私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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デート 待ち合わせ 美代編

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 そして、ようやくおでんも食べ終わり、蓮司専用の、いや今では蓮司と美代の専用のリビングで、女子達は移動してきた。この中にはSPも入れないし、心置き無く語り合えるからだ。

 歩美がまず、「デートに蓮司を誘え」という。
 「なにか仕事も忙しそうなのに悪くないかな?」というと、歩美が「だったら、いつ誘うの?」と言われ、確かにそう言われると、いつになっても決めることは不可能に思えた。

 ノリが大切かもしれないと美代は思った。
 歩美が明日のプランを教えてくれた。
 夕方、武道館で行われるジャスティンのコンサートに蓮司を誘えということだった。
 なんだ。
 歩美ちゃん、知っていたんだ。
 ジャスティンの誘いにドキとした自分は馬鹿だったと思う。

 言われた通りに、歩美ちゃんの前で蓮司に連絡する。

 蓮司にメールを送る。
 時間があったら電話くださいって。
 送ってから、ものの1分もしないで電話がきた。

 「どうした。美代、大丈夫か?」
 「お、お仕事中、ごめんなさい。今、大丈夫ですか?」
 「……もちろんだ。ハニー、俺は君の為なら、大統領との会談中でも、君の電話はとるよ……」
 「!!いや、そんなこと言われたら、恐ろしくて電話はできません……」
 蓮司の微かな笑いが電話口から聞こえる。

 ああ、それだけで美代の胸がきゅんとする。

 大丈夫だろうか? 
 自分は明日、生き残れるだろうかと心配になる。

 蓮司に明日の件を伝えた。

 「明日、一緒にコンサートを観に行きませんか? 一応、デートのお誘いです……」

 相手が絶句しているのが、携帯電話でもよくわかる。
 物凄いガタガタと言う音が電話口でする。

 「大丈夫ですか!! 今、すごい何かが倒れた音が!」
 「だ、大丈夫だ。蚊に刺されただけだ……」

 え、今はまだ春先なのに、蚊なんているの?と突っ込めない。
 ちょっと気まずくなり、声をかける。

 「……もしかして、お仕事忙しかったら、また今度……」
 「行くよ! 絶対に行く。美代!!」
 「……え、本当ですか?」
 「本当だ。どこに迎えに行けばいい? 何時だ?」

 少し頬を赤らめた美代が電話口で教えた。
 それを蓮司は聞き終わると、ただ、
 「うん、わかった。明日必ずそこに行くから……」と言った。

 そして、美代に今晩はちょっと仕事で遅くなるから、君は歩美さんと一緒に、その部屋で寝なさいと言われた。あの部屋は蓮司の寝室以外に二つの寝室が繋がっていた。
 恥ずかしながら、どうして?と口に出しそうだったけれど、相手がその理由を言ってくる。

 「美代は、寂しがりやだからな。一緒に誰かがいた方が安心だろ?」
と言ってきた。
 恥ずかしさで、思いっきり声が出てしまう。
 「蓮司のバカ!」

 電話を切ってから、後悔する。
 バカって言っちゃった!
 どうして私って素直になれないんだろう。

 でも、ピンっと音がして、蓮司からのメッセージが現れる。

 【ごめん。からかって。でも、明日は、死ぬほど楽しみにしてるから……美代。でも、その部屋の方が大きいし使いやすい。今日はそこで歩美さんと一緒にいてくれ。お願いだ……。愛している】

 ああ、もう負けだよーー!
 顔をこれ以上真っ赤にできないほど、美代は赤面しながら、目の前のソファのテーブルに顔をふせた。
 真田も蓮司も何か急ぎの仕事のようで、会社に泊まりになる可能性があるとまでいわれたのだ。

 本当はやめようかと思ったが、歩美は
 「いい男はピンチをチャンスと考えんのよ……。やってみなさいよ。減るもんでもないし……明日になったら、全て変わっていることだってあるんだし……」

 そう言われて、先ほど蓮司に電話をしたのだ。
 でも、美代はその時、歩美が見せた影には全然気がつかなかった。
 
 もう一度明日の予定を確認した。
 まずは学校が終わったら、マチ子おすすめの美容院へ行くこと。髪をセットしてもらい、そこへジャスティン御用達のメイクアップの人に来てもらう。
 そして、ご飯前に待ち合わせをしろと……。
 でも、蓮司会長の行きつけだと、きっと超ゴージャスになる可能性もあるから、美代がリラックス出来るところがいいよと、歩美がアドバイス。しかも、コンサート前だから、きっと軽く早く終わった方がいい。

 全くおしゃれなレストランなんてわからない。
 ネットで調べようかと思っていたら、歩美が大丈夫。
 それはこの住所のところへ行けっと言われる。

 「でも、これって?」
 「……本当はジャスティンとマチ子さんの顔聞きで、すごい一流シェフのところに予約したんだけど、よく考えたら、美代が無理してあっちに合わせなくていいんだってよくわかった。しかも、コンサートの前に食べるからね。だから、場所も大変更。どう? いい選択でしょう?」
 美代が、ち、違うよ、その下のこの場所の名前……、どういう意味?っと思う。
 
