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デートに向けて
しおりを挟む伊勢崎さんによると、蓮司も真田も急な用事ができて今晩はかなり夜が遅くなるかも知れないと言われた。
長谷川さんは、なんでさっき緊急に美代達が帰らないといけないのか詳しくは教えてくれない。
しまいには、あの松田シェフが夕食を作ったのに、お二人が帰らないからご立腹なんですよっという始末。
美代はそれを真に受けて、
「……え、本当? それはやばかったね。よかった。早く帰ろう! そりゃー、緊急事態だ!」
とか言っている。
歩美は呆れた顔をしながらも、同じくサイドミラーで後ろを確認していた。
そして、一言言った。
「馬鹿よね、男って……」
長谷川がその言葉を意味深に聞いていた。
歩美が仕切り直しで元気よく喋った。
「美代、松田さんの美味しいご飯食べたら、一緒にデート作戦、考えよ!」
そう言ってにっこりと笑う。
うんと元気よく美代は答えた。
大原家に帰り、勢いよく「ただいまーー!」という。
なんだかすっかりこの大豪邸が我が家のような気になっていた。と言っても、この広さだけは慣れない。
松田さんのほっこり顔が厨房から現れた。
「お、ちょうどいいタイミングだね、今日は美代様が好きなおでんだよ~~!」
「きゃー、嬉しい! 流石、緊急事態で帰ってくるだけのことはあるね。ね、歩美ちゃん! あと、美代様って、真田さんと伊勢崎さんだけで充分ですよ。松田さんになんか言われると気持ち悪いです」
「え、そりゃー、困るな。だって総裁の御婚約者でしょ? 美代ちゃん、やべ、美代様は……」
「もう、仮婚約ですよ。でも、いいやお腹空きました。おでん食べたい!」
いそいそと席につく美代に対して、部屋の角に立っている長谷川に松田が質問する。
「なんかあったのか? 緊急事態だなんて……」
「コードレッドで帰って来ました……」
長谷川が小さい声で、松田に話した。
「えええええ!! まじか? それは!」
部屋の端にもう一人のSPがいる。
長谷川の目を見て、それが嘘ではない確信した。
いつもはSPなどがダイニングに入らない。
しかも主人が留守なのだ。
まだ、席に付いていなかった歩美が二人の方にやって来た。
美代に聞こえないかのような声で、歩美が話す。
「ごめんなさい。多分、私のせいです……」
微かに歩美の声が震えているように聞こえた。
それを聞いて松田が答える。
「わかりました。俺も今晩はここに泊まります……」
「え、松田さん、貴方も何か武闘の特技があるんですか?」
思わず、歩美が聞いてしまう。
「何言ってんですか? お嬢さん、俺の特技は昔から料理ですよ。不安なときや、疲れたとき、料理が一番の元気の元です。万が一を考えて宿泊の準備して来ます……なにか元気がつく食べ物が欲しかったら、夜中でもいいから起こしなさい。わかったかな? 歩美さん」
「……ありがとうございます……」
「ということだ。まあSPチームの食事も用意しないとな……ちょっくら、母ちゃんに電話してくるわ……」
そう言って、長谷川にも挨拶をして、松田は奥に消えた。
でも、長谷川もちょっと苦笑いをしながら、大丈夫、ここは日本一安全ですからっと言ってくる。
歩美の事情を何も聞いてこない二人に感謝した。
「あ、そういえば……」と言いながら、長谷川は思い出した。
「あ、歩美さん、隊長からの伝言経由で、真田さんが、貴方に伝言です。『何も心配しないように……。私が縄の手綱はしっかりと握っているから……』だそうです。意味わかんないですけど……どういうことですかね……まあ心配しないようにってことですかね」
歩美が、ええ?っと思う。
その言葉の意味の裏を読んでしまう自分がいて、頬が赤くなる。
(真田さん……貴方、何考えてんの、もしかして、やっぱり知ってる?)
美代に呼ばれてようやく気を取り戻す。
二人でおでんを堪能する。
ホクホク感がたまらなかった。
心が少しだけほぐれて温かくなる。
歩美はそれがおでんのせいなのか、真田からの伝言なのか、自分でもよくわからなかった。
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