満々以上じゃないか! っていうかすべての順番すっ飛ばしじゃないか?

 美少女でも、言葉は完全オヤジちっくの歩美はこれからしっかりと美代を守っていく決心をした。

***

 真田の人選が間違っていなかったかも?っという回でした。

 おまけストーリー

 ちなみに美代が買ったお守り:

 伊勢崎さんへは交通安全。
 真田さんには良縁祈願。

 もらったお二人の反応:

 伊勢崎さん「わあー。美代様からこんなものいただきまして、大変光栄です。いつも持ち歩きますね。ありがとうございます」

 真田さん「……美代様。これは……あのどういう??」

 美代「え、真田さん、もういい年でしょ? あの蓮司会長だけの面倒で、きっと彼女とかいなそうな雰囲気だったので、おせっかいとは思いましたが……だめでした!?」

 真田さん「え、いえ、あの、これはあの……(顔が赤くなる)ありがとうございます」

 ちょっと彼女なしの三十路の独り者、真田はじーーーんときてしまいました。
 そんな3人のやりとりをドア越しから見ている眼光の鋭い男がいた。その男が買ったもの……
 恋愛成就でなく、子宝安産お守り。

 誰かが教えてあげましょう。順番がちがうって!!!!!!


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