 声が出せなくて、そのところを指で示す。
 
 「あ、それね、別に、使わなくてもいいんだよ。でも、今日の買い物で、美代の意気込みを感じた。最後が特に……」
 「あ、歩美ちゃん! からかわないで! でも、これ、本当に?」
 「大丈夫。あんたの身の丈考えて、きちんと払える金額だから……。直前だから、半額セールだったし……」
 「……」
 無言のまま、美代は顔が火照っているようだった。
 それを見て歩美は気合を入れようと思った。

 「決めるんでしょ?」
 「……え、あ、う、うん!」

 歩美と美代はにっこりとちょっと涙目でお互いに微笑んだ。



 次の日、起きたら歩美ちゃんの姿がなかった。
 会長からメールが入っていた。

 【今日、デート忘れてないから……。必ず行くから……】

 と入っていた。
 気がつくと、返信していた。
 
 でも、服に関しては、モールで買ったもので行くことにした。
 その代わり、蓮司にこう言えば、いいのよ。
 それを思い出して、蓮司に念を押す。

 【カジュアルな装いでお願いします……】
 【わかった。そうする】
 
 ドキドキしながら、返事を見つめた。

 あ、気がつくと歩美ちゃんからもメールが入っていた。
 【急な用事ができたから、実家に少し帰るね……また明日】
 とだけ書いてあった。
 
 そっか、何ごともないといいかなと思い、学校に行くための支度を始めた。

 あれ、歩美ちゃんの実家ってどこだっけ?


 そして、今、ちょっと早い夕方の混雑した東京の某所駅前で蓮司会長と待ち合わせになる。

 ものすごく緊張する。
 こんな普通の街中で待ち合わせなんてしたことがないのだ。
 すでに、かなり自分としては、大変身をしたつもりだった。
 意外にも、歩美とモールで購入した春先の薄手のワンピースは、ヘアサロンでも好評だった。
 カーデガンを上には羽織る。

 まっすぐの髪の毛には軽めのハイライトが入り、ふわっとカールされていた。
 お化粧も、ナチュラルに、とは言いながらも、流石にプロだから、何か骨格が違う人のように変身した。
 爪もピカピカだし、唇もグロスで艶やかに光っていた。

 まるで自分が地上から3センチぐらいに浮いている感覚がする。
 新しいローヒールだが、ピカピカで、可愛いリボンが付いていた。
 こんな乙女の装いをする日が来るとは……。
 今まで、頑張っている女子を馬鹿にしていた私、ごめんなさい!と思う。
 みんな、いっぱいいっぱいなのだ。

 チラチラと帰りぎわのサラリーマン達が見てくる。
 あ、やっぱりこの洋服、変なのかな……。
 も、もしかして半額で買っちゃったの……わかるの?
 それとも、このメイクがやっぱり元がおかしいから、失笑物?  
 この足元のリボンかも……。

 なんだか今まで浮かれていた気持ちが一気に急降下して、暗くなる。

 そこに、肩をトントンと叩かれた。
 え、もう蓮司会長の、来たの?と思って振り返ると、顔を赤くした二人連れの若いサラリーマンが立っていた。

 「あ、あの、これから予定あるんですか? 良かったら、僕達と夕食一緒に食べません?」

 「……え? あの、それは……」

 知り合いでしたっけと答えようとしたら、大きな壁がいきなり自分の前に現れた。

 「悪いな、彼女は先約があるんだ……」

 ほとんど攫われるような形で、蓮司に手を引かれた。
 どんどんと人混みをかき分けて歩いて行く。
 えっどういうこと?
 「か、会長! あ、歩くの早すぎます!」
 「……あ、悪かった……」
 改めて会長見上げると、そのあまりにものかっこよさに驚いて頬がまた赤くなる。
 今日は、無理を言って、『カジュアルな装い』で来てくださいとお願いしたのだ。

 黒のジーンズに、黒のV字のニットシャツで、シンプルな装いのため、蓮司の鍛え上げらえた肉体とスタイルの良さが目立っていた。その手にはジャッケットを持っていた。かなり若く見える蓮司がいる。髪はいつもより柔らかく仕上げてあり、いつもはあまりかけてないサングラスをしていた。
走って来たのか、息が上がっており、汗もかいているようだった。

 乱れた髪の毛がセクシーだった。

 「大丈夫ですか? 会長……」
 「……すぎるから……」
 「……え?」
 「おまえが可愛いすぎるから、遠くから見て、心臓がとまるかと思った……。そしたら、あんな奴らのナンパにひっかかってるし、猛烈に走って来た。婚約指輪してんのに、全然効かないな」
 サングラスを外し、切れ長の目が妖しく美代を見つめた。
 美代の心拍数が一気に上がる。
 「……キスしたい……」
 蓮司が囁くと、いきなり手をまたひかれ、人影があまりない路地へ連れて行かれた。
 彼の大きな手が美代の頬を包む。
 蓮司が大きく腰を曲げながら、美代の柔らかくぷるんとグロスが付いている唇に口づけする。
 「……あ、蓮司、ふ、グロス取れちゃう!」
 「馬鹿、こんな色っぽいのつけて……どうしたいんだ、俺を……全部俺がとってやる……」

 蓮司のしつこいキスが美代を襲った。
 しまいにはその今時の流行のカラーであるグロスプラスリップカラーが全て美代の唇からなくなっていた。
 
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