164 / 200
真田の恋
しおりを挟む
「誘拐? また何を戯けた事を言っているの! 出来るわけないじゃない……あ、あんたみたいな……」
相手を貶したいのに、なかなか言葉が上手く見つからない。
「私と逃げてみませんか? 愛の逃避行です……」
何故か真田は蕩けた表情で、歩美の顎をその男性にしては長く色気のある指先で上げた。
歩美は、その目の前の艶やかな表情をしている男の顔を背けることができない。
だって、大好きなのだ。
真田という男に、心底惚れてしまったのだ。
「意味がわからないわ。誘拐だとか、愛の逃避行だなんて……」
アベルもそうだが、全ルイス・カルダンを敵に回すなんだなんて正気な貞ではない。
「貴方の自由をかけて……です。歩美さん……」
「ちょ、ちょっとどういうこと? 私の自由って……」
真田がその漆黒の瞳を歩美に向けた。
男らしい指先が歩美の頭を優しく撫でた。
歩美は、その真田の大きな手の重さを感じ、ただ、それだけなのに、体が火照ってしまった。
「大丈夫。すでにアベル総裁に、宣戦布告しました……」
その何を考えているかわからない二つの瞳が歩美を見つめた。
「な、何ですって! あんた、何のためにそんな事! こ、殺されるわよ。アベルは、まあ、そのいい人だけど、でも、見境いない時もあるし! 一緒に謝ってあげる! 」
「何をどうすると、いうのですか? 私は、貴方をカルダンやら、アベルとかに渡すつもりなんて、微塵もない……」
「……え、」
その深い色をした瞳が歩美に覆い被さる。
気がついた時には、彼の鼻筋の通った顔が、息さえも吹きかかる距離にあった。
微かに真田の口角が上がったのが見えた。
言葉さえも上手く出なかった。
真田が優しくその唇を歩美の柔らかな口元へと押しつけた。
彼の体温は意外に温かかった。
そして、名残惜しいかのように、ゆっくりと離れた。
全てが一瞬で、それと同時に永遠に思えた。
歩美は、その感触がなんだかわからなくて、思わず自分の唇を指で確かめた。
今起きたことと感触が信じられない。
「貴方は私をざわつかせる……」
真田が自分の唇をいやらしく舐めながらそう話した。
歩美が唖然としている。
でも、今の口元に感じた感触がそうさせたのか、それとも真田の言葉がそうさせたのか、歩美にはよくわからなかった。
「き、キスした! な、何よ! どうして……」
「……歩美さんは、意外と鈍感なのかな? 男がこんな風にキスするってどういう意味か、今時の小学生でもわかりますよ……」
歩美は自分の何かが壊れていくような感覚を味わっていた。
もうこれ以上、この男に忍び込まれたくないのだ。
まだ自分の口元には彼の柔らかな弾力の感触が残っている。
「わ、わからないわ!」
「わからないですか……、では……説明しますと、貴方みたいな方には、私はぴったりだと思うんですよ……」
「ぴったりって、な、何なの?!」
おかしいことになってきた。
今まで自分が真田を追っかけてきたはずなのに、なぜか立場がまったく逆なのだ。
「教えて欲しいですか? さっきの意味を?」
まるで嫌がらせのように、真田は楽しんでいるようだった。
その言葉を聞いて、歩美は唇を噛み締めた。
もうダメだ。
歩美は、もうパンドラの箱を開けたくなった。
我慢が出来ない。
先ほど誘拐とか、愛の逃避行とか言われても、それはまるで真田が言葉の遊びをしているようなのだ……。
「……お、教えて……何でキスしたの?」
真田が歩美の耳元に口をもっていく。
彼の息や近くに感じる体温が、歩美を緊張させた。
「歩美、大好きだよ……君を絶対に離さない」
歩美は自分の体温が沸騰しそうなくらいな嬉しさを感じた。
あ、あの堅物の、あの偏屈な、あの考えが全く見えない策士の真田が、自分を好きと言ったのだ。
信じられない!
嘘のようだ。
もしかして、聞き間違い?
本当なの?
