私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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長谷川の焦りと失態

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 もうそろそろ終わりかなっと二人は思っていた。
 靴も、ワンピも、春用セーターも買った。
 さあ、帰ろうか……と思った二人が、ちょうどその前に現れた店舗を見つけて美代が赤面した。

 「あ………」

 美代が見つめているものを見て、歩美もその視線の先に何があるかわかり、同じく顔を赤らめ、

 「あ………」と言う。

 そこは最近若い女性に人気なランジェリーの専門店があった。可愛らしいブラやアンダーウェアーなどがところ狭しと並んでいる。かなりセクシーなベビードールも人気アイテムのようで、店内イチオシが店前にも飾られていた。

 「ど、どうしよう………」
 「え? どうしようって、美代? 本気?」

 ものすごい赤面の美代が下を向きながら、歩美の洋服の裾を持つ。

 「歩美ちゃん………。お願い……。一緒に入ってくれる?」
 
 二人とも男性へお付き合いが全く疎かったせいで、外見のことばかり考えていた。

 「……美代。マジなの?」
 「……うん、ごめん。一応、欲しいかも……」

 超硬直した美少女と真っ赤なゆでダコのような少女二人がその専門店に入っていく。

 店内で「いらっしゃいませ……」といった三十代ぐらいの女性店員が、唖然としながら驚いている。
 あまりにも、ロボットのような動きで若い女性が店内に入ってくるのだ。
 でも、この店員も柔らかな微笑みが漏れた。
 きっと好きな人のためか、それか自分に自信をつけたいとかの理由で、この店に入ってきたことがすぐにわかった。
 自分もそういう時、あったな……。
 店員の女性は、これはまた腕の見せ所っと思い、残り少ない営業時間を費やして、恋する乙女の味方になってくれたのだった。


 そんな様子を柱の陰から怪しく見ている男達がいた。
 長谷川がもちろん、その軍団のリーダーだった。

 そんなモールでの行動は、長谷川チームがやはり監視をしていた。
 (や、やばいぞ。うう、これ一応、記録に残す方がいいのか?)
 長谷川が苦悩する。

 パターンを想像する。

 蓮司に美代がセクシーな下着店に入店と報告→蓮司愕然→お前、なんか美代の下着を想像したかと質問の上、激怒→八つ当たりのうえ、減俸、または最悪解雇。

 ありえる。

 蓮司に詳細な報告なし→みんな安泰→俺仕事キープ。

 こっちだな。

 いやーー、怖い。美代様の護衛って………。

 そんな風に考えていたら、無線が入る。

 「はい、長谷川です。なんでしょうか?」
 先輩の山川隊長からだった。
 聞いた耳を疑う。
 え、本当ですか?
 歩美の周りに不審な点はないかと山川からの連絡だった。

 「確かに、正直、ちょっと不審とはいえませんが、空気が違うんですよ。歩美さんの冗談だと思うんですけど、『撃ち合いはしないでね』なんて脅されましたし……」

 電話口の山川が怒鳴った。

 「長谷川ぁ!! てめえ、何年SPやってる! どうしてそういう重要なこと報告しねぇんだ! レベル5のレッドだ! 直ちに撤収! リスと猫を回収しろ! 目立つなよ。さりげなく連れ出せ! 特に猫は人員二倍に増やせ! わかったな!」

 「え! 申し訳ありません! 了解!」

 話をしながら、全SPに命令する。まずは手のジェスチャーで、緊急事態を知らせる。
 無線を切りかえ、コードをリピートとする。

 「Code Red、繰り返す、Code Red、リスとネコ、撤収。ネコ initiate double security !」

 手のサインの動きで長谷川が指揮する。出口確保、裏口安全確認。
 全班、緊急体制。Code red。待機!
 影のように、まず長谷川がその下着店に入っていく。何か下にいっぱい入ってそうな黒服スーツで現れた長谷川は、そのラブラブ感が満載の店内に全く雰囲気がそぐわない。
 長谷川が歩美と美代に話しかけた。
 ちょうど荷物を受け取るところだった。
 「美代様、歩美様、申し訳ありません。すぐに屋敷にお戻りください」
 「……? え、どういうこと?」
 美代が呆然として聞くと、
 「来たのね……」
と歩美の眉間にシワがよる。

 「詳しくはわかりませんが、裏口から出てください。安全上のため、この二人を裏口から出すことに、お店の方にもご協力お願いいたします」

 店員も焦っていた。考える隙を長谷川は与えずに、二人を裏口から出させた。
 非常用階段をSPの人に囲まれながら、まるで映画の1シーンのようにおりてモールを出る。

 すぐに伊勢崎さんの車に乗せられた。
 今回は長谷川さんも一緒に乗り込む。
 何台の車も一緒に後について来た。
 伊勢崎の見事なハンドリングが驚きを誘う。

 それを確認していた長谷川は、その今までいた場所に知らない恰幅の良い男たちが走って集まるのがバックミラーごしに見ていた。悔しそうな素ぶりをして、胸から携帯電話よりも大きな電話で話している。

 衛星回線? 

 (本当だったんだ……)
 長谷川は自分の甘さを痛感した。


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