私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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貴方を誘拐します

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 ごそごそと慣れないベットの中で動き、歩美は最初はなかなか寝れなかった。
 流石に蓮司と美代のキングベットに寝るのはどうかと思い、隣のもう一つの寝室で寝ていたのだ。
 気持ちを落ち着かせるために、真っ暗にしてベットに横になっていた。

 もう時間は12時を過ぎていた。
 美代は健康優良児だから、かなり前に、もう寝るっと言って、ベットに入っていった。明日は彼女の誘いの初デートなのだ。
 がんばってほしい。

 やはりアベル、いや本家がもう迎えに来るのだと思うと、やはり胸に何かがこみ上げる。
 フランスに戻れば、きっとロレーヌ家の駒として、どこか適当な御曹司に嫁として行かせられるのだ。

 ああ、せめて言語がわかる国の人にしてほしいと思う。

 歩美は自分が人の目を惹く器量だと言うのは十分に承知している。
 だから、ロレーヌ家の得になると分かれば、それこそ、砂漠地でもどこにでも飛ばされそうだった。

 「縄は切れちゃうんだよ……馬鹿、真田……」

 ふてくされて、またベットで寝返りを打つ。

 「……馬鹿とは、なんですか?」

 えっ? 歩美は暗闇を凝視した。
 そこに、今、頭の中で自分が想い続けているひとが立っているなんて……信じられない。

 「……さ、真田さん、なの?」

 驚いて、サイドランプをつけた。
 やはり真田だった。
 静かにベットに寄ってきた。
 髪の毛は何も整髪剤をつけていないのか、前髪が柔らかに額にかかっており、そのだらしがないような髪型が、彼を危なく見せていた。しかも、全身黒尽くめの格好だ。

 「もう夜中を過ぎているのに、起きているとは……夜遊びが好きなのかな……貴方は……いけない子だね」
 「な、何言ってんのよ。こ、こんな遅くに……女子の部屋に勝手に入ってきて、何考えているのよ!」

 心臓がドキドキしながらも、口から出る言葉が違ってしまう。

 「何を考えている? 貴方と言う人は……全く人の気も知らないで……」
 
 ジリジリとまるで自分の何かが火傷している。
 もうこれ以上、私に関わらないでっと思う。
 もうお遊びは終わったのだ。
 恋するただの女子大生はいなくなり、自分は……ただの……捨て駒になるのだ……。

 目の前の真田が歩美を凝視していた。
 口元は笑っているのに、目は笑っていなかった。

 「まだ、時間があると思って、正直、もうちょっと楽しんで、貴方を口説きたかったのに、友達思いが過ぎますね……。歩美さんは……」
 
 「何を言っているのよ……。出て行きなさいよ、人を呼ぶわよ!」

 「私と一緒に逃げてください……」
 「なに? 冗談は……」

 暗闇の中の真田が近づいてきて、彼の吐息さえ感じそうな距離になった。

 「アベルが君を迎えにきた……。今蓮司会長がそれを本社で止めている……」
 「……そう。急いでやっぱりきたのね。しょうがないわね……」

 やはり、真田は自分が誰かを知っているのだ。
 今迄になってちょっと悲しくなる。
 いきなりぐっと手首を真田に掴まれた。

 「……しょうがない? 何、弱気なことを言っているんですか? 貴方は私が知っている歩美さんではありませんね……」
 「そうよ。もう子供じゃいられなくなったの! 大人なのよ! わかるでしょう? 大人の事情ってやつよ」

 真田がニヤリと嬉しそうに笑った。

 「いいですね。私もそのような頃合いだと思っていました。申し訳ありませんが、私は蓮司様のような男ではございません」
 「な、どう言う意味よ……」
 「相手の気持ちなんて、待っている余裕も事情も持ちあわせていませんので……」

 え、何と思っていると、真田がベットへとのし上がる。
 歩美がベットの上で真田の下敷きになっていた。
 軋むベットの音にドキッとしてしまう。

 歩美は焦っていた。

 暑くない春先の心地よい夜なはずなのに、何故か、じとっと汗が湧き出てくるようだった。
 真田の深く黒い瞳が今宵の空のように見えた。
 美しい星空が見えるようだ。

 歩美が思わず生唾を飲み込んだ。
 真田がゆっくりとその艶やかな唇を開かせる。

 「歩美……。綺麗だ……」

 歩美が、真田のいつもとは全く違う真顔の褒め言葉に赤面する。
 驚き過ぎて声さえも出ない。

 「可愛いね、顔が真っ赤だ。ああ、ここで君を全て食べ尽くしたい……」
 
 こ、こっんなフェロモン全開の真田なんて、見たことのない歩美は唖然を通り越して、身体まで震えていた。

 「……歩美さん、私のこと、好きですか?」

 固まっている歩美を真田がけしかける。
 髪の毛をくるくると指で弄ばれている。
 歩美は、なぜか今までのハッタリを利かす言葉が何も出ない自分が信じられないと感じていた。
 ただその黒目に魅了されているのだ……。

 「嘘をつく子にはお仕置きをしますよ……」

 「えっ? お仕置き? ふざけないで……」

 「好き? 嫌い? あ、もちろん異性としてですよ……」

 真田が歩美の口元を優しく自分の人差し指で撫でていく。
 背筋にゾクゾクするものを感じながら、歩美は頑張って答えた。

 「何なの? ふざけるのは……」

 真田がいきなり数を数え始めた。カウントダウンのようだった。
 歩美はその数を聞きながら、歩美は焦ってきた。

 「……5、4、3、」

 低い真田の声が響く。
 もう、どうにでもなれっと思い、声を張り上げていってしまう。

 「……す、好きよ。馬鹿! なんで今更、そんなこと言わせるの! もう、遅いのよ! 」

 真田が満面の笑みを浮かべた。

 「良かった。一応、確認したかったんです。歩美さん、貴方を本当に誘拐します……」

 歩美は、目の前の優しく微笑む男を信じられないという表情で見つめ返した。



 
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