私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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水面下の攻防

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 蓮司は書類を見ていた。
 真田もその横に立ってその様子を見ている。
 今日はまだ二人は大原邸の蓮司の書斎にいた。

 「ついに来たな……というか、情報が早すぎるぞ」

 蓮司がつぶやく。
 すでに、電話で連絡を受けていたから、蓮司にとっては驚きのニュースではなかったが、それでも、それが書面となっていると、なかなかやっぱりそれなりの衝撃があった。

 「とにかく早すぎるんだ。まあリーク元はあいつしかいないがな」
 
 結局、蓮司は美代のあの婚姻届騒動の時の離婚届のところに書いてあった美代の言葉を思い出す。

 『私に時間をください』

 それが、彼女の本心だと思った。
 攻めすぎて、それが裏目に出てしまったのだと蓮司は思った。

 そうだ。
 まだ彼女は幼いのだ。
 たとえ、自立をして自分で養っているにせよ、まだ二十一歳そこらだ。
 自分は、かなり昔に自分の少年期に別れを告げた。青年期でさえ、なにも思い出がない。
 いまは、自分が人間として、どの段階なのかわからないくらいだ。
 それが大原の跡取りの宿命だと思ったからだ。

 美代はまだ大学生だ。
 もうすぐ2年目の春がやってくる。
 彼女が本腰で進路を決めないといけなくなる。
 その芽を摘んでいいのか、蓮司は悩んでいた。

 「これは必ず来ると思っていましたが、でもどうしますか? かなり時期尚早なような気がしますが」
 
 書類を片手に真田が話す。

 「情報がなんて早いやつらだ。ハイエナだな。ああ、まあ婚約で、守りたいと思ったが、どうだろうか、なんとかならないのか?」
 「いや、あちらはなんとしてでも独占したいのかと。ただ、まだ時間があります。それよりも他社の動きのほうが心配です」
 「せめてアレが卒業をする時まで、待ってやって欲しいと思うのだが……」
 「親心ですか? それとも庇護欲?」
 「……今日は口が達者だな、なにかあったのか? 真田?」

 「私ごときの話など……。蓮司様がお気にかけることではございません」
 「……まだ話せないのだな」
 「……申し訳ございません」


 「それではあちらに……せめて今年はまだ早いとあちらに承諾をさせましょうか?」
 「それは、俺もやってみるつもりだ。違うネタをつかませれば、納得するかもしれない」
 「でも、それはどうでしょうか…。情報が違うところから先に漏れてしまったら?」
 「どうせリーク場所は一箇所だ。だから、相手にどうにでも言えるし、美味しい餌があれば、いい子にして待っているに違いない。契約上の名前を米国のあいつに連絡して伏せさせろ、そうすれば、しばらくは守る事ができる」

 「まさか? 蓮司さま、それを考えて区役所に行かれたのですか?」
 「……いや、違う。愛人問題のせいだ。だが、この事が頭に浮かんでなかったといえば、嘘になる」

 「でも、ちょっと嬉しいんじゃないんですか? 彼女が蓮司様と同じステージに上がる事が?」
 「……複雑な気分だ。隠しておきたいのに、でも、お前が言ったように、俺が一番、変わらなければいけないのかもしれない。でもきっとそれでも、彼女は否定するだろうな。全力で……自分は何にもしてないって」
 「恋する男はまた変わっていくんですね。愛する方のために……」
 「ああ、一度ステージに上がってしまっては、もうなかなか後には戻れない。彼女の意思の問題だが、どうだろうか、それを美代が望んでいるのだろうか? 時々不安になる」

 「……歩美さんのようになるかもと?」
 「……ああ、性格の強い歩美でもあの感じだ。芯はしっかりしているようで、意外ともろいんじゃないかと」
 「え? 蓮司様、それは美代様のことですか? それとも歩美さんのことでしょうか?」


 「真田、お前、いい加減に自分の気持ちに気がついているのか。ミイラ取りがミイラになっているぞ」
 「……。一体、なん事でしょうか?」

 真田は表情を崩さない。

 「まあいい。歩美さんの事は、お前だけの意思で片付く問題ではないからな。その辺はもう始めているのか? 俺の力が必要なら、いつでも協力するが……」

 「恐れ多いです。ああ、対外的な協力は一切いりません。私の力量でできなければ、意味がございません。ただ、これからの事で少々、蓮司様の許可が必要で……」
 「俺の許可が?」
 「お願いいたします」

 二人の男が見つめあった。

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