歩美はわかっていないが、その心の声が言葉となって漏れていた。
真田が笑いを堪えていた。
歩美が気分を明らかに害した。
しかも、その笑っている姿さえ、歩美にとってはセクシーなのだ。
揶揄われたと思った。
「わ、笑ってる! やっぱり冗談なのね!?」
「ふっ、貴方も私のように難聴になったのですか? いいでしょう。まあ、時間がないので、今はこれが最後ですよ、歩美……」
「え、何よ?」
「これから、貴方が嫌がるぐらいに言ってあげますよ。好きだよ。歩美……。早く君の全てを欲しいくらい……」
きゃああーー!と歩美は心の中で叫んだ。
や、やばすぎる。
目をうるうるさせながら、歩美は狼狽えた。
でも、真田は普通にしている。
そして、何事もなかったように、ベットから降り立った。
「歩美さん、貴方に選択を差し上げます。私は貴方のしたい方に従います。カルダンと正々堂々と戦いますか? それとも、出し抜く作戦にしますか?」
「戦い? カルダンと? 何を……言っているの?」
ああ、そうだ。
真田はカルダンの宣戦布告したと言っていたのだ。
何を馬鹿なと思ったが、彼の一途な告白を聞いて、歩美も少し気が変わった。
好きな人と一緒に戦えるなんて、最高じゃないか。
自分の自由の為に、一戦交えるなんて、自分の最後の足掻きに相応しい。
真田は愛の逃避行とか、好きだとか言っているけど、本当に何のために、カルダンに喧嘩をふっかけているのかは、歩美もよくわからない。
本当に自分の自由のためなんて……正気じゃない。
でも、悪くもない。
いいじゃない!
ふふふっと歩美も何かやる気になってきた。
どうせ最後だ。
このおかしな男とひととき、この自由を味わうものいいかもしれない。
「……私を誰だと思っているよ」
「………工藤歩美、アユミ・ド・ロレーヌ様でございます……」
まるで歩美の昔からの従者のように真田が深くお辞儀をした。
「そうよ。正々堂々と、でも、ズルがしこく戦うわ! やってやる! アベルも叔母様も、あの祖母も鼻を明かせたいわ!」
「やはり、そうですか……」
真田はポケットに入っていた催眠性の液体が含まれていたハンカチをまたポケットの奥のビニールに入れ直した。
どうやらやっぱり思った通りだった。
本当は歩美が怯えていたり、頑固で承諾が取れない場合は、最悪ここで眠らせて、美代を外のベットに移して、この蓮司専用のパニックルームのボタンを押せば、24時間など軽く済んでしまう。場所がたとえ見つかっても、ここに入ることは著しく難しい。
先ほど蓮司にも、ここの使用コードをもらってきたばかりだった。
それはこれを使っていいという暗黙の了解だった。
でも、真田はもうちょっと自分で頑張ってみたかった。
しかも、そんな卑怯なやり方でこの歩美が納得してくれるだろうかとさえ思えてくる。
(俺は歩美さんに、自分を認めて欲しいのかな……10歳も年上なのに、恥ずかしい……)
真田は自分の大人気ない感情に見えないように小さくため息をついた。
「では、歩美様の思うがままに、正々堂々、そして、ずる賢く、戦いましょう……」
真田はにっこりと歩美に微笑みかけた。
相手を貶したいのに、なかなか言葉が上手く見つからない。
「私と逃げてみませんか? 愛の逃避行です……」
何故か真田は蕩けた表情で、歩美の顎をその男性にしては長く色気のある指先で上げた。
歩美は、その目の前の艶やかな表情をしている男の顔を背けることができない。
だって、大好きなのだ。
真田という男に、心底惚れてしまったのだ。
「意味がわからないわ。誘拐だとか、愛の逃避行だなんて……」
アベルもそうだが、全ルイス・カルダンを敵に回すなんだなんて正気な貞ではない。
「貴方の自由をかけて……です。歩美さん……」
「ちょ、ちょっとどういうこと? 私の自由って……」
真田がその漆黒の瞳を歩美に向けた。
男らしい指先が歩美の頭を優しく撫でた。
歩美は、その真田の大きな手の重さを感じ、ただ、それだけなのに、体が火照ってしまった。
「大丈夫。すでにアベル総裁に、宣戦布告しました……」
その何を考えているかわからない二つの瞳が歩美を見つめた。
「な、何ですって! あんた、何のためにそんな事! こ、殺されるわよ。アベルは、まあ、そのいい人だけど、でも、見境いない時もあるし! 一緒に謝ってあげる! 」
「何をどうすると、いうのですか? 私は、貴方をカルダンやら、アベルとかに渡すつもりなんて、微塵もない……」
「……え、」
その深い色をした瞳が歩美に覆い被さる。
気がついた時には、彼の鼻筋の通った顔が、息さえも吹きかかる距離にあった。
微かに真田の口角が上がったのが見えた。
言葉さえも上手く出なかった。
真田が優しくその唇を歩美の柔らかな口元へと押しつけた。
彼の体温は意外に温かかった。
そして、名残惜しいかのように、ゆっくりと離れた。
全てが一瞬で、それと同時に永遠に思えた。
歩美は、その感触がなんだかわからなくて、思わず自分の唇を指で確かめた。
今起きたことと感触が信じられない。
「貴方は私をざわつかせる……」
真田が自分の唇をいやらしく舐めながらそう話した。
歩美が唖然としている。
でも、今の口元に感じた感触がそうさせたのか、それとも真田の言葉がそうさせたのか、歩美にはよくわからなかった。
「き、キスした! な、何よ! どうして……」
「……歩美さんは、意外と鈍感なのかな? 男がこんな風にキスするってどういう意味か、今時の小学生でもわかりますよ……」
歩美は自分の何かが壊れていくような感覚を味わっていた。
もうこれ以上、この男に忍び込まれたくないのだ。
まだ自分の口元には彼の柔らかな弾力の感触が残っている。
「わ、わからないわ!」
「わからないですか……、では……説明しますと、貴方みたいな方には、私はぴったりだと思うんですよ……」
「ぴったりって、な、何なの?!」
おかしいことになってきた。
今まで自分が真田を追っかけてきたはずなのに、なぜか立場がまったく逆なのだ。
「教えて欲しいですか? さっきの意味を?」
まるで嫌がらせのように、真田は楽しんでいるようだった。
その言葉を聞いて、歩美は唇を噛み締めた。
もうダメだ。
歩美は、もうパンドラの箱を開けたくなった。
我慢が出来ない。
先ほど誘拐とか、愛の逃避行とか言われても、それはまるで真田が言葉の遊びをしているようなのだ……。
「……お、教えて……何でキスしたの?」
真田が歩美の耳元に口をもっていく。
彼の息や近くに感じる体温が、歩美を緊張させた。
「歩美、大好きだよ……君を絶対に離さない」
歩美は自分の体温が沸騰しそうなくらいな嬉しさを感じた。
あ、あの堅物の、あの偏屈な、あの考えが全く見えない策士の真田が、自分を好きと言ったのだ。
信じられない!
嘘のようだ。
もしかして、聞き間違い?
本当なの?
歩美はわかっていないが、その心の声が言葉となって漏れていた。
真田が笑いを堪えていた。
歩美が気分を明らかに害した。
しかも、その笑っている姿さえ、歩美にとってはセクシーなのだ。
揶揄われたと思った。
「わ、笑ってる! やっぱり冗談なのね!?」
「ふっ、貴方も私のように難聴になったのですか? いいでしょう。まあ、時間がないので、今はこれが最後ですよ、歩美……」
「え、何よ?」
「これから、貴方が嫌がるぐらいに言ってあげますよ。好きだよ。歩美……。早く君の全てを欲しいくらい……」
きゃああーー!と歩美は心の中で叫んだ。
や、やばすぎる。
目をうるうるさせながら、歩美は狼狽えた。
でも、真田は普通にしている。
そして、何事もなかったように、ベットから降り立った。
「歩美さん、貴方に選択を差し上げます。私は貴方のしたい方に従います。カルダンと正々堂々と戦いますか? それとも、出し抜く作戦にしますか?」
「戦い? カルダンと? 何を……言っているの?」
ああ、そうだ。
真田はカルダンの宣戦布告したと言っていたのだ。
何を馬鹿なと思ったが、彼の一途な告白を聞いて、歩美も少し気が変わった。
好きな人と一緒に戦えるなんて、最高じゃないか。
自分の自由の為に、一戦交えるなんて、自分の最後の足掻きに相応しい。
真田は愛の逃避行とか、好きだとか言っているけど、本当に何のために、カルダンに喧嘩をふっかけているのかは、歩美もよくわからない。
本当に自分の自由のためなんて……正気じゃない。
でも、悪くもない。
いいじゃない!
ふふふっと歩美も何かやる気になってきた。
どうせ最後だ。
このおかしな男とひととき、この自由を味わうものいいかもしれない。
「……私を誰だと思っているよ」
「………工藤歩美、アユミ・ド・ロレーヌ様でございます……」
まるで歩美の昔からの従者のように真田が深くお辞儀をした。
「そうよ。正々堂々と、でも、ズルがしこく戦うわ! やってやる! アベルも叔母様も、あの祖母も鼻を明かせたいわ!」
「やはり、そうですか……」
真田はポケットに入っていた催眠性の液体が含まれていたハンカチをまたポケットの奥のビニールに入れ直した。
どうやらやっぱり思った通りだった。
本当は歩美が怯えていたり、頑固で承諾が取れない場合は、最悪ここで眠らせて、美代を外のベットに移して、この蓮司専用のパニックルームのボタンを押せば、24時間など軽く済んでしまう。場所がたとえ見つかっても、ここに入ることは著しく難しい。
先ほど蓮司にも、ここの使用コードをもらってきたばかりだった。
それはこれを使っていいという暗黙の了解だった。
でも、真田はもうちょっと自分で頑張ってみたかった。
しかも、そんな卑怯なやり方でこの歩美が納得してくれるだろうかとさえ思えてくる。
(俺は歩美さんに、自分を認めて欲しいのかな……10歳も年上なのに、恥ずかしい……)
真田は自分の大人気ない感情に見えないように小さくため息をついた。
「では、歩美様の思うがままに、正々堂々、そして、ずる賢く、戦いましょう……」
真田はにっこりと歩美に微笑みかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,781
